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WORLD SMITH ─ 創星の勇者たち ─  作者: pochi.
第六章 災厄を呼ぶもの

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6-7 伝承の目醒め

カクヨム掲載作品です。


 異形が町から離れ、兵士や市民たちが最後の消火や救出作業に入ると、塀の中には安堵の空気が漂った。破壊された部分には急ごしらえの丸太が重ねられ、二つの出入り口には魔除けの道具が取り付けられる。付け焼き刃ではあるが、それでひとまずの平穏が訪れた。だが町は悲惨とも言える有様だった。


 木造の宿や家屋には全焼しているものもあり、中央はほぼ炭となった骨組みがかろうじて残存するのみ。残っているのは石造りの建物ばかりだが、最も大きな鍛冶屋も天井が一部崩され、その瓦礫が室内に散乱している。幸いなのは致命的な怪我人が居なかったことだった。一部の畑も無事に残された状態で、壊滅は免れた。


 とはいえ、リューデの町がこれまで通りの宿場町として機能するのは難しい。町長や自警団は兵士たちと被害の程度を報告し合い、今後の動きを擦り合わせるために町長の自宅へと集合した。


 一方でタケルたちは、瓦礫の撤去や怪我人の移動を手伝った。カレンやヴァルター、ネリは医者のもとで介助を行い、タケルやガウリー、アルトは力仕事を買って出る。ハロディは兵士たちと共に町長の元へ赴き、情報を整理すると言って町の奥に向かう。そんな慌ただしさのなか気丈さを見せていたリューデの市民は、その最中に不安の声を漏らしていた。


「ありゃ何だったんだ? 行商人が見たっていう怪物ってあれか?」

「エレヴァンの方では結構被害が出てるって」

「急に町を襲うなんて……何かの前触れなのかしら?」

「ノヴァには”海裂災期”ってのがあったっていうが……確かエレヴァンは、海路を断たれてるって話だったよな?」

「まさか、海から怪物が攻めてきてるっていうの?」

「アルマから調査隊が来てたのはそれが原因?」


 市民の声を聞いていると、それだけで大体の事情が見えてくる。どうやら町に来ていた兵士たちは、森を調査するために派遣されてきた調査隊のようだった。森というのはタケルたちが往路でオーカーンを手に入れた場所や、カラの楽器を取り戻した場所だ。カラは情報を上手くアルマに渡せたらしい。


「それにしても、あんな大きな怪物を一撃でやっちまうとは、坊主、見かけによらず手練れなんだな!」

「いや、別に……」


 白鉄工房の崩れた屋根の上で一人異形と対峙し、矢を放ったタケルの姿を目撃していた者たちは、手放しで彼を称賛した。火を止めたガウリーの魔法についても同様の賛辞が上がったが、たった一矢が異形の眉間に突き刺さり、咆哮とともに靄となって消えていく姿は、それ以上に市民を驚愕させたらしい。


「昔物語で読んだ”伝説の勇者様”がいたとしたら、アンタのような子だったんだろうねえ!」


 作業している人々に水や軽食を配っていた恰幅の良い女性がタケルの背中を叩いて豪快に笑う。その何の気ない言葉にタケルは苦笑を返し、やり過ごす。弓の腕を褒められるのは擽ったいが、”勇者”に擬えられると複雑だった。


「別に戦ってたの俺だけじゃないし……」

「あらまあ、謙遜しちゃって」

「だが、アルマはホラ、”勇者ギルド”なんか残してる”勇者発祥の地”じゃねえか。むかーしむかしの伝承を、未だに律儀に守ってる国だぜ? 坊主みたいなのが王様に知られたら、祭り上げられちまうかもな!」


 年嵩の大人たちが豪快に笑う。タケルは、半壊した町の中でも明るく笑う人々に、上手く笑い返せているだろうかと不安になった。実際は、アルシオン王より勅命を受けている。だがそれはあくまで、星に起こっている異変の調査が中心だ。タケルはアルシオン王の特別な通行証を得ることでアンスールを行き来し、故郷へ帰る方法を探ることを望んでいた。


