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3-2 僅かな可能性

「...というわけ。やな、どう思う?」

いつもの週末デートで、ホタルは金の指輪をやなに渡した。

やなは指輪を優しく触っていた。

「裏に刻印が入れているみたい。」

「そう...?見せて。」

ホタルは指輪を高く上げて、裏の文字を読み取ろうとしていた。

「Cielucioles...?日付もあるよ。20200213、今日だね。」

「ラテン語系みたいな単語だけど、そういう単語ないな。」

「ないの?」

「私の知っている限り。」

ホタルは単語をメモに書いて、見つめていたが、それ以上の情報を見つけ出せなかった。

「今日の日付が書かれているか。ケイさんの仕業かも。」

「兄さんの...?」

「...まぁ、ケイさんの友人に聞いてみたら?」

「兄さんの友達に?」

「指輪を加工するには、器具と環境がいるんでしょ?」

「...!だよね!」

ケイと学科を交換したことがあるホタルは、両方にも知り合いがいた。

ケイと金属加工の関係性を突き止めるには、そう時間かからないはず。

「じゃあ、やなを家に送ったら、みんなに聞いてみるよ!」

「うん。」

Cieluciolesね...。

やなは微笑んだ。


やなを部屋に送ったあと、ホタルは着信履歴から、同期の知り合いの連絡先を見つけ出した。

「ケイ?あぁ、あいつ、そういう授業を受けたよ。」

「...!本当?」

「うん。仕上がりが超すごかったから、覚えてた。」

「どこで、誰の授業?」

「あの先生ならまだ学校にいるはず、名前なんだっけ...」

向こうから本をめくる音がした。

相手が、卒業アルバムなどを探しているらしい。

「あぁ、紅谷先生だ。」

「紅谷先生...わかった。ありがとう。」

電話を切ったホタルは、かっこよくオートバイクに乗った。

そして、エンジン発動。


「まぁまぁ、君がホタルさんなの?」

「紅谷先生...?」

「ごめんね、はしゃぎすぎちゃった。」

紅谷は笑って座り、ホタルもその隣の席についた。

二人は今、紅谷が管理している金属工房にいて、横には作品を作っている学部生たちがいた。

「ケイくん、よく自分の双子の妹の話をしてたんだよ。しかし、本当によく似てるね。」

「よく言われます。」

「そりゃそうよ。ケイくんの代わりに授業に出ても、私ならわからなかったかも。」

「それは残念でした。兄さんがここに通っているのを、今日まで知りませんでしたので。」

「まぁ、学科違うからね。それで?どうして急に私に?」

「その、兄さんがここに通っていた頃、金の指輪を作っていませんでしたか?」

「金の指輪...?あぁ、あったよ。」

「その指輪について覚えていることはありますでしょうか。原料や形、作った理由でも。」

「すみません、あまり詳しくなくて。」

その時、ちょうど紅谷先生に質問しに来た生徒がいたので、ホタルは微笑んで、授業を優先してと言った。

「先生、ここにサファイアをつけたいのですが。」

「いいですね。金属の色も合わせたらさらによかったかも。」

「でしたら、純金でどうですか?色もすごく似合うと思います!」

「純金ね...純金に宝石は少し...」

紅谷と生徒の会話を聞きながら、ホタルは教室を観察していた。

ケイの気配はないが、ケイの瞳に映った場所ではあった。

ここは、ケイが来たことがある場所だ。


「すみませんねホタルさん、お待たせ。」

「いいえ。ところで先生、みんなはいつも、近くのお店で材料を買うのですか。」

「大体そうよ。あぁ、そういえば、近くにパスタ屋さんがいたでしょ?その隣の小路にあるお店がよかったと、ケイくんが言ったような。」

「兄さんがそこに行ったかもしれませんと?」

「ありえるね。あそこには金属や宝石のお店が結構いて、私たちがよく通っている場所なんだ。」

「...わかりました。ありがとうございます。」

ホタルは立ち上げて、紅谷に頷いた。

「一つずつ聞きに行くつもり?何年前のことだったし、さすがに覚えてくれないと思いよ。」

「ですが、そこには可能性があります。」

「可能性...?」

「兄さんがどうやってこの指輪を作ったのか、どうして作ったのか。あの頃の名瀬ケイが知りたいです。」

「知って、どうする?」

「わかりません...が...どうすれば、知りたい答えを見つけるのかはわかっています。」

ホタルは微笑んで、金属工房から出て、小路に向かった。

紅谷の言った言葉に一理あることも、拘っている自分がバカみたいなのもわかっている。

でも、ホタルは知りたい。

兄さんがどんな値段でルビーを買ったのか、どうやって買ったのか、どうして買ったのか。

Cieluciolesの意味も。

知れば、きっとケイに近づけるし、遠ざかるのでしょうと。

ホタルははっきりと知っている。

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