第十七話 夜の港※挿絵あり
夕暮れの中をサンエルモントの街へ向かう。
さすがに疲れて体の節々が痛いが、今はその疲労が心地いい。
しばらくすると街の灯りが見えてくる。
暮れなずむ空が、家々を朱に染めていた。
街道を歩いていると、数人の冒険者を伴って歩く見知った顔があった。ラウダさんだ。
「おおミオン殿。初心者の洞窟へ行っていたと聞きましたが。その表情じゃたくさん稼いできたようですな」
「はい!ちょっとはりきり過ぎちゃいましたけど」
ラウダさんたちと一緒に冒険者ギルドへと足を運ぶ。
ラウダさんは、以前わたしを助けてくれたみたいに、駆け出し冒険者達とパーティを組んでサポートしていたらしい。
ギルドに着くと、受付のサマンサさんの元へ行く。
「また一杯『スライム』とってきたねえ」
ジャラジャラと音をさせながら袋の中の魔石をカウンターにひろげる。
「え、ちょっと、これ『ケイブワーム』じゃないか!」
サマンサさんが目を丸くする。
「え、あ、はい」
「なんと!これも、これも……これも! 一体いくつあるんだ。ミオン殿、どこでこんな……」
横から覗き込んだラウダさんが驚いた声を上げる。
「あの、初心者の洞窟で……」
「封印の部屋に入ったのかい!」
ラウダさんの大声に、酒場の人たちがザワッと沸く。
「何だって、封印の部屋?」
「あの娘が?」
「信じられん……」
「はい、あの、ダメなんですか?」
「いや、ダメってこたないけど。驚いたね……」
「こいつはたまげたなあ!」
ラウダさんも大げさに驚く。
「すごい成長だ! ついこの間まで、ゴブリンに怯えていたのに……いや」
とラウダさんは顎に手を当て、
「レッドリザードとの戦いで見せたあの動き……やはり私の目に狂いはなかったか!」
「大したもんだ! ミオンちゃん、すごいよ」
わたしは二人に褒められてモジモジしている。
「ありがとうございます。あの、わたし、ちょっと用があるので……」
「ミオンちゃん、お金お金!」
「あ、いけない、そうだった。……わ、金貨!」
「そそっかしい子だねぇ」
「ありがとう、サマンサさん」
サマンサさんにお礼を言って、わたしは酒場へ目を向けた。
酒場の人たちは、みんなしてわたしを見ている。
は、恥ずかしい。帰ろかな……。
いや、ダメだ。聞いていかなきゃいけない情報があるんだ。
えっと、こないだの、魔法学校について教えてくれた人、いるかな……。
あっ、いた。
後ろからサマンサさんとラウダさんの、前から酒場の人たちの視線を感じながら、そのテーブルへ駆け寄っていった。
「あの、この前はありがとうございました」
「お、おう……」
その人は、面食らったようにそう答えた。
わたしは周りの視線をなるべく気にしないように務めながら、言った。
「わたし、西へ行くことに決めました」
「西? あ、ああ……前も言ったが、船は滅多にないぞ」
「はい。それでも探すだけ探してみます」
「そうか。まあ今の時期なら西へ向かう商船もあるかもしれない。……どれ、西の地図なら持ってるから、向こうへ着いてからの道を写しといてやろう」
「ありがとうございます!」
男の人は、ポケットからくたびれた羊皮紙とペンを取り出すと、地図を写し始めた。
わたしは思った。もしかして、この世界で紙って貴重なんじゃないのかな。気前よく地図を書いてくれるなんんて……そう考えたら、うるっときた。
「あの、お名前は……」
今更名前を聞くわたし。地図をくれるからってちょっとゲンキンだろうか。
「あ? 俺か? 俺はショーペイだ。変な名前だろ」
「そんなことないです。わたしミオンです! ありがとうございます!」
「あ、ああ、おお。今地図書くから待ってろ」
わたしはショーペイさんの手元をじっと見つめた。ラウダさんといい、ショーペイさんといい、ここのギルドの冒険者はみんな親切だ。西へ行って強くなったら、いつかきっとお礼に戻ってこよう。そう思った。
「ここが、この街、サンエルモント。で、こっから海を渡ると西の港町、ポートルルンガ」
「ポートルルンガ……」
わたしは地図をくれたショーペイさんに何度も何度もお辞儀して、酒場を後にした。
ギルドを出るとき、サマンサさんとラウダさんに挨拶していく。
「いろいろ、ありがとうございました、サマンサさん、ラウダさん」
「街を出るのかい、ミオンちゃん」
と、サマンサさん。
「西の大陸へ行くんです」
するとラウダさんが、
「ミオン殿なら、どこへ行っても大丈夫。……私もうかうかしていられない。もっと修練を積まなくてはな」
「ありがとう、ラウダさん」
わたしは何度もお礼を言った。
「また来なよ」
「待ってますぞ。お気をつけて」
「はい、絶対来ます!」
元気よく返事して、わたしはギルドを後にする。
「そういえば、まだ港には行ったことなかったなぁ」
街の中を流れる川に沿って歩く。あたりは大分暗くなってきたが、まだ風はあたたかい。
しばらくすると、潮の香りと共に波音が聞こえてきた。
「わぁ、きれい」
夜の港は、あちこちの船に明かりが灯っていた。港全体がカラフルに彩られているみたい。
そして夜の海!
夜の海が、赤や青や緑の明かりをゆらゆらと水面で反射して、すごく幻想的だ。
水平線の向こうに巨大な土星のような星が見えている。夜の方が、くっきり輪が見えるようだ。
欄干によりかかりながら、波音を楽しむ。夜風が髪を揺らす。
時おり跳ねた魚が水面でポチャッと音を立てる。
海ってなんだか時間がゆっくり流れるみたい。
(ミオン)
不意ににゃあ介が語りかけてきた。
(魔法を覚えてどうするんニャ)
「……わたし、子供の頃からずっと魔法に憧れてた」
わたしは遠くを見つめながら答える。水平線は惑星に照らされ薄緑に輝いている。
(たしかにそんな本ばっか読んでたニャ)
「ラノベのこと?」
そう、ラノベの主人公みたいに、魔法を操ってカッコ良く活躍してみたかった。
七夕の短冊にも、卒業文集の将来の夢にも魔法使いになりたいって書いてたくらいだもん。
(ふむ)
いつの頃からか魔法なんかないって気付いて、前の世界では諦めてた。けれど、この世界には魔法がある!
学びに行かなくちゃウソでしょ。
(そうか。――鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ)
「は?」
(生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。マックス・デミアンの言葉だ)
ちょっと何言ってるか分からないけど、応援はしてくれてるみたい。
とにかく行こう。魔法を覚えに。