 とはいえこうして異形の被害が大きくなると、それがもっと複雑なものに変わっていくのではないかと気がかりで仕方がない。タケルは、自らの力が認められるのを嬉しく感じながらも、どこか素直に喜べずにいた。ただ、此度は自分が加勢したことで、少なからず犠牲者を防ぐ一端を担えたことだけに安堵していた。


「タケル様、調子はいかがですか?」

「これ、作った。休憩」


 大人たちの談笑をぼうっと眺めていると、背後から声がかかる。顳顬から垂れた汗の滴を拭って振り返ると、そこにいたのはカレンとネリだった。それぞれ水や軽食の乗ったトレーを手に持っている。タケルは水の入ったグラスとサンドイッチを受け取ると、まずは喉を潤した。


「──ありがと」

「いいえ。……この町のお方はとてもお元気なのですね。あんなことがありましたのに、とっても活気に満ちていますわ」

「ケガの人、ヤケド、小さい。元気」

「……そっか」


 形を残している低い石垣に並んで腰掛け、周囲を見渡す。躊躇いなくタケルに倣うカレンは、ヴァルターと三人だった時より幾分か雰囲気が違う。あの時はただ身分の高い人物という印象しかなかったが、旅を経ていつの間にか、タケルにとって身近な存在となっていた。


 市民たちは今後を憂いながらも互いに笑い合い、励まし合っている。胸の内にもやもやとしたものを抱えたタケルにとって、そんな明るい人々や、明るさを素直に享受するカレンやネリは小さな救いだった。


「──そういや、ヴァルターは?」

「ヴァルターは応急処置の心得がありますので、お医者様のお手伝いをしています。わたくしとネリ様は……目を盗んでここまでやって参りましたのよ」

「そ、そうか」


 後でこっちが小言を聞かされるんだろうなと口元をひくつかせ、タケルは空笑いを返す。そうこうしているうちに、町長宅に詰めていた面々が中央通りに戻って来た。


 兵士や自警団たちは動ける市民を集め、今後についての報告を行った。傍目から眺めていたタケルたち三人の元へは、町長宅に詰めていたハロディが戻って来る。それに伴い、タケルたち同様に手伝いから距離を取ったアルトやガウリーも自然と集まった。


「いやあ……重大な怪我人無し、死者無しなのが不幸中の幸いだけど、改めて見ると被害は甚大だねぇ」


 ぐるりと視線を巡らせ、ハロディが肩を竦める。確かに、全焼した家屋も少なくはない。みな明るく振る舞ってはいるが、復旧作業にはかなりの時間と労力が必要になるだろう。その際、住む場所を無くしてしまった人も居るはずだ。


「──して、お主は彼奴らに着いていって何を話してきたのだ?」


 腕を組んだアルトが鋭い視線をハロディに向ける。彼女は顎を引く癖があり、それ故に目線が下の者にも上目遣いとなる。するとその三白眼は常より迫力を増すのだが、彼女自身はそれに気づいていないようだ。


「別に無駄話してきたわけじゃないって。アンスール地方の件も報告しておくべきだと思ったからついてっただけさ。森の大穴の件は一応伏せといたけど……そんなことより、ちょっと気になる話を聞いたんだよ」


 アルトの瞳を物ともせず、ハロディは上半身を少し屈める。反射的にその場にいるガウリー以外の人間が同じように身を寄せる。ガウリーは側の石垣に腰掛けて足を投げ出し、外方を向きつつも耳だけは話の方に向けていた。


