お泊り女子会
「なんだかひどく懐かしく感じます」
私の部屋に入ったレイリーズはそう言って部屋を見回した。
「懐かしいってまだ1月も経ってないじゃない」
イオルは遠慮なく私のベッドに座った。
「ねぇ、イオルは別に自分の部屋に戻ってもいいのよ。この部屋そんなに広くないし」
「何? あたしを邪魔者扱いする気?」
「そうじゃないけど、床で寝るのも辛いかなって」
「大丈夫よ! ちゃんと毛布はあたしの部屋から持ってくるし。それに、別にあたしが床に寝るとは言ってないんだけど?」
「え? イオル、部屋主の私を差し置いてベッドを使う気!?」
「うふふ」
私とイオルのくだらない言い合いにレイリーズが笑いを零す。ああ、この感じ、少し久しぶりだ。
今日は、レイリーズがこの第三守護兵団の寮を去ってから初めて休みが合ったので、久しぶりに泊まりに来たのだ。いつの間にかイオルも参加することになっていて、今に至る。
「第二守護兵団はどう?」
「特務部隊に来る前に戻っただけですから、そんなに違和感はないです。ただ、ダイス帝国との国境解放に向けて主だって動くのは私達の部隊なので、これからが忙しくなりそうです」
「そっか、大変なんだね」
「そちらはどうですか?」
「キューレ様が皇帝になって、お披露目のパレードの警備と、王都で起きた小さな暴動を抑えるのに忙しかったけど、最近ようやく落ち着いて来た感じかな。来週には3日もお休みもらえることになったし」
「あ、ベルサロムの海に行くって話ですよね? リコとイオル、ルシェとベルロイにキースさんも」
「そうそう。レイとブルーム様も行けたらよかったのに」
「流石にこれからが忙しいと言うのに何人も休むわけに行きませんからね。キースさんが休みを取るのも相当苦労されたんですよ」
「本当に、よく休みが取れたよね」
休みがもらえると聞いて、イオルと長い休みは滅多にないのでバカンスの定番であるベルサロムの海に行こうと計画を立てたのだ。それをダメ元でキースにも話してみたら、無理矢理に休みを合わせてくれた。その代わり、今は休みなしで働いているみたいだけれど。
「リコはキースさんと離れても順調そうですね」
「まぁ……うん」
少し恥ずかしいけれど、私は肯定する。
「忙しくても週に一回はご飯を食べるようにしてるし」
「ブルームさんが、キースさんが幸せそうだって言ってました。顔がにやけてるって」
「そうなの?」
「私にはにやけているようには見えなかったのですが、ブルームさんが言うならたぶんそうなのだろうと思います」
「あの2人は付き合いが長いからね。ブルームはキースをからかうチャンスを逃したりしなさそうだし」
ブルームにからかわれて怒っているキースが容易に想像できる。
「その様子だと、レイも幸せそうね。ブルームさんと」
「あ、そうだ。聞こうと思ってたんだけど、ちゃんと告白された?」
「え……ちょっと」
レイリーズはみるみる内に顔を赤くする。だけど、私とイオルは追求をやめる気はないので、レイリーズにずずっと詰め寄る。
「まぁ……その、ご想像にお任せします」
耳まで赤くしたレイリーズは顔を覆って逃げた。こんなに可愛いレイリーズを見ていると、ブルームがキースをからかう気持ちが少しわかる気がする。
「レイが幸せなら良かった。これでまた告白もせずに適当に扱って遊んでるようなら、ぶっとばしてやらなきゃって思ったから」
「リコ、また物騒なことを」
レイリーズは目を丸くしてから幸せそうに微笑んだ。
「何か変なことしたら私にちゃんと報告するんだよ? 浮気とかさ」
「そういうのは今のところ大丈夫だと思いますよ」
「そうなの?」
「はい。前は夜に出歩くことが多かったんですけど、今はだいたいキースさんと寮でお酒を飲んでいますから」
「へぇ」
「だから、キースさんに女性が近づく気配はありません! 安心していいと思います」
「それは……まぁ、あんまり心配してない。何かあれば、読めちゃうし」
キースと会うと触れ合うことが多いから、心の中で嘘のつけないキースが浮気をしたらすぐにわかってしまうだろうし、今のところそんな様子も見られない。
「キース様も厄介な彼女を持ったものね。まぁ、あの一途なキース様がそんなことするとは思えないけど」
「そう……かな」
「そうですよ! キースさんは天地がひっくり返っても浮気をするとは思えませんね」
人にそうやって言われると照れる。私もレイリーズみたいに顔が赤くなってしまいそうで、それを隠すために頬に手を当てた。
「あー、いいなぁ。彼氏」
イオルは私のベッドにゴロリと転がる。
「あたしも頑張らなくちゃ」
レイリーズが悲しそうな顔になって私と目を合わせてくる。私も困ったように笑うことしかできない。
「ねぇ、イオル。本当にルイフィス隊長に結婚相手を紹介してもらうつもり?」
「当たり前でしょ? あたしはそのために守護兵団に入ったんだから」
イオルはゴロンと寝返りを打って、体勢をうつぶせに変える。
「あたしの意志は揺らがないの。仕事が落ち着いて、ようやく相手探しができるんだから」
それは私達に言っているというより、自分に言い聞かせているように聞こえた。
「私はイオルにも幸せになってほしい」
「なるわよ。見てなさいよ、2人よりもいい男捕まえて、幸せになってやるんだから!」
そう言って笑うイオルの顔は痛々しい。イオルは弟のために、お金のある人と結婚しようとしている。自分にもあるかもしれない恋心を捨てて。
「ルシェとかベルロイとかはどうなの?」
「は? 考えたこともないわね」
「いいと思うんだけどな」
「うーん、まぁ、もしあたしに結婚しなくても大金が舞い込んできたら、考えられなくもないけど……」
ルシェは突っかかってばかりだけどイオルと仲がいいと思うし、ベルロイは誰よりもイオルのことを理解していると思う。それに、2人共イオルのことを──
「あたしの話は終わり! 喉乾いちゃったから、飲み物取りに行くわよ!」
ガバッと飛び起きたイオルは元気よく部屋から出ていく。
どうにかしてイオルが幸せになればいいと思う。今まで苦労して来たのだから。そのために私に何ができるだろう?
答えの出ないまま、私はレイリーズと一緒にイオルの背中を追いかけて部屋を出た。
※お知らせ
と、いうことで予告しておりましたイオルをめぐるスピンオフ「あなたの恋心は隠せない模様です」の連載を始めました!
イオルとルシェ・ベルロイの三角関係な後日談でございます。
ぜひイオルが幸せになるところを見届けてやってくださいませ!
下のURL、もしくはシリーズ設定しましたので本作目次の作品名上にございます「ユーロラン帝国シリーズ」から是非お願い致します。
http://ncode.syosetu.com/n6195ed/
なお、「あなたの本心~」にも引き続き後日談を投稿していきます!
のんびりにはなりますが、お待ちいただけますと嬉しいです。




