Act8 衝撃の再会 その3
「捨ててなどいないっ!!」
耀心は激昂した。彼は初めて、余裕のない態度を見せる。
「航聖は、今でも私の親友であり、加納家の計画には不可欠な存在なんだ。彼こそが完成されたシステムであり、私の野望の核なんだよ!」
その言葉が、この演算室の静寂に虚しく響く。航聖はゆっくりと顔を上げた。モニターの中では、希は制服を砂だらけに汚しながら、最後の一人を投げ飛ばしていた。
「__僕は」
航聖は静かに、けれど耀心の鼓膜を震わせるほどの明晰な声で言葉を継いだ。
「僕は、君の計算機じゃない。……ましてや、コレクションの一部でもない」
航聖はモニターから視線を外し、ゆっくりと顔を上げる。彼はやっと、目の前で自分を所有物のように見下ろす耀心の瞳を真っ向から見据えた。
「今の僕の力は、君の為にではなく……僕の存在を、そのまま受け入れるこいつらの為に最適化されている。……耀心、僕の人生のプログラムには、君はどこにも存在しない。消去した」
部屋の空気が航聖の放った「デリート」という言葉に凍り付いた。
耀心は、自分に向けられた三人の冷たい視線、そしてモニター越しに映る、自分の精鋭たちを壊滅させた一人の少女の姿を交互に見つめた。
完璧だった彼の計画は、瑞穂学園という箱庭の中で、予測不能な方向へと崩されていく。
「……ふっ、デリートか。面白いことを言うようになったな、航聖」
耀心は龍輝の手を静かに振り払い、乱れた襟を直した。その表情には、屈辱を通り越した不気味な笑みが浮かんでいる」
「だがな、一度組み込まれた僕のプログラムはそう簡単には書き換わらない。君自身が加納という母体を求めて悲鳴を上げる日は、必ず来るだろう」
耀心は演算室の出口へと歩き出し、すれ違いざまに龍輝と薫を射抜くような視線で睨みつけた。
「航聖、俺は諦めた訳じゃないぞ。君が手に入れた……その新しい玩具たちの性能をせいぜい試すことだな……一度は引いてやる。俺のお情けだ」
耀心は最後に一度だけ振り返り、独占欲に満ちた顔で航聖を見据えた。
「……また会おう。航聖……そして弟よ」
この時初めて、耀心が龍輝を「弟」と呼んだのである。
耀心が去り、その気配が完全に校舎から消えるまで、演算室には重苦しい沈黙が続いた。
やがて、廊下から荒い息と共に、軽快に走ってくる足音が響く。
「……航聖!大丈夫だった⁈」
希の声だ。その声を聞いた瞬間、航聖の肩から、張りつめていた緊張が目に見えて抜けていく。
航聖は窓際のカウチにへたり込んだ。彼の前に三人が並び立つ。
「……感謝する」
不器用な、しかし航聖なりの確かな謝辞だった。
何度も書き直しました(笑)