「……気になる話って?」

「それがさ、火元が赤橙亭だったらしいんだよね」


 ハロディが声を潜める。するとその横で、アルトが眉を顰めた。


「だから何だ?」

「だから何だ、って……あのねアルト、つまり──最初に火の手が上がったのが赤橙亭ってことは、この町を焼いた火事は、モルによるものじゃなかったってことだよ」

「そ、そうなんですの?」


 穏やかな微笑みを湛えていたカレンの表情が一変する。タケルも思わず目を瞠った。


「では、元々は事故だったというわけか?」

「それもどうやら違う可能性があるんだよ。──赤橙亭の主人の話だと、フードを被った黒い外套の客が帰って間も無く、二階から火の手が上がったらしくてね。しかもそれが、どうも妙な炎だったって言うんだよ」

「「妙な炎?」」


 タケルとアルトの声が重なる。カレンとネリも顔を見合わせた。


「煙のせいだったのかもしれないけど、最初は青黒く見えたんだって。でも確かに熱いし、異常なほどの煙が上がって、慌てて消火しようとしたらしいんだけど。みるみるうちに壁や天井に移って、手に負えなくなったから客とみんなで外に避難したって経緯があったみたいなんだ。で、町が混乱してる時に塀の方からモルの気配がして──さらに大混乱」

「……泣きっ面に蜂だ」

「何て?」


 タケルの呟きにハロディが首を傾げる。タケルはわざとらしく大袈裟な咳払いをして、視線でハロディに先を促した。


「まあともかく、その黒い外套の人物が怪しいんじゃないかって事らしい。ちなみに店を出て中央通りをアルマ方面に向かったみたいだから、アルマに向かってるかもしれないってさ」

「しかし、もし此度の火事がその者の仕業だったとして、目的が読めぬ。店主が恨みを買っていたのか?」


 首を横に振ってアルトに答えると、ハロディは顎を摘んだ。


「何とも言えないけど、少なくとも恨み辛みの話では無さそうだよ。僕らも赤橙亭には世話になったけど、気の良いご主人だっただろう?」

「──まあな」

「だから今のところはただ怪しいってだけで謎でしかない。そもそも関係あるかどうかも分からないし、見かけたら注意するってことくらいしか言えない話なんだけどね」


 眉を捻って唸るハロディとは対照的に、アルトは涼しげな顔で短く応えるのみだ。タケルやカレンも赤橙亭の主人の人柄は知っている。故に、故意に宿が燃やされたとなるとその理由が分からない。しばしの沈黙が挟まると、ガウリーがわずかに身動ぎした。


「……妙な色の炎って話なら、魔力で象ったモンだろう」


 そう小さく呟いて、ガウリーは切れ長の瞳をハロディに向けた。そして思い当たる節に辿り着き、目を伏せる。


「もしかして、──闇魔法?」

「……闇魔法ってのは他人の魔力に干渉出来る事で不気味がられてるが、本来は属性に縛られない”自由”なモンだ。魔力で何かを”模倣”出来る奴がいてもおかしく無ぇ」

「──確かに。その点で言えば光属性も同じだ。性質が違うだけで、僕の魔力が高ければ光の炎だって作れるだろうけど……てことは、もし闇魔法の使い手だとしたら相当な実力者ってことになる?」


 口の端をひくつかせながら気落ちした声を漏らすハロディ。ガウリーはそれに一つ頷くと、フッとアンスール方面へと視線を流した。


「──闇魔法の連中が、手ぇ組んで組織で影に潜んでるって噂もある」


 そう言ったきりガウリーは口を閉ざす。ハロディは小さく息を吐くと、両手を腰に当てた。


「……まあ、だとしたら……それはそれでとんでもないぞ? 謎の人物が、モルに向けて狼煙を上げたって可能性も出てくる」

「そ、それって、わざと町を襲わせたってことか?」


 眉根を寄せて詰め寄るタケルに、ハロディは天を仰いだ。伝聞の話だけで明確に”そうだ”と断言することは出来ない。しかし、タケルやアルトはアンスールで暗躍している闇魔法使いと実際に対峙した。ガウリーが口にした噂を、噂と止めておくのも難しい。


