Act9 演算室陥落 嵐の後のただの日常
生徒会室のすぐ横。扉には周囲の喧騒を拒絶するように「立ち入り禁止」の札が掲げられている。
「ここは関わってはならない場所だ」という無言の圧力が、そこを聖域にしていた。
扉を開けた先にある演算室は、窓が厚い遮光カーテンで閉ざされ、複数のモニターから放たれる淡い青光が浮遊する微細な埃を照らし出している。
部屋の中央に鎮座するのは、三枚の大型モニターが扇状に並んだ航聖のデスクだ。
航聖は今、その中心で椅子に深く沈み込み、まだ微かに震える指先を組んでいる。メインモニターには複雑な数式の羅列が、右側のサブモニターには、先ほどまで希が暴れていた外の静止画映し出されている。彼はその「静止した画像」の残像を、何かを解読するように見つめていた。
耀心が去り、静まりかえった廊下から遠慮のない足音が近づいてくる。
「立ち入り禁止」の札など目に入っていないかのように、扉が勢いよく開いた。
「__ここ……いい部屋だね。航聖。ここなら集中できそう」
つい先日、校庭でプロ集団を沈めたばかりだというのに、希は少しも悪びれず、むしろ清々しい顔で入ってきた。その脇には、およそ女子高生には似つかわしくない、筋肉の躍動が表紙を飾る格闘マンガ__『餓狼の門』(厳三郎の愛読書)が数冊抱えられている。
航聖は、自分のデスクのすぐ横、最も重要な「思考領域」であるカウチに、希が当然のようにドカッと座るのを呆然と見ていた。
「……希、そこは僕の……」
「いいじゃん、ちょっとぐらい……あ、これ面白いよ、航聖も読む?」
「……や、いい」
希は、傷だらけの手で、ページをめくり、カウチにゴロンと寝転がった。
「……何故、君が此処に居座る?」
「だって、外はまだ騒がしいし、マンガ持ち込み厳禁でしょ?ここなら先生も入ってこないし」
「……だっだら持ち込むなっ!」
「えーっ、いいじゃん。銃や刀じゃないんだよ?安全でしょ?」
「……」
希と航聖の会話は、全くかみ合っていない。
そのうち希はマンガから目を離さずに、うつ伏せで足を揺らし始める。
(こいつ……リラックスしすぎだろ)
航聖は言葉を失う。だが「やれやれ」と肩をすくめて再び無機質なタイピング音を響かせ始めた。
希のチョイスが凄すぎる(笑)




