レナーテの決意
二人に追いつくと、レナーテが私の腕を取って遠くにある一つのお店を指した。
移動式の屋台のようなお店だった。
「ねえ、あのお店なんだと思う?」
「ここからじゃ何だか分からないわね。果物屋かお肉屋かしら」
「んふふ、実はアイスクリーム屋よ」
「え、この世界にアイスクリーム屋なんてあるの?」
それは食べてみたいわ。
「アイスクリームって作るのはそう難しくないんだけど、肝心の冷やすことが難しいのよね。早く誰か冷蔵庫を作ってくれないかしら。不便で仕方ないわ。あのお店も下に置いてある氷が溶けたら店じまいだから、早速買いに行きましょ」
レナーテに引っ張られて小走りで買いに行く。
「おじさんアイス4つ頂戴」
「はいよ、毎度あり。お嬢さん達丁度良かったね、これで最後だよ」
「わあ、ラッキー」
渡されたアイスは質素なお皿に大きめなスプーンでガタガタに盛られたなんとも不格好なアイスだった。
前世だったら間違いなくクレームが入るところだ。
でもこの世界ではあるだけ嬉しい。
ワクワクしながら食べると、懐かしい味がした。前世のようにチョコがかかってるわけでもない本当に牛乳と卵と砂糖だけのシンプルなバニラアイス。
美味しい。
レオとアーサーも初めて食べる味に最初はおっかなびっくりだったのが、途中から夢中で食べていた。
うんうん、アイスは子供も大人も大好きよね。
インディア国でも作り方広めればアイスが普及してくれるかしら。
私とレナーテの分のアイスは小ぶりにしてもらったので、すぐに食べ終えた。
食べ終えたお皿を屋台に戻しに行き、振り返るとレオとアーサーがまだ騒ぎながらアイスを食べているのを見て、レナーテがふふっと笑った。
「どうしたの?」
「え?ああ。なんかこういうの良いなぁって思って」
こういうの?皆でアイスを食べること?
「そう。皆で仲良く外でおしゃべりしたり美味しい物食べたりするのって楽しいわよね」
そうね、楽しいわよね。
「私ね、前世でも今世でも大勢で外で食べたりしたことないの」
え!?
「言ったでしょう、友達が少なかったって。買い食いが出来るようになる高校生の頃はもう友達を作るやり方さえ分からなくなってて、卒業するまで喋らなかったクラスメートだっていたくらいよ」
そうなんだ。
「たまに仲の良い子達で固まってカラオケ行こうとか美味しいパンケーキのお店に行こうって話をしているのをいっつも羨ましく思って見ていたわ。たまに優しい子が私のことも誘ってくれたりしたんだけど、嬉しくてうんって言う前に、周りの子の顔が引きつってるのを見て用事があるからって断ってたら誘われることもなくなっちゃって。だからこういうのちょっと憧れてたのよね」
「でも今世はなぜ?皇女で聖女ならお友達になりたいってご令嬢一杯いたでしょう?」
「私生まれてからずっと前世の記憶があったものだから、3歳で予言しちゃってそれからずっと大神殿の奥で育てられてたのよ。両親に会うのも1年に1回位だったわ。父は私のこと国に便利な聖女としか思ってないし、母親なんて最初私が男の子じゃないことで散々邪険にしていたのに、私が聖女認定された途端大きな顔をしだして今では第一皇妃様より偉そうに宮殿に君臨しているらしわ。私に優しい言葉をかけてくれたことなんて1度もないわよ」
ひどい両親ね。あら、でも今レナーテ宮殿に住んでるわよね?
「私が12歳の頃お兄様が成人して私との面会を許されてね、大神殿に会いに来て下さったの。その時修道女のような生活をしている私を見て、予言とは毎日神に祈らないと降りないものなのか?って尋ねられてね。違いますって答えたらならば皇女なのだから宮殿で住むべきだって仰って下さって、大神官様の猛反対を押し切って私を宮殿に呼んで下さったのよ。淑女のマナーとか何にも知らなかったから大変だったわよ。なんとか一通りのマナーを身につけても、私を不必要に他の人と接触させて何かあったら大変だからって同じ年頃の女性と遊ぶことなんて許されなかったし、結局この年になるまで友達なんて出来なかったわ。だからこうして大勢で外で何かを食べるのはこれが初めてなの」
聖女様って肩書きは凄いけれど中を見ちゃうと大変なのね。
「そうでしょう、ゲームでは成人してある程度自由になってから始まるから、まさか幼少時代がこんなに悲惨だと思わなかったわよ。知ってたらこっちを選ばなかったかも知れないわ」
でもそうするとレナーテがアナベルだったってわけよね?
うーん、すごいアグレッシブなヒロインが出来上がりそう。
レオに群がる女性を蹴散らす姿が何だか想像できる。
「あいたっ」
レナーテがいきなりゴン!と頭を殴ってきた。
何するのよぉ。
「だって絶対あなた失礼なこと想像してたでしょう。顔に出てるのよ」
あら嫌だ。失礼ホホホ。
「さっき二人で道を歩いているとき、レオン様すっごく優しく接して下さっていたの。私嬉しくて嬉しくて泣きそうな位だったわ」
レオのエスコートは完璧ですもの。
「だからね、決意したの。私今日レオン様に告白しようと思うの。だから最後に帝都を一望できる高台に行ったとき、ちょっとだけ私たちから離れていて欲しいの」
「え、でもレナーテ。それは・・・」
私の言葉に真っ直ぐレナーテは見つめ返してきた。
「言わないで、分かってる。多分、ううん、きっと私は振られるわ。ゲームのレオン様でさえ攻略には一ヶ月掛かったのに、こんな短期間で告白してOK貰えるはずなんかないもの。でも良いの、私言いたいの。だって今日を逃してしまったたら次告白出来る機会なんてないんだもの。私ね、前世で彼氏を親友に取られてからずっと何でなんだろうって思っていたのよ。何が悪かったんだろうって。それでね、思い出したの。私、彼に好きだって言ったことなかったなって。付き合ってるんだから言わなくても分かるだろうって思ってたのね。でもそれって思い上がりなのよ。他人なんだから口にしないといけないことってあるのよ。特に好きだって気持ちはね。だから私今回はちゃんと言おうと思うの。私を救ってくれた大切な人に好きですって。ありがとうって言いたいの。私を救って下さったのはゲームのレオン様だから現実のレオン様に言っても訳が分からないだろうけど、でもずっとお礼を言いたかったから」
レオン様がいなかったら前世で私きっとアル中か廃人になってたわよ。とレナーテは笑う。
そんなレナーテが綺麗だと思った。
「最後まで我が儘言ってごめんなさいね。もうちょっとだけレオン様を私に貸してね。その後はちゃんとあなたに返すから」
レナーテ。
涙が零れそうになる。
「もちろん万が一上手くいったらあなたに返すことは一生ないけどね」
「・・・」
「私は前世から跨いだ恋に決着を付けるわ。あなたの人の良さにつけ込んでる私が言うのもなんだけど、あなたも人にばっかり譲ってないで、少しは貪欲になりなさい。好かれていることに胡座をかいて受け身でいたら、私みたいに他の女に取られちゃうんだから」
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