第133話 「レクスの困惑」
その問いに、アイラが一番先に声を上げた。
「わたしはアルさんのそばにいたいです。あんな思いは……もういやです」
シギルに俺がやられた時のことだろう。
フィリアがすぐ続いた。
「わたくしもですわ」
フィリアは迷いなく胸を張る。
「アルヴィオのそばには、取引も、判断も、その場で理解できる人間が必要ですもの。戦闘だけが戦いではありませんわ」
「僕もアルヴィオ君のそばにいるよ」
イオナが軽い調子で手を上げる。
「こっちのほうが役に立つと思うしね。ちょっと試しておきたいこともあるんだ」
三人の言葉のあと、部屋の視線が自然と俺に集まった。
俺は、ゆっくり息を吐く。
「……助かる」
そう言ってから、視線をレイラへ向けた。
「ただ、レイラたちには別の用事を頼みたい」
レイラが片眉を上げる。
「別の用事?」
「ああ。王宮に入るだけが作戦じゃない」
机の上の地図を指で叩く。
「グラン・クリスタリアが動く日、おそらくその日に助けなければいけない人たちがいる」
ミラが小さく頷く。
「奴隷……だね」
「そうだ。だから別動隊がいる」
俺は言葉を切ってから、順に名を呼んだ。
「レイラ、ヒカリ、カイル」
ヒカリが少しだけ背筋を伸ばし、カイルが真顔になる。レイラは腕を組んだまま、続きを促すように顎を引いた。
「王宮の中で動く連中とは別に、外で押さえなきゃいけない場所がある。奴隷の移送経路と、王宮の外周だ」
俺は地図の上を指でなぞる。
「王宮に運び込まれる大型の荷と、奴隷が使われてるなら、その周辺は必ず慌ただしくなる。表に出る連中もいるし、逆に隠したい連中も動く。そこを叩く」
「なるほどねぇ」
レイラが低く笑う。
「中だけ見てると、足元をすくわれるってことかい」
「そういうことだ。王宮の中で何かが起きた時、外で動ける戦力が必要になる」
「そういうことなら、任せときな」
レイラは軽く肩を回した。
カイルも頷く。
「了解です。外周の警戒、逃走経路の確保、必要なら攪乱ですね。荒事は苦手ですが善処してみます」
「ああ。ヒカリは、その中でちょっと機動的に動いてくれ」
「えっ、どういうことですか?」
「王宮側で何かあったら、ヒカリはすぐに向かえるように動いてほしい。それ以外は、レイラたちに合わせてくれ」
「わかりました」
ヒカリの返事には、迷いがなかった。
そこまで言って、俺は一度みんなを見渡した。
王宮に入る組、外で動く組、俺のそばに残る組。
少しずつ、形ができていく。
「で、こっちはこっちでやることがある」
ルミナプレートを指先で軽く叩く。
「リルを売る。経済的に土台を壊す」
リーリアが、まだ半分くらいわかっていない顔で首を傾げる。
「アル兄、それって……すごいことするって意味?」
「すごいかどうかは知らんけど、嫌がることをするのは確かだな」
「それならアル兄っぽい!」
どういう評価だよ。
だが、少しだけ空気が緩んだ。
フィリアが、机に手を置いたまま言う。
「では、こちらは時間勝負ですわね」
「そうだ」
「王宮潜入班は四日後の搬入を狙う。別動隊も同時に動く。そしてこちらは、その前後で相場を崩す」
クロエが確認するように口にする。
「うん。それでいこう」
髪の色が変わったままなのに、クロエの声はいつものままだった。見た目だけは別人みたいなのが、まだ少し落ち着かない。
「……慣れないな」
俺が思わず呟くと、クロエがじろりとこっちを見る。
「私だって慣れてないよ」
「いや、見てる方もだ」
「うるさいな」
そのやり取りに、レイラが吹き出した。
「ははっ。まあ、派手でいいじゃないか」
「レイラにだけは言われたくないよ」
「失礼だねぇ」
そんな軽口のあと、部屋は自然と静かになった。
誰もが、次に何をするかを理解したからだ。
四日後、そこが山だ。
俺はゆっくり息を吐く。
「……最後に、もう一つ」
視線を横へ向ける。
「リーリア」
「うん!」
「レクス」
「ああ」
「二人にも、ちゃんと働いてもらうぞ」
そこで俺は、フィリアへ視線を向けた。
「フィリア。あれは準備できてるか?」
フィリアは待ってましたとばかりに胸を張る。
「もちろんですわ」
すぐに視線を扉へ向ける。
「エルヴィナ」
「はい」
控えていたエルヴィナが一礼して部屋を出た。
数秒後、エルヴィナは大きめの衣装箱を抱えて戻ってくる。
「お持ちしました」
「開けてくださいな」
フィリアの声で、エルヴィナが蓋を開く。
中に入っていたのは、派手だった。
リーリアが箱の中を覗き込む。
「うわぁ……すご……!」
緑の瞳が、一気に輝いた。
「……服?」
レクスが困惑した声を漏らす。
「服ですわ」
フィリアは涼しい顔だった。




