第十六話 ナザーロ最深部
「うぇー、気持ち悪い!」
わたしは思わず悲鳴を上げる。
「あれが、ケイブワーム……」
巨大なミミズのモンスター。灰色の体をニョロニョロとうねらせて、気持ち悪いったらない。
「帰ろかな……」
(まてまて。せっかくの機会だ。戦ってこい)
「えー、やだなあ」
駄々をこねながらもわたしは足を踏み出した。
するとケイブワームは突然、こちらめがけて飛びかかってきた。
(動きをよく見ろよ)
言われたとおり、わたしはケイブワームを凝視する。見たくないけど。
スライムより素早い。それに動きが不規則だ。
……だけど何でだろう? 負ける気がしない。
ケイブワームは体をくねらせながら、放物線を描いて空中を跳んでくる。
その口に、たくさんの歯があるのまで見えた。
「いやーっ!」
わたしは叫びながらも、左足で地面を蹴る。
にゃあ介に言われたことを忘れてはいなかった。避ける動きが、攻撃への一連の動き。
跳びのくと同時に右手を振り抜ぬく。
ズバッ、と、嫌な手応えがして、ケイブワームの胴体を真っ二つに切り裂いた。
「ねえーもう死んだかなー」
わたしは横を向いたままにゃあ介に訊ねる。ケイブワームは切られた後もうねうね動いていたので、とても見ていられなかった。
(やれやれニャ……)
バシュッと音がして、振り返ると、モンスターは魔石化していた。
「やったー。魔石化しちゃうと、かわいいもんね」
薄く灰色がかった宝石を拾い上げ、わたしは奥へ進んだ。
しばらく行くと、行き止まりに突き当たった。もう下へ降りる階段もない。
「ここが最深部かな?」
わたしはバンザイして叫んだ。
「初心者の洞窟せいはー!」
(まてミオン、あれは何だ?)
にゃあ介の声に目を凝らしてみると、壁に、石の扉らしきものがある。
扉の前には木板が地面に落ちていた。
「何だろう。何か書いてある……読めないや」
石の扉に触れる。
と、一瞬扉が青白く発光する。
「わっ」
驚いて手を引っ込める。
もう一度扉に手をあてぐっ押すと、少し重たいが、ゆっくりと扉が開いた。
中に足を踏み入れると、大量のなにかが蠢く気配がした。
「……帰る!」
それは大量のケイブワームだった。ここはケイブワームの巣だ。
(ミオン、丁度いい)
「なにが丁度いいのよ!」
(戦いの経験を積むには丁度いい場ニャ。行くぞ)
「やだやだ帰る帰る」
(これだけいれば、魔石がざくざく手に入るぞ)
「でも……」
(魔法学校の授業料、高いんじゃないかニャあ~)
「う……」
(魔法、習いたいんニャろ?)
「…………」
(いやならいいけどニャ~)
「ああもう、わかったわよ! 戦えばいいんでしょ」
ネコにまんまと丸め込まれるわたし。
一歩踏み出すと、ケイブワームの群れが一斉にその首を向けてくる。
そして……
ウニョウニョ。
ウニョウニョウニョ。
「ぎゃあ―!」
次々と飛びかかってきた。
(集中だ、ミオン!)
「!」
まず、真っ先に跳んできたケイブワームに向かって、短剣を横へ払う。
一匹目。
次に、右側から来たのを半身で躱し、袈裟懸けに叩き切る。
二匹目。
そのまま体を捻り、左側のを切り上げる。
これで三匹。
「うぉおおおりゃぁあああ!」
空中のも、地上のも、駆け回って手当たり次第斬りまくる。
速く倒せば、その分、気持ち悪い姿を見ずに済む。
気づいた時には、あんなにいっぱい居たケイブワームも、一匹になっていた。
「はぁはぁ……、あんたはどうする?」
最後の一匹に訊ねると、そいつは身をくねらせて躍りかかってきた。
わたしは右斜め上へ向かって短剣を振り上げる。
真っ二つになったケイブワームが、音を立てて地面に落ちた。
周りには、もう、魔物は残っていない。
それを確認すると、わたしは魔石を拾い集め始めた。
(上出来だ、ミオン。やつら、残りは逃げてしまって、もう襲ってこないぞ)
「ミミズの化け物に怖がられるなんて、ちょっとやだなあ……」
わたしは一つ、ため息をついた。
◆
帰りに、おみやげ屋さんのおじいさんに訪ねてみる。
「あの、洞窟の一番奥にある、変な模様の入った石の扉って一体何なんですか」
「お嬢ちゃん、最深部まで行ったのかい。あそこは魔物部屋だ。危険だから封印されているんじゃよ」
「封印?」
「看板が掛かっていたろう? 危ないから触っちゃダメだよ」
「へ、へえー」
わたしはぎこちない笑顔でおじいさんに手をふって、冒険者ギルドへと向かった。




