第九十九話 魔法契約について
わたしたち三人は放課後の教室でエスノザ先生の特別授業を受けていた。
今日の授業は、魔法と魔力消費量の関係についての話。
先生は後ろ手を組み、教卓の前を左右に歩きながら話している。
「……したがって同じ魔法でも、強度をある程度上げることができます。しかしその分魔力の消費量も多くなる。わかりますか、セレーナさん」
先生が視線をセレーナに向ける。
「はい。ミオンの炎と私の炎の大きさが全然ちがうことからもわかります」
セレーナが答えると先生は満足そうにうなずき、話を続ける。
「そしてもちろん、使う魔法の種類によっても魔力の消費量はかわる。ミオンさん?」
「わかります。とくに時の魔法は魔力の消費が激しいです」
わたしはそう答える。
「そう」
先生はうなずき、再び歩き始めた。
「魔法には色々なものがあります。火の魔法、水の魔法、回復魔法……」
ふと、立ち止まって黙りこむ。ちょっと眉根を寄せて、シルクハットに手をやっている。
何か考えこんでいるみたい。どうしたんだろう?
「ときに、みなさん――」
ようやく先生が口を開いた。
「ルミナス・ウィザーディング・コンテストにおいて、男子生徒三人を気絶させたことがありましたね」
ぎくり、としてわたしたちは固まる。
「あれ、いったいどうやったんです?」
エスノザ先生はじっと、わたしたち三人を見つめている。
わたしたちは顔を見合わせる。
「あの……」
「えっと……」
もごもごしていると、リーゼロッテがはっきりとこう言った。
「私たちは魔法の契約を行なった」
エスノザ先生の眉がぴくりと上がった。
わたしたちは、こくり、とうなずき合う。
そしてエスノザ先生に事の顛末をくわしく話し始めた。
◆
「……ふーむ」
わたしたちの説明を静かに聞いていた先生は、話が終わると顎をさすりながら言った。
「麻痺の魔法……」
窓の外に目を向けて、
「しかし信じられませんね……数百年間なかった新たな魔法の契約を……」
そしてせわしなく歩きまわり、小さくぶつぶつとつぶやいている。また何か考え事をしているみたい。
「ひとつ、私にかけてみてくれませんか」
「えっ」
「この身で確かめてみたいのです」
「で、でも……」
「構いません。やってください」
先生は両手を広げて催促する。
ためらいながらもわたしは椅子から立ち上がり、エスノザ先生に向かって両手を伸ばす。
「本当にいいんですか?」
「大丈夫大丈夫、さあお願いします」
先生はニコニコ笑っている。何か考えがあるんだろうか。
「それなら……」
わたしは呪文を詠唱する。
「来たれ彼を吹はらう患難の聲よ、精霊の吹かす風よ……パラライズウインド!」
一陣の風が吹き抜け、エスノザ先生へと向かう。
風を受けたはずの先生はしかし、笑顔のまま真っ直ぐ立っている。
「すごい! さすがエスノザせんせ……」
バターン!
先生はうしろざまにゆっくりと倒れた。
◆
「ふー、……もう大丈夫です」
先生は上半身を起こしながら言う。
「必死で耐えてみたんですが、ダメでした。……これがパラライズウインド……」
そして、先生が思案げな顔で沈黙する。
も、もしかして、怒られるんだろうか。
わたしが緊張していると、先生は立ち止まり、言った。
「頼みがあるのですが」
「え?」
突然の言葉にわけがわからずにいると、
「もしまた、新しい魔法を契約したら、できれば私にも教えてくれませんか」
先生は、はちきれんばかりの笑顔で言う。
「興味が抑えきれなくてね。私も魔法の教師ですから」
わたしたちは思わずにっこりと笑い返し、
「わかりました。エスノザ先生になら」
と答える。
「ありがとう。……まあ、数百年に一度の奇跡ですから、そうそう起こせるものではないでしょうが」
そう言って残念そうに笑う先生。
わたしは、もじもじしながら、小さく手を上げる。
「どうしました? ミオンさん」
「あのー、実はすでに二つ目の魔法契約も終わってまして……」
「なんですって!?」
エスノザ先生が、机に手をついて身をのりだし、先生らしからぬ大声を出す。
「ウワオギと言う魔法なんですけど」
「一体どんな精霊と?」
目を輝かせ、興味深そうに訊ねる先生に、
「そ、それが」
わたしははにかんで答えた。
「あは、悪魔召喚しちゃったんです」
◆
エスノザ先生の驚きようはなかった。
感心するやら呆れるやら、「とにかく気をつけてください」と先生は言った。「悪魔は危険です」とも。
そしてもちろん、その魔法を教えて欲しい、と。
そう頼まれ、わたしたちは先生に黒魔法のウワオギを教えたのだった。




