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カボチャ頭の怪盗はハロウィンに奇跡を起こす  作者: 黒瀬 蓮


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3/3

後編 ハロウィンに起きた奇跡

「助けられなかったね?」

 背後から小さな声がした。


「……っ!?」

 振り返った瞬間、さっきまで腕の中にいた男の子が消えていた。


 手を見ると黒い手袋。視線を下ろすと、いつの間にかシルバーの格好になっている。顔に触れると、さっきまで被っていたかぼちゃも消えていた。


「えっ……?」

 背後に何かの気配を感じる。そういえばログチーはどこに行ったんだ?


ログチーだと思い、呆れながら声をかける。

「ログチー? 脅かすなよ、びっくりすんじゃん……っ!?」


 視線を向けるとそこには小さな男の子が立っていた。


「だ、誰だ?」

 まさかさっきの男の子? いや……でもさっきの子は……。

 拳を強く握る。


「ねぇ? ちゃんと僕のこと助けてよ……」

 ゆっくりと男の子がこちらに近づいてくる。


「さっきの奴か……? 良かった、生きてたんだな……」

 思わずホッとして顔を緩める。

 だけど、近づいてきた顔を見て息が止まった。


「……っ!?」

 目を大きく見開く。目の前にいる男の子の顔は——。


 目も、鼻も、口もなかった。

 驚いて後ずさると、床のぬめりで滑って尻もちをついてしまう。


「……くっ」

「どうしたの? もしかして、僕が怖い?」

 男の子が俺の顔を覗きこんでくる。顔がないから表情はわからない。


「……」

 言葉が出ない。何も言えねぇ。それが怖さからきているのかすらわからない。


「僕はね、誰にも必要とされてないんだ」

 男の子がポツリと呟く。


 冷たい手が俺の頬に触れた。

 ゴクリと唾を呑む。


 立ち上がろうとしたけど、なぜか身体の自由が利かない……。


「ねぇ?」

 男の子が両手で俺の頬に触れてくる。その手はとても小さくて少し震えている気がした。


「……?」


「僕は……必要なのかな?」

「えっ?」

 消え入りそうな声で男の子は尋ねてきた。

 触れた手から寂しい気持ちが身体中に流れ込んでくる。


◇◇◇


『お母さん、参観日来てくれるよね?』

 これは、コイツの記憶?

『もちろん、見に行くからね』


『約束したのになんで来てくれなかったの!』

『ごめんね、お仕事が長引いてしまって……』

『お母さんはいつもそう! お仕事お仕事って! 僕のことよりお仕事が大事なんだ!』

『違うわ! お母さんは……』

『もういい! お母さんなんて大っ嫌いだ!』


◇◇◇


 男の子が首を傾げる。

「……ねぇ? 泣いてるの?」


「は? 泣いてなんか……」

 いつの間にか頬が濡れている。


「キミも寂しいの?」

 男の子は小さな声で言った。


 俺は自分の頬に伝う涙を手でサッと拭い、男の子に尋ねた。

「いや、寂しかったのはお前だろ?」

 気づくとなぜか身体は動くようになっていた。

 

