Act7 野犬の咆哮と番犬の矜持(きょうじ)
静かな夜、月明かりだけが差し込む瑞穂学園の地下武道場。航聖によって警備システムの一部が意図的に解除されたその場所に、血のにおいを纏った影が侵入した。
加納 刹那だ。
正面には道着のまま静かに正座する龍輝。そして場外には薫と航聖が立っている。
「……龍輝、お前が航聖の『最高傑作』なのか俺が見極めてやる」
薫は怪訝そうな顔で航聖に尋ねた。
「……龍輝って、航聖の『最高傑作』なの?」
「いや……そういうことは言った覚えがないんだが」
二人はまるで他人事のように、しかしこの戦いを楽しんでいるのだ。
「龍輝。お前が受けているその『教育』その『待遇』……全部俺によこせ!」
刹那は続ける。
「俺は独りで、お前よりも強く、お前よりも冷酷にこの地獄を生き抜いてきた。なのに何故、俺じゃなくてお前なんだよッ!」
刹那が地を蹴り、一撃を見舞う。その動きは早く、重い。しかしそれはどこまでも「自分のため」の暴力__自分を認めさせて、自分を救うための飢えた「野犬」の足掻きであった。
龍輝は、刹那の猛攻を神一重でかわし、最低限の動きでいなす。その瞳には、加納家に対する以前のような怯えはない。彼は静かに口を開いた。
「刹那……お前は強いよ。でも自分だけでは強くなれない」
「あぁ⁈そういった汚れ仕事ばかり回されてきたのは、俺たち加納の宿命だったろうが!」
「……お前は、自分だけのために誰かを噛むだけだ。俺は、こいつら(薫と航聖)のロジックを信じることにした。そのために戦う」
「……へえ、龍輝は『ロジック』って言葉、知ってたんだ」
「……航聖、感心するのがそこなの?」
航聖のつぶやきに薫が突っ込みを入れる。それは少しづつだが、チームでの関係が変わりつつあるという事を示していた。
次の瞬間、龍輝の動きが変わった。「理」と航聖に教わった「冷徹な効率」が融合した迷いのない暴力。
龍輝は、自分の「痛み」を忘れたかのようにチームの安寧を乱す侵入者を排除するためだけに身体を動かした。激しく拳を突き出す刹那とそれを軽くいなす龍輝。
見ていた航聖がタブレットを閉じ、冷たい声で宣言する。
「もうそこまでにしたら?野犬(刹那)くん……君と龍輝の差は戦力とかではない。制御なんだよ。……君は自分の渇望で動きたまえ。龍輝はもう既に僕たちのシステムとして動き出しているんだよ」
刹那は、航聖には必要のない部品だ……と暗に切り捨てられたのだ。
薫も追い打ちをかけた。
「ごめんなさいね。自分しか愛せないのなら、私の庭では飼えないわ」
俯く刹那。彼は自分がどれ程強くなろうとも__友情も愛もない、今はただ機能だけが噛み合うBREAKチーム__には入れて貰えないことを悟った。
刹那は最後に、自嘲気味な笑みを浮かべた。
「……そうか、航聖……分かったよ。……せいぜい磨けよ、龍輝」
それだけ言い残すと、外で待ち受ける薫を守る姫神会の影に、自ら飛び込むように闇の中へと消えていったのだった。
キャラクターが固まりつつあります。
ひな祭りですね。




