風鈴
揺れない、風鈴。
バスを降りると、すぐ目の前に古びた木の門が佇んでいた。そこにはいくつかの小さな風鈴が吊り下げられていて、ただじっと風を待っている。
昨晩の雨風が嘘みたいに何処かへと消えて、今日は朝からかんかんの日照りとなった。雨はおろか、風一つ吹いていない。時間が止まったかの如く微動だにしない風鈴は、照りつける太陽光を嫌と言うほど反射している。つい、「これじゃ逆効果だなぁ」と愚痴を溢す。
田舎の夏というのは、どうにも都会人には耐え難いものがある。生まれも育ちも東京だった僕は、毎回のように、着いた時点で些かくたびれてしまう。強いて言うならば、門に絡まる紫陽花が2、3輪、青々と咲いているのが責めてもの救いだろう。
「……行きたくねぇ……」
暑さと長時間の移動による疲労にぐったりしながらも、僕は奥にある寺務所へと足を進める。
7月23日、今年も僕はここに来ていた。
あの日から2年、365×2日、365×2×24時間、365×2×24×60分、これほどの時間が経ったのに、たった一人を忘れることすらできない。
—————未だに、先輩の全てが鮮明に頭に残って離れないでいる。嫌に整った顔立ち、切れ長の目、その奥に覗く真っ暗な淵のような瞳孔、ボサボサの長い黒髪、空っぽな響きをしたよく弾む声、濃い煙の匂い、細い腕、そして最後に交わした言葉まで。
最初は忘れようと努めたが、却って記憶に焼き付いていくばかりだったから、しばらくして諦めた。
先輩が何故あんなに唐突に死んだのか、今の僕には知る由すら無いし、知りたくもない。
だけど、だからこそ。
今年も性懲りも無く、僕は先輩に逢いに行く。




