11. 星の導き
目が覚めると見知らぬ天井があった。しばらくの間、自分が今どこにいて何をしているのか思い出せずにいた。だが、朝の心地良い白い日差しが睫毛をくすぐって、窓の景色を眺めようと顔を向けた時、銀髪の少年の背中がそこにあった。
「夢、じゃなかった…」
星子は未だに自分の置かれている状況が不思議でならなかった。おはよう、と声をかけるのは苦手だった。その為、なかなか言葉が出せずにいると、不意に飛び込んできたディーアの寝顔を見て、不用意に胸がときめいてしまった。見れば見る程端正な顔立ちをしている。星子は上体を起こしながらまじまじとディーアの顔の作りを眺める。
本当にあの気色の悪いヒトデだったのかしら。にわかに信じがたい位に美少年だった。自分の肌と比べて、人形のように透けて白かった。
ディーアを見ていると、どこか懐かしく温かい感情を覚える。この感情の正体はよく分からなかった。あまり知るのを拒んでいる気もした。夢中になって見つめていると、青い瞳と目が合った。
太陽にも負けないような優しい笑みを浮かべながら「おはよう星子」とディーアは言う。一気に顔が熱くなって、跳ね退いた。
「お、おは、おはよう」
声がひっくり返り、恥ずかしさで頭が沸騰しそうだった。
「おや、どうしたんだい。星子」
「別に!な、なんでもない!」
「変な星子」
ディーアは相変わらず飄々としている。
そういえば、昨日とは違ってディーアの体は布を纏っている。何の素材でできているのか分からないが、ここの住民達が着ているような雰囲気の衣装だ。白を貴重とした生地に、薄い水色の透けた素材の布が腹部や腕を隠していた。
「ちゃんと服に着替えたんだ」
「だって、裸だと星子が目を合わせてくれないから」
「当たり前でしょ」
それにしても、きちんとした服に身を纏えば、何だかどこかの国の王子様のように見える。と星子は思った。
「どうしたの?星子」
「な、何でもない」
星子は顔を背けてごまかした。
「ゼウス様に挨拶をしてからここを出発しよう」
「どこに行くの?」
「星の導きを示す羅針盤を観測すれば分かるさ。あれはホッリビスの、不純な放出物に反応してくれる。それが最も強く反応する方へ行けばきっと、何かが見つかるはずだ」
「そう……、よく分からないけど、ディーアについて行けば大丈夫よね」
星子はベッドを抜けて、欠伸を漏らした。平和な朝だ。こんな朝が毎日なら、ここにずっと居るのも悪くない。そう心で呟いて窓の外へ視線を向けた。
城の王室へと向かった。王ゼウスは今日も威厳に満ちた白髭を撫でている。
「来たか」と、ゼウス。
「はい」ディーアは片膝をつき頭を下げて敬礼する。
「それで、心は決まったか」ゼウスは星子の方を見た。
「あの……、私、やってみようかなって、思ってます」
「そうか、感謝する。恐怖を手懐けたか?」
「いえ、まだ怖いです。でも、私にはこのディーアがついてるし、何とかなるかなって」星子はたどたどしく言った。
「死に星か、そなたの事を守り導いてくれるだろう。ただし、一つだけ忠告がある。これから先、そなたは精神力を高め、より強い星の力に守られるだろう。だがそれは同時に脅威ともなる。自身の精神に気をつける事だ」
「それはどういう事ですか?」星子は、ゼウスの言葉に少し不安げに眉を寄せた。
「今はわからなくとも良い。運命に身を任せるのだ、星子」
「分かりました」未だに拭えない不安の中で、小さく呟いた。
「リンカーになったそなたに、これを。詳しい事は死に星が教えてくれるだろう」
ゼウスは、星子に円盤を渡した。円盤には三つの宝石が埋められており、真ん中には昨日見た夜空そっくりの宇宙が描かれている。
「ワシから言うことは以上だ。星子、どうかこの世界を救ってくれ。そしてディーア、星子の事をよろしく頼むぞ」
「承知しました」ディーアは敬意を込めてまたお辞儀をした。
二人は城を後にし、城下町へと繰り出した。昨晩の祭りの賑わいが嘘のように、街は静かだった。
「星子、買い物に行こう」
「え?買い物?」
「うん、星子の服を買うんだ」
「でも、私に似合う服なんて…」
「大丈夫だよ、僕が星子に似合う服を見立てるから。それにその服だと、ダメージを受けやすいし。星の力を吸収しやすい素材の服に着替えた方がいい」
「ディーアに任せる。私よりきっとセンスいいから」




