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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
6.スパイ事件の真相に迫れ!
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閑話 氷の乙女4(レイリーズ視点)

 結局、私は上手く説明ができない内にブルームさんのお父様であるライト様がご帰宅され、一緒に食事をいただいた。ライト様は物腰が柔らかなとても優しい方で、また一段と場の空気が華やいで感じられた。


 そんな楽しい時間なのに、私はケイティ様がご存命でいらっしゃった時のことを考えてしまう。ブルームさんがまだ子供の頃。3人で囲む食卓はどのようなものだったのだろうか。


 あまり喋らない私を気使ってくださったのか、私は食事が終わると早々に客室に案内された。そこは、突然やってきたというのに綺麗に整ったお部屋だった。寮の部屋の3倍はありそうな広さ。私は椅子に身体を落ち着ける。


 ブルームさんにちゃんと説明しなければ。突然泣いてしまって、驚かせてしまったに違いない。ケイティ様のお話もたくさん聞きたい。どんな方だったのか、どんな最期だったのか。


 お母様が亡くなって、ブルームさんはどんなに悲しかったことだろう。私だってあんなに悲しいと思ったのに。


 ブルームさんに会おう、と思って気合を入れて立ち上がってから、ここがガリオン家だったことに思い当たる。私はブルームさんの自室の場所を知らないではないか。


 どうしよう、どうしたらお会いできるだろう。屋敷をうろうろとしては、ご家族のご迷惑になってしまうだろうか。


 悩みながらも扉へ向かう。それでも、やっぱり今日ブルームさんとお話したい。まだダイニングに誰かいらっしゃるかもしれないし。


 思い切って扉を開ける。すると、目の前に今まさに会いに行こうと思っていた人が立っていて、私は「きゃっ!」と声をあげてしまった。


 ブルームさんも同じように目を丸くしてから、少しバツが悪そうな顔をして、


「驚かせてごめん。どこか行くところだった?」


 と、尋ねられた。


「あ、ブルームさんに会いに……」


 ブルームさんは柔らかく微笑んだ。


「入っても?」


「はい」


 私とブルームさんは向かい合って座る。ブルームさんとはいつも兵団で一緒にいるはずなのに、そこで見る姿とはまったく違う雰囲気だ。分厚いコートを脱いで身軽になったような、そんな落ち着きがある。素の姿とも思えるブルームさんを見ていると、心臓がドキドキして、離れているのに聞こえてしまうのではないかと思うほどだ。


「先程は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」


 まず、私はそう言って頭を下げる。


「ケイティ様の絵を見て、私はケイティ様にお会いしたことがあると気がついたのです」


「母さんに?」


 ブルームさんがわかりやすく目を丸くする。


「はい。お名前がわからなかったのですが、ずっと再会したいと、そう願っていた方でした」


「レイが……母さんと」


 信じられない、という風にブルームさんはそう呟いた。ライト様と同じ紫色の瞳が右に左に彷徨っている。


「実は今日お話した、子供の頃に命を救ってくださった兵士様、というのがケイティ様のことなのです」


「ならず者に捕らえられて殺されそうになった、あの?」


「はい」


 私はその時の情景を思い出しながら話し出す。


「私を助けてくださったのが軍服を着たケイティ様でした。美しく強い氷の魔法で男達を倒し、私を救って下さった」


 銀色の長い髪の毛をなびかせて、女性が1人で男達を倒していく様は、他人事のように美しかった。女神様が地上に現れたのではないかと思うくらいの気高さで、あっという間に私を救って下さった。


「安心して泣いてしまった私を抱き上げて孤児院まで送って下さいました。後でどうしてもお礼が言いたくて、それなのに名前を聞くのを忘れてしまったので途方に暮れていたのですが、ケイティ様が軍服を着ていたことを思い出し、守護兵団に入ればもう一度再会できるのでは、と気がつきました」


「そうか、それが母さん……」


「はい。今の私を作ってくださったのは、ケイティ様なのです。ケイティ様に命を救われ、憧れて守護兵団に入り、髪の毛も同じように伸ばしたんですよ」


 私は自分の髪の毛を掬って見せる。


「まさか、こんなに身近に母さんを知る人がいたとは。母さんは守護兵団では有名な人だったけれど、もう過去の人だからね」


「過去の……」


 私は膝に乗せた自分の手をぎゅっと握った。


「ケイティ様のことについて、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 ブルームさんにとっては辛いことかもしれない。ごめんなさい、それでも私はケイティ様のことが聞きたい。