「……後悔してんのか? 母さんに大嫌いって言ったこと」


 男の子は身体をビクッと震わせ、小さく頷いた。

 俺はその場に屈んで、その身体をそっと抱き寄せた。


「大丈夫だって! 子供が本気で言ってるかどうかなんて、母さんには全部お見通しだからな?」


「嘘ついても不思議とバレんだよなぁ……多分なんかの能力持ってんな、あれは」

 鼻を掻きながら呟き、男の子を見る。


「それにさ? 寂しいなら、寂しいって言っていいんだぞ?」

 小さな手が、俺の服を掴んだ。しばらくそのまま背中を撫でる。


「……」

 男の子はじっと黙っている。


「お母さん……」

 男の子がポツリと呟く。

「ん?」

「お母さんも僕がいなくなったら寂しいって思うかな?」


 ふうっと息を吐き、答える。

「そんなの当たり前だろ?」

「……ほんとに?」

「母さんってそんなもんだ……。口うるせぇけど、子供のことは大好きなんだと」

 男の子の頭をクシャっと撫でる。


「あ、そうだ」

 足元にあったリュックから、母さんにもらった袋を取り出す。


「ほら、これやるよ。今日はハロウィンだかんな?」

 男の子は両手で受け取ると、大事そうに胸に抱えた。


「……僕に?」

「おう。多分めちゃくちゃ甘いやつだから、覚悟して食え!」

 大地たちには、あとでなんか買えばいいか、そう思ってリュックを閉めた時、小さな声がした。


「ありがとう……」


 声のしたほうへ振り返ると、そこには誰もいなかった。


代わりに、目の前にはさっき見た赤い扉があり、

いつの間にか俺はその取っ手を握っていた。


「……は?」

 足元を見ると黒タイツとヒラヒラしたスカートが見えた。


「シルバー? どうしたの?」

 肩のログチーが顔を覗き込んでくる。


 今のは夢だったのか?

 それとも――?


 扉の向こうで、小さく鼻をすする音がした。

 考えるより先に、扉を押し開けていた。


 積まれた資材のそばに、男の子がしゃがみ込んでいる。顔を上げ、涙目で俺を見た。


 さっき見た映像《ビジョン》?

 てか、生きてる!?


「おい! こっちだ! こっちに来れるか?」


 男の子がびくっと肩を震わせる。

 その頭上で、積み上げられた鉄パイプがぐらっと傾くのが見えた。


 ギィ、と軋む音。


「危ねぇっ!」

 思いきり床を蹴り、男の子を抱き寄せる。そのまま反対側へ飛んだ。

 その直後、背後で轟音が響く。

 腕の中の小さな身体をかばいながら、床を転がった。


「……ってぇ……」

 顔を上げると、さっきまで男の子がいた場所に資材が崩れ落ちていた。


 腕の中から泣き声がする。

 小さな手が、俺の服をぎゅっと掴んでいた。


 間に合った……。


 そっと背中に手を当てる。

 泣くたびに、その身体が小さく震えている。

「怖かったよな? もう大丈夫だから」

 男の子が顔を上げる。

「……かぼちゃのお姉ちゃん?」

 涙目で俺を見た。


「お姉ちゃんではないけど……この見た目じゃな……」

 息をつき、男の子を抱え直して立ち上がる。


「お前の母さんが探してたぞ。一緒に行こう! な?」


 男の子はコクリと頷き、俺の服をまた強く握った。


 会場へ戻る途中、係員と一緒にこちらへ向かってくる母親が見えた。


「お母さん!」


 男の子を下ろすと、母親のもとへ駆け寄り、その腕の中へ飛び込んでいった。

 母親はしゃがみ込み、何度も名前を呼びながら抱きしめていた。


 係員に資材置き場のことを伝え、二人に目を戻す。


「良かったな……」

 少しだけ頬が緩む。

 俺は背を向け、そっとその場を離れた。


◇◇◇


 人の流れを避け、またフィッティングルームに入る。

 リュックを下ろし、自分の手を見る。まだ少し震えていた。


「……はぁ、疲れた……」

「シルバー、良かったね。無事に助けられて」

「まあな……」

 夢か、現実かよくわからなかったけど、助けられたなら、まあいっか。


 無意識にかぼちゃに両手を添えて持ち上げる。


「……あれ?」


 あっさり外れた。

 中を覗いても、何もない。


「あれ? シルバー?」

「なんだよ?」

「もう変な匂いしないね? なんか優しい匂いがするよ」

「だからそれ訳わかんねぇって!」


「シルバー? いつの間にか服装変わってるよ?」


 肩にいるログチーに言われ、鏡を見る。

 黒いパーカーに黒パンツ。帽子も眼鏡も、頼んだ通りだ。


「……着せ替えパーティーだな、今日は」


 手元のかぼちゃを見る。

 あの子も、見えた映像も、一体なんだったんだ。

 かぼちゃは何も答えず、同じ顔で笑っていた。


「紫音ー!」

 カーテンの外から大地の声がした。


 やべっ!


