宝学メガクラスター事件
報道陣はヘリを出した。滅多に出すことが無いが、今回ばかりは仕方がない。地上に居ては感染してしまう。
「えー、たった今入ってきたニュースをお伝えします。東京都の宝咲高等学園の屋上にて、アブノーマルと宣言する者が暴れているとの事です。えーっと……自称アブノーマルの名は、畑田優迅18歳。メリットは…人をゾンビのようにさせるとのことです。まだ具体的な条件などは判明しておりませんが、警察が学校周りを完全封鎖。現在調査中とのことですので、近隣の方達はくれぐれもマスクなどの感染対策をして注意をしてください。」
もちろん他局でも取り扱われる。今や、一大ニュースとなっており、チャンネルを変えてもこのニュースしかやっていない。
「こちら上空からの映像です。見えますでしょうか。屋上の中央、…寝ていますね。校庭には感染してしまったであろう生徒たちがフラフラと歩いています。校舎の窓ガラスも割れている箇所が何箇所か見当たりますね。」
ネットでは上位トレンド入りしている。『ゾンビ化』、『畑田優迅』、『外出禁止』、『メリット考察』。自分なりにメリットを考える者、仕事や学校が無くなって喜ぶ者、誹謗中傷をする者、無関心な者など様々な反応を見せた。そんな中、Keychainは重い空気感に包まれていた。キーマスターは焦り、柴は疲れ果て、尾座田は自分の不甲斐なさに絶望していた。
(俺に、何が出来たんだろうか。確実に柴は少年を撃った。…そういえば、名前すら知らないな。十合さんの仇討ち……俺にそんな思い入れがあったんだろうか。俺は、柴みたいに泣けていたのだろうか。)
前を向けない。うつむく俺を誰も慰めない。むしろ、彼らの声は雑音のように響いている。
「僕は疲れてるんだよっ…!だから新人の付き添いなんかしたくなかったんだ…」
「しかしっ!萩乃さんを止めなくては…!」
「ならキーマスが行けよっ!僕はもう無理だ…休ませてくれ。」
「私をメディアに映す可能性があっても行かないのか?」
「その時はこっちで消す……影も今は使えないし…アイツを引っ叩いてでも連れてけよ。僕よりかは動ける体力が残ってるはずだ。」
柴はこちらに一本の指を向ける。その指先は小刻みに震えていた。その反応は限界を示していた。尾座田にはその反応を捉える事は出来ない。尾座田は今、自分の中の雑念による葛藤で精一杯だった。目の無い彼にとって思考の複雑化は無駄でしか無かった。空間把握能力は集中が全てである。変に雑念が混じってしまえば集中は途切れ、無の空間が生まれてしまう。ならば単純。
「ロック。」
ガチャッ!!
「……なっ、なんだ…?」
「行きますよ尾座田さん。萩乃さんを止めに行きに。」
無理やりにでも改ざんすれば、本調子に戻る。
「キーマス…左腕無くて大丈夫なのか?」
「…はい。夏生は指示を。インカムは付けますから。」
そっか、キーマスターはメリットを使用すると左腕が使えなくなるから…って、何にメリットを使ったんだ?まぁいいか。
「……一つだけわかってることがある。ゾンビ化は接触感染ってこと。」
「なるほど。校外の感染者が未だにいないなら可能性は高いですね。」
「……それと僕の戯言だが、『ゾンビ化』って表現は…似合わない気がする。……今はいいや。早く行って…。」
後にこの事件は、『宝学メガクラスター事件』と呼ばれるようになった───
キーマスターの車で宝学に向かった。キーマスターは左腕を持ち上げ、ハンドルを握るように自力で指を折り曲げてから『ロック』した。そんなことも出来るのかと普通に驚いてしまった。
「尾座田さん。私達の目的を理解できていますか?」
「…え?『萩乃さんの救出』ですよね?」
「違います。我々は、『萩乃さんを食い止めること』が目的です。」
「食い止める…?なぜですか?」
「そもそもなぜ彼女は宝学に向かったのか分かっていますか?」
「宝学の生徒である…とか?」
「違いますよ。彼女には宝学の在校生に『殺害対象』と称している女の子がいます。『殺害対象』とは萩乃さんが自らの手で殺すと決めた人のことであり、他の人が傷つけたり汚したりすることを彼女は決して許しません。」
「なるほど…だから宝学に向かったんすね。」
「そして私の経験則ですが、メリットは死んだら効果は消える可能性が高い。100%とは言い切れませんが、そう考えると原因となるアブノーマルが死ねば感染者は人間に戻ることになります。だが萩乃さんが感染者を殺してしまえば、無駄に人を殺すことになってしまいます。組織的にもそれは避けたい限りです。」
「だから『食い止める』…」
「そして我々はメディアのカメラも避けなければいけません。特に尾座田さんは目隠しをしてる以上、容姿だけでアブノーマルであることがバレるでしょう。百歩譲って萩乃さんはバレてもメリットでどうしようも出来ますが、我々は映れば終わりです。ですから『隠密に終わらせること』を最終目標に行動しましょう。」
俺は柴とは違う知性を感じた。はっきりと何をするかが見えている。それを言語化し、簡潔に説明できる。自然と俺の中でキーマスターが尊敬の対象になった。
「なぜ……俺は…戦わなきゃいけないんですか…?」
尊敬するからこんなことを言ってしまったのだろう。自分の中でどこか安心してしまった。自分の中で隙が生まれたんだ。どうか、納得できる答えを。
(左腕を少し動かしたから『ロック』が外れかけたのか。面倒ですね……)
「……では、もう一度歴史を教えましょう。記憶を無くされていましたので。」
もともとは、アブノーマルがある程度、国を統治していました。ここ日本もアブノーマル統治国でした。そんな時に一つのニュースが流れます。
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『ルーヴァ宝石店強盗事件』または『ルーヴァでの悲しき奇跡』:1906年のフランス、パリ。午後10時ごろ(日本時間で午前5時)にて、有名な宝石店『ルーヴァ』にて強盗が発生。犯人は人間のグループであり、現場の痕跡から銃を携帯していたとされる。この事件の被害者として宝石店の店長である女性の死亡が確認された。しかし、死因は窒息死であるのにも関わらず、心臓に銃弾が残っていた。この結果から検察は女性はアブノーマルであったと推察した。そしてこの事件は人間がアブノーマルを殺した初めての記録であり、奇跡の瞬間であった。
(検索エンジンから『ルーヴァ 事件』での検索にて"AIによるまとめ"から一部抜粋)
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このニュースから一年経たずして次期総理大臣は人間から選ばれました。そこからどんどんとアブノーマルの居場所は無くなっていきます。海外では迫害が激しくなっていきました。そして30年後、戦争が始まりました。きっかけはアブノーマル統治国同士の同盟と人間の侵攻です。数が少なかったアブノーマル統治国は同盟を組みましたがちょうどその時、人間は過去最悪の兵器を生み出しました。実験場所としてアブノーマル統治国に勝手に投下、被害は甚大に。そのことにアブノーマル達は怒り、海を渡り、世界で暴れました。この攻撃を他国からの攻撃と勘違いした人間共は各国で大戦を始めました。人間の大戦にアブノーマル達は巻き込まれ、大戦が鎮火する頃にはアブノーマルの存在は少数となり、一世紀過ぎる頃には存在が化け物という考えだけが定着し、今に至ったというわけです。
速度がだんだんと速くなっていく。走る車は少なくなっていく。それに反比例して人通りは多くなっている。逃げる者や怖いもの見たさで向かう者、警察も来ている。
「尾座田さんが学んだ歴史は『アブノーマルが起こした戦争』というニュアンスだったでしょう。」
「そんなだったような?」
「…とにかく、もうそこまでアブノーマル差別が行き届いているんです。そして夏生はこのままではまた戦争が起こると予想しています。だからこそ、我々は差別を無くすために力を蓄えているんですよ。」
パキンッ!
「……蓄えている?」
「あれ、夏生から聞いて無いんですか?病院の件は影の中にしまったと。」
影の中にしまった?……ぼんやりと思い出してきた。柴はあの子を撃った…わざと外した?なんのため?…じゃあ殺して無い?
「そ、そうだったんですね!」
心の中の靄が晴れた気がした。なにも見えないままだが、視界は曇ってない。
「解決したみたいですね。」
「…こっちの問題は解決はしましたが、根本的な問題は解決してませんよ!俺がなんでこんなことしないといけないんすか!」
「人間との共存を実現するため、と夏生は言ってましたね。そのためには強力な仲間がいるらしいのです。だから夏生は尾座田さんに成長して欲しいのでしょうね。経験が大事だと夏生はよく言いますから。」
仲間。そうだ、柴は頼ってくれているのだ。アブノーマルとなった俺に居場所をくれた。なら俺に何が返せる?有用性の証明だろ。使えるって示さなきゃ。俺はぐっと拳を握った。
影の中。少年はただただ沈むのみ。沈むだけならばとても心地よいベッドで眠っているような感覚である。
「 おーい。起きろ。」
「 はっ!?」
この音が3秒遅れて聞こえてくるのはまだ慣れない。毎回そうだったとなってしまう。
「 君は使えそうだったから残してるんだ。余命をここで終わらせてもいいんだよ。」
拳銃を赤木の額に押しつける。引き金に指をかけた。
「 わ、わかった…!何をしたらいい…?」
「 僕の計画に加担して欲しい。『国際テロ計画』に。」




