最終話 転生※挿絵あり
神を倒したわたしたちは、再び天空の階段を辿って、下界へ降りてきた。
「終わったな……すべて」
リーゼロッテがつぶやく。
「なんだか、全部夢だったみたい」
とセレーナ。
しばらく三人とも無言で歩く。
わたしは足下へ目をやる。
「ねえ、にゃあ介。ホントにそれでいいの? 元の姿に戻れるんでしょ?」
すると、ぬいぐるみのにゃあ介は言う。
「これでいい。ワガハイはこれが気に入っているニャ」
「ふふ。でもさー、見てみたいな、にゃあ介の真の姿。じつはすっごいイケメンの王子様とかだったりして」
「勝手に想像を膨らますんじゃニャい」
そんなことを話ながら歩き続ける。
ふと上を見上げる。
何も見えない。
でも空の向こうには今も、誰もいない神殿が残されているのだ。
「もう、この世界は、神様のいない世界になっちゃったんだね」
「……そうね」
「かまわないさ。あまりよい神ではなかった」
「ねえにゃあ介、わたしって酷いかな? 人間の面倒を見ることを放棄しちゃった。……わたしのせいで、世界が混沌に陥るかもしれない」
そう考えると、罪悪感が募ってくる。
「神って言うより、わたしって、悪魔?」
わたしが顔をしかめていると、にゃあ介は言った。
「……自分で言ったニャろ。人間は、自分の面倒くらい、自分でみれる。もし、みれずに、滅んだとしても、それは人間の責任だ」
「…………」
しばし沈黙。
「とにかく、これからは、人間は完全に自由ってことね。それはいいことではなくて?」
セレーナが言う。
「それはたしかニャ。人間は自由。……いい意味でも、悪い意味でもニャ」
「いい意味でも、悪い意味でも、か。気をつけなくちゃな」
リーゼロッテがうなずく。
「自由かあ」
わたしは言う。
「これからどうする?」
いざ何をしてもよいとなると、何も思いつかなかったりする。
わたしは、すこし考えて、にゃあ介に訊く。
「これからどうする、にゃあ介?」
にゃあ介のことだから、また偉い人の言葉を引用して、何か教えてくれるかもしれない。
すると、にゃあ介はこう言った。
「さあ? 何かうまいもんでも食いたいニャ」
あ、中二病より食い気が勝った。
「言われてみれば、わたしもお腹へった」
「ミオンは、いつだって、花より団子だニャ」
「だって、わたし、人間だもん」
わたしたちは笑う。
「――ルミナスへ、戻ろう」
「ルミナスへ?」
「うん。チコリやリーズたちも連れて。校長先生や、ガーリンさんたちが待ってる」
「そうね。きっと、先生たちが学校を再建してくれてるわ」
「私は大いに賛成だ。まだ勉強も途中だったからな」
「そのあとはどうする?」
「そのあと?」
「ええ。魔法学校を卒業したら、二人はどうするの?」
「そうだな。私は、医者になるか、学者になるか……。セレーナは?」
「私は実家に戻ってビクトリアス家を継ぐことになるかしら……。それとも、また三人で冒険でもする?」
「もー、そんな先のこと考えるのはまだ早いよ。なんていったって、自由なんだから。それに……」
わたしはこぶしを握って言う。
「わたしはまだまだJKを満喫したいもん!」
「そうね」
「そうだな」
リーゼロッテとセレーナは笑って言う。
「あら……」
セレーナが天を見る。
「雨?」
言っているうちに、結構な勢いで雨が降ってくる。
「まいったな。どこかで雨宿りするか?」
そのとき、わたしの心にある色が浮かんだ。
信じられないほどきれいな赤。
「……ううん。さあいこう。この雨は、すぐやむよ」
「? なぜそんなことがわかるの?」
「だって今日は、すごくきれいな夕日が見られるから」
「どういうことだミオン?」
「わたし、加速魔法を使って、すこしだけ先を見てきちゃったみたい」
「なんだって?」
「本当なの、ミオン。他に何を見たのか、おしえて」
「えへへ~、ないしょ!」
「ずるいわ、ミオン。隠しっこなしよ」
「そうだぞミオン。おしえろ」
「しーらない」
「あっ、まて」
「まちなさい」
二人と一匹に追いかけられながら、わたしは早足で歩く。
見上げると、雨はもう上がり始めている。
雲間から差し込む陽の光が、岬の景色を照らす。
岩で波が砕け、白い飛沫がきらめく。
深い海の蒼は、光を受けた場所だけが淡い金色に染まり、揺れる。
潮の香りを含んだ風が頬をなで、草原を渡っていく。
いつもと同じように見えて、ちがう。
眼前に広がる世界は、もう、これまでと同じではない。
偽りの神は去り、世界は生まれ変わる。
人々は、今日、全員が転生したのだ。
まだ誰も見たことのない、自由な世界へ。
(了)