 ブルームさんは遠くを見つめながら口を開いた。


「母さんは氷の乙女なんていう異名がつくほど魔力の高い人間だった。今の俺の魔力じゃ到底届かないくらいのすごさだった。落ち目だったガリオン家を救ったのも、母さんのおかげだと言っても過言じゃないくらいに」


 やっぱりケイティ様はすごい方だったんだ。子供ながらに、ケイティ様の氷魔法の威力はすごいと思ったのだから。


「母さんは第二守護兵団に所属していたが、第一守護兵団への異動が内々では決まっていた。……そんな時」


 ブルームさんは目を伏せた。


「任務中にあっけなく死んでしまった。1人で何人もの悪党を相手にして」


 顔がこわばってしまう。あの強いケイティ様が。


「俺ももちろん悲しかったが、父さんの荒れっぷりの方が酷かった。今はあんなに落ち着いたけれど、昼間から酒を飲んだり、仕事にも行けずに守護兵団を辞めたり、本当に……酷かった」


 あんなに優しかったライト様がそこまで荒れるなんて想像がつかない。そんなになってしまうくらい、ケイティ様のことを愛していたということなのだろう。


「ようやく立ち直ったのは3年ほど経った頃だったかな、親切な人の紹介で文官として城に戻ってね。雑用のような仕事ばかりだと言っていたけど、それでも仕事がもらえただけで奇跡みたいなものだ。それからしばらくして再婚もして妹ができた、というわけ」


 ライト様ももちろん辛かったはずだけれど、ブルームさんだって辛かったはずだ。その頃のガリオン家のことを思うと、胸が傷んで私はぎゅっと服の上から抑えた。


「周りの人間も俺も父さんも、まさか母さんが死ぬなんて思ってもみなかった。あんなに強い母さんがってね。でも、どんなに強くても死ぬ時は死ぬ。それが兵士というものだ」


 ブルームさんの瞳は暗く陰っている。


「リコルちゃんにさ、弱虫って言われたよ」


「え?」


 突然のリコの名前と弱虫というワードに驚いて聞き返した。


「レイのことを傷つけるなって」


「へ?」


 よく意味がわからなくてただ聞き返す。ブルームさんが私を傷つける、弱虫?


「その通りだと思ったよ。俺は怖いんだ」


 ブルームさんは苦しそうに笑う。


「誰かに執着して、それが失われた時が。父さんを見ているから余計に」


 ブルームさんが私に何を伝えたいのか、私は正確に理解できていない。それでも、ブルームさんが苦しんでいるということだけはわかった。


「私はブルームさんの前からいなくなったりしませんよ」


 弱々しいブルームさんの瞳が私に向いた。


「私はケイティ様に救われた命を大切にしたいのです。私はケイティ様のように強くありませんが、その分慎重になれていると思います。この命をこの国のために、そしてブルームさんが歩んでいく道の手助けになるように、使っていきたいです」


 ブルームさんが苦しんでいるものから解放されてほしい。そんな気持ちを込めて、拙い言葉を伝えていく。


「まさか、私を救って下さった兵士様がブルームさんのお母様だなんて、不思議な縁だと思いましたが、今は何となく、この縁はケイティ様が繋いでくれたのではないかと思います。守護兵団に入って、初めてブルームさんの魔法を見た時、ケイティ様の魔法に似ていて綺麗だと思いました。それからずっとブルームさんのことが気になって、気がついたらこんなに好きになっていました。それもすべて、ケイティ様の……」


 驚くところではないはずなのに、ブルームさんの瞳が僅かに見開かれる。それを見て、私は自分の口にしてしまったことに気がついた。


 私、今どさくさに紛れてブルームさんに自分の気持ちを……!?


「あ……え、えぇっと……」


 誤魔化しようもなくて、途端に恥ずかしくなり顔を覆う。どうしよう、今伝えるつもりなんてなかったのに!


 顔が熱くなって、その熱が耳まで広がっていく。ブルームさんを元気づけようと、安心してもらおうとしていただけなのに、どうしてこんなことに!?


「ぷっ」


 ブルームさんが吹き出した声がして、手を僅かにずらして様子を窺う。すると、


「ははははは!