「revert」

 慌てて小声で呟く。

 ログチーが時計へ戻るのとほぼ同時にカーテンが開いた。


 三人の視線が、俺の顔から衣装へと下がる。

 

「プッ! あはははははっ!」

 大地が腹を抱えて笑う。

「チョー受けるー!」

 ノブまで指をさして爆笑する。

「似合ってんじゃん」

 ナオが肩を震わせながら口元を緩める。


 しまった!!

 変身を解除したら、この服に戻るんだった……。


 俺はそっと、もう一度かぼちゃを被った。


「ほら、出番だぞ!」

 大地が肩をバシバシ叩く。

「は? いや、俺は出ねぇから!」

「ここまで来て何言ってんだよ」

 ノブがニヤニヤしながら腕を組んでくる。

「来たくて来たんじゃねぇよ!」

「さっさと行くぞ? 時間厳守だ!」

 ナオがフッと笑う。


 三人に背中を押され、俺はフィッティングルームから引きずられるようにステージに連行された。


◇◇◇


 ハロウィンには何かが起こる。

 いつの間にか怪異が混じっていたり、あるいは奇跡が起きたり。


「お母さん、僕ね、かぼちゃのお姉ちゃんに助けてもらったんだよ」

「かぼちゃのお姉ちゃん?」

「うん! あ、あのステージにいるお姉ちゃんみたいな!」


 男の子が指をさす。

 ステージの上では、かぼちゃ頭の人物が仲間に囲まれ、何やら騒いでいた。


「あのお姉ちゃんは魔法少女ね」

「魔法少女? すごいね、かぼちゃの魔法だね!」


 男の子が嬉しそうに手を振る。

「あと、お母さん」

「なあに?」

「僕、お母さんのこと大好きだよ」

 母親は男の子を見つめ優しく微笑む。小さな手をそっと握り直し、男の子をそっと抱きしめた。


◇◇◇


ステージ上——

「皆さんお待たせしましたー! モンスターwith魔法少女っすよー!」

 ミイラ男姿のノブが俺のかぼちゃを剥ぎ取る。


「キャー!!」

「紫音くーん!」

「可愛いー!!」

 前を見ると、学校のクラスメイトたちが騒がしくこちらを見ている。


「は?」

 思わず目が点になる。


「この日のために宣伝したかいあったな!」

 大地が誇らしそうに呟く。

「なあ? プリンス紫音?」

 ナオがニヤッと笑う。

「誰がプリンスだ!」

 カツラで顔を隠す。

「紫音、魔法少女のポーズしてみろよ?」

 ノブがからかってくる。


 ブチッ!!


「お前らぁ? いい加減にしろよー!!」

 拳を大きく振り上げながら、魔法少女姿の俺はモンスター三匹を追いかけ回した。


 そしてなぜか予想以上にステージは盛り上がり、ハロウィンの夜は過ぎていった。


 あ、あと気になるリュックの中だけど、あのお菓子は綺麗さっぱりなくなっていたんだ。


 まさにtrick or treat だな。


◇◇◇


後日談――


「ナオ、ハロウィンだったけど、俺に奇跡なんか起きなかったじゃん」

「紫音、奇跡が起こるのはクリスマスだ」


 ナオは眼鏡を直しながら続ける。


「それに、滅多に起きないから奇跡って言うんだよ……」


 呆れた顔で言われ、それ以上は何も言えなかった。


 なお、仮装大会では特別賞を受賞した。

 賞品は、かぼちゃの着ぐるみ。


 全くいらねー!

 もうかぼちゃはこりごりだ!

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


「続き気になる!」と思ってもらえたら、ぜひ応援お願いします!

ブックマークやリアクション、評価(★★★★★)を

してもらえたら、嬉しいです。


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