「いや、あくまで”憶測”。誰も現場を見てないわけだから、何とも言えないよ。僕らはひとまず、そういう可能性があるってことだけ胸の内に留めておくとしよう──今のところは」


 ひとつ手を叩き、ハロディは気分を変えるようににこりと笑った。


「さ、この先のことを報告するとね。僕らは兵士と行商人、あと家が燃えちゃった人のうちの何人かで連れ立って、この後アルマへ向かうことになったよ。一応復旧の目処がつくまでは、残った宿が部屋を開放することになったみたいなんだけど……それだと数が間に合わないらしいんだ。だからアルマへ移動して、向こうで一時的に落ち着くことになったみたい」

「それは良いのですが……他のリューデの方々を残して発ってしまって大丈夫なのでしょうか?」


 カレンが両手の指を組み、周辺で各々話し合いや作業をしている市民たちを憂う瞳で見渡す。だがハロディはその問いにも笑顔を返す。


「調査隊として来ていた兵士たちは半分残るって。市民で残るのも自警団優先にして、とりあえず外壁から速攻で復旧を済ませるみたいだからまあ、安心していいんじゃないかな? 僕らと一緒に来るのは、戦えない一般市民ばかりだしね」


 それを聞いたカレンはほっと胸を撫で下ろした。タケルは復旧を手伝うついでに戦闘要員として残りたい気持ちもあった。だがそれよりもアルマへ向かうことの方が結果的に良いような気がして、言葉を飲み込む。ネリは疲れた表情を見せることなく深く頷き、アルトやガウリーも異論を述べずに無言で肯定の意を示す。──そんな時、通りの奥から息を切らした声が届いた。


「──カレン様! こちらにいらっしゃったのですか! 全く──ああいえ、全くなどと恐れ多い。ええと、ご勝手に移動されては困ります! せめて私に一声お掛けください」


 これまで焦燥に駆られて探し回ったのか、物言いが安定しない。疲れ果てたようなヴァルターの姿に、ハロディが顔を逸らして思わず吹き出す。すかさずヴァルターから睨みが飛ぶが、それでも肩を震わせた。


「まあ、ヴァルター……ごめんなさい。あなたがお忙しくしていらしたから」


 カレンは口元を押さえて笑みを浮かべ、穏やかに返事をした。物腰柔らかいなかに強かさを芽生えさせていくカレンに、ヴァルターは重苦しい溜息を吐く。


「疲れているでしょう? ヴァルター、これからわたくしたちは、町のみなさまと一緒にアルマへ向かうことになったそうです。それまでは少しでも休んで、残りの旅の英気を養いましょう?」

「これ、作った。休憩」


 カレンとネリからにこにこと差し出される二つのトレーを交互に見遣り、額を押さえたヴァルターは力なく石垣に座り込む。どうやら言葉を返す気力も無いらしい。


「──君って意外と、振り回される質だよね」


 笑いを堪えた震え声でハロディが言う。タケルも思わず釣られそうになったが、後で何を言われるかと思い直して口元に力を込めた。





 かくして、兵士の馬車を先頭にアルマへの旅路が開始した。それに続くのは何台かの市民の馬車だ。行商人が手綱を握り、皆荷台に入り込んで幌を閉じている。最後尾はタケルたち一行だ。タケルは幌の上をアルトに譲り、自身はハヤテの側を歩きながら周囲を警戒した。ハヤテの手綱はヴァルターが握り、タケルの対面にはハロディが控え、最後尾をガウリーが歩く──ほとんどいつもの布陣だ。


 広大な景色に感動したこと、それを語り合ったこと。その思い出が幻だったのではと錯覚するほど、辺りは異形の地となっていた。静かに街道を歩いてさえいればそうそう襲われることは無かったが、それでも不意に隊列に突進する個体もおり、その都度兵士やタケルたちで応戦して追い払う。殺伐とした光景ではあるが、相変わらず自然の緑は美しく、空は青い。禍々しさの欠片も無い景色の中に、葬られた異形の黒いモヤが消えていく。風に揺れる草の音に包まれていた街道には、異形の鳴き声が溢れていた。だがそれでも、自然だけは平然とそこに在る──美しくも歪となった丘陵地帯を、一行は一心に進行した。


 何度か夜営を挟み、視界の先にはようやく高い城壁が霞がかった。傾斜に造られ、堀に囲まれた灰色の要塞都市──その硬質な色が、タケルの目に懐かしく映る。堀に近づくにつれて異形の姿は減っていき、隊列は安堵の息を漏らしながら肩の荷を下ろし、最後の道のりを進んだ。


 堀に掛けられた橋を渡り、先頭の兵士が門番とやりとりをする。初めて来た時は開放されていた扉が今は閉じられており、手続きが終わると開かれる。どうやら現在は、通行人がある時だけ開く仕組みになっているようだった。


「──まあ、不思議な感覚ですが……何だかとても懐かしい気持ちになりますわね」


 重い音を立ててゆっくりと開かれていく門。そこから覗く、石造りのセントラル。御者台の後ろから顔を覗かせたカレンはその光景を眺め、呆けた声を漏らす。同じことを思っていたタケルは、それを聞いて胸の内が緩む。心なしか足取りが軽くなったような気さえしたが、すれ違った門番の視線に気付いて振り向くと、途端に鼓動が重く鳴った。


 意味深な目が、タケルをじっと見つめる。それは、街中に入っても同様だった。道を開けるアルマの人々。中央通りを進むのは、兵士と、それに続くリューデ市民の馬車。タケルたちはひとまず彼らと別れ、キャリッジハウスに馬車や馬を預けて自由となる。街の人々は、ハイフォールドに向かっていく馬車群よりも、タケルたちをまじまじと見つめていたのだ。


「な、なんか……僕ら目立ってる?」

「お主のせいではないのか?」

「いやいや、流石の僕でも、留守の間に問題起こすなんてこと出来ないよ! というか、お前たちほど問題起こしてないけどねぇ?」


 ロワーサイドの住民であるハロディたちがそう言って賑わうが、じっとこちらを見たまま黙っている人々を訝しみ、次第に声のトーンを落としていく。馬の装備を外していたタケルは作業に集中しようと試みたが、そうしようとするほどに手元が狂う。なぜなら、人々の視線が向けられる先が、自分であることに気づいたからだ。


「なあ、あの少年──」


 誰かが言った。それをきっかけに、ざわざわと通りが騒めく。タケルは固唾を飲み、手を止めて恐る恐る中央通りに視線を向ける。


「変わった格好してるし、ハロのギルドと行動してる」

「異国の貴族も一緒だ」


 声が連なる。タケルがハッとして視線を逸らすと、カレンと瞳がかち合う。彼女も少なからず動揺しており、眉尻を下げていた。


「ブルーフォールに現れた異形を倒したって」

「そもそも、ブルーフォールから現れたって話じゃなかった?」

「何も無いところから急に現れたって──」


 人々の声が耳鳴りに阻まれて消えていく。彼らの目は、怪訝そうでありながらも期待に満ちたような──それでいて遠巻きに観察するような色を帯びていた。タケルの目にはそれが、何とも不気味に映る。


「──災厄と共に現れた勇者」


 そんな言葉の断片を、否応なしに耳が拾う。タケルはいつの間にか目を見開き、完全に身動きを止める。代わりに馬の装備を外し始めたヴァルターも、街の人の変わり様を怪訝な表情で受け止めていた。


「えっ……と、もしかしてこれ、──変な噂流れてる?」


 ハロディのぎこちない空笑いがキャリッジハウスに響く。ひそひそと耳を打つ静かで確かな音。それは、彼の戯けた声に遮られることなく、まるで直接脳に届けられているかのように、タケルの元に届いた。


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