レオとアーサーの賭け
クラウディアがレオを選んだことを告げた日、アーサーは一晩中剣を振り回し翌朝館に戻って来た。
そんなアーサーをレオは捕まえて個室に連れて行った。
部屋に入る早々レオはアーサーにこんなことを言い出した。
「アーサー、私と一つ賭けをしないか」
「賭け?何の」
「ディアとの婚約について。君がその賭けに勝ったらディアとの婚約話はなかったことにしてあげても良いよ」
「何を言っているんだ。クラウディアはすでにレオを選んだんだ。そんなもの無意味だろう」
「ディアが私を選んだ理由は聞いたかい?」
「・・・」
「だと思ったよ、君たちの事だからね。別にディアはアーサーより私の方が好きだから私を選んだわけじゃない。ディアお得意のより困っている方に手を差し伸べた。それだけのことさ。でもそれが分かっていても私はディアを手放すつもりはないよ。たとえ相手が君でもね」
「何が言いたいんだよ」
「私としてもディアをこのまま娶って幸せにする自信はあるから、婚約を反故にするつもりはない。けれども万が一ということもある。だから私と賭けをしよう」
そう言うと、レオは人差し指をまず一つ上げた。
「一つ、ディアが私ではなく他の男を好きになり本人がそれを自覚した場合」
中指を続けて上げる。
「二つ、クラウディアがいなくても私が良いと思った場合。この二つのうちどちらかもしくは両方になった場合、私はクラウディアを手放してあげるよ」
「期限は?」
「そうだね、ディアが学園を卒業するまでにしようか」
アーサーはハッと鼻で笑った。
「それはほぼ不可能な話だろう。婚約までしてクラウディアがたった2年ちょっとでレオを裏切るわけがない。第一なんだよ二つ目の条件は。お前がクラウディアを手放すことを良しとするわけがないだろう」
「そうだね、だからそちらの可能性はほぼ0だと思ってくれ」
なんだそれとアーサーが呟く。
「でもクラウディアを手に入れる可能性がないわけじゃないだろう。あの鈍い彼女の気持ちを目覚めさせれば良いだけなんだから。ただ私の心変わりがない状態でそうなった場合、君たち二人は国外追放になるけどね」
「レオ」
「どうする?やるかい?それとも国外追放が怖いからやめるかい?私はどちらでも構わないよ。どの道私に有利な話だからね」
挑発されてアーサーは目を瞑り息を吐いた。
「いいさ、どうせもう負け試合確定だ。あと2年半わずかな可能性に賭けてやるよ」
「そうこないとね。じゃあこれはディアには内緒にね」
「ああ」
レオが手を差し出し、アーサーがガッチリと掴んだ。
二人はにやりと笑って手を離した。
「あ、そうそう。アーサー」
「ん?」
出て行こうとしたアーサーをレオが止めた。
「ディアの唇は先に頂いたから」
「はあああああああああ!?おまっ、そう言うのは黙っておけよ」
レオはにこっとほほ笑んだ。
「先制攻撃。これでディアに愛想を尽かして戦線離脱してくれても構わないよ」
「するかっ!たとえ最後までやったとしても俺の気持ちは変わんねーよ」
「そう、じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」
「やめろっ!・・・レオ、お前俺と賭けするつもりねーだろ?」
アーサーが頭を抱えて蹲ってしまう。
「嫌だなぁ、ただの冗談だよ。私も負けるつもりはないからね」
「ただでさえ圧倒的有利なのにここまでするか?」
「相手が君じゃなければここまでしないけどね。もっとも君じゃなければこんな賭け自体最初からしないけれど」
はぁと大きくため息をついてアーサーは立ち上がった。
「分かったよ、せいぜいみっともなく足掻いてみせるさ。最後までな」