10:食事
ふと、エクスの腹の虫が鳴りだした。
思えばあの容器に長いこといたみたいなので、それまでに食事を取った記憶がない。
エクスはアヤに講義室に何か食べるものはないかと尋ねた。
「アヤ、この部屋には何か食べるものはないかい?」
「食べるものですね、講義室の教壇の下にですが研究者の方が残していったものがあります。只今お持ちしますね」
アヤは充電をしたまま立ち上がって教壇の下を漁る。
ガサゴソと音を立てて持ってきたのは缶詰であった。
缶詰はそれぞれ「コンビーフ」「ツナ」「鯖」の三つだ。
どれも缶詰の蓋には取っ手が付いているので缶切りを用意する必要は無さそうだ。
さらに、フォークと飲み物として未開封の緑茶もアヤはエクスの為に用意してくれたのだ。
「おお、これは非常に嬉しいね。缶詰なら直ぐに食べれるし調理済だから問題ないな。保存も効くし…じゃあ、早速一つ頂くとしようかな」
「どうぞ、ごゆっくり食べてください」
エクスは三つの缶詰の中からツナ缶を取って食べることにした。
蓋を開けると油に浸かったピンク色のツナが姿を現す。
マヨネーズと醤油があればツナマヨ和えが出来るが、残念ながらそういった調味料は発見されていない。
フォークを右手で持ってツナを突き、口の中にツナを放り込む。
ゆっくりとツナの味を噛みしめる。
油がツナの旨さを引き出しながら口の中に染み渡っていく。
目を閉じて、ごくんと音を立ててツナを胃袋の中に入れる。
染み渡るツナの味に感激してエクスは思わず感嘆を漏らす。
「ああ………美味いわ、胃袋にツナが入ってくるのを感じるよ……」
「それは良かったですね、エクスさんはツナの味は好きですか?」
「うん、こういう状況だからかもしれないけど、ツナの油がとっても口の中で絡んでいくんだよ。こう、外がヤバイ状況だからかもしれないけど普段の状態で食べるよりかは有難みもあって旨いと感じるんだ…もしかしてアヤって食べ物とか食べることって出来るの?」
「ええ、出来ますよ」
「………マジで?」
ロボットが食事を取ることができるという事にエクスは衝撃を感じた。
アヤはエクスに食事ができる経緯を説明した。
「生活支援用ロボットは食事の管理なども行う必要があります。例えばレストランの調理ロボットが消費期限が過ぎて腐っていたり傷んだ食品などを冷蔵庫から取り出して調理してしまい、お客様に食中毒を引き起こしたらレストラン側と調理ロボットを製造した企業側の責任だと訴えられてしまいます」
「確かに、腐った物とか出したら大問題になるよね………ということは前例があったってこと?」
「はい、過去にニューヨークの寿司レストランで傷んだ寿司ネタを調理ロボットがそのままお客様にお渡ししてしまい、集団食中毒を引き起こして巨額の賠償請求が発生した事があったのです。それ以降、料理などを行う必要がある調理ロボットや生活支援用ロボットには人間と同じように口が取り付けられて、食したものが安全かどうかチェックすることができるようになったのです」
ツナを食べながらエクスはアヤの話を聞いていた。
中々興味深い話を聞けたからだ。
エクスはアヤに口がついているのはあくまでも発声の為だと思っていたからだ。
だが、それだけではなくちゃんとした食の安全を確認するために備えられたものだと知ってから実用性に担っていると感心していたのだ。
「なるほど、つまりは毒見用ってわけか………食べた物はどうなるんだ?」
「食べた物はこの身体の中心部に設置されている”服用物内燃機関”によってエネルギーとして吸収されます。ですが、充電方式よりも効率的ではないので気休め程度のものになりますね。あくまでも食の安全が確保されているかどうかを確かめるために行われることが多いです、それに消化器官も…」
アヤが説明していると突然ドアからドーンと激しい衝撃音が伝わった。
その衝撃音にエクスはびっくりしてツナ缶を落とし、フォークを置いて素早くSSP220を構える。
楽しい食事を邪魔されたエクスは非常に苛立っていた。
無理もない。
せっかくの食事が台無しにされたのだ。
しかもツナ缶はまだ半分も食べていない。
食の恨みは恐ろしい。
ドーン、ドーンとドアを殴るような音の主は絶対に殺さないといけない。
額に青筋を立てながらドアを打ち破ろうとしている奴を待ち構えるのであった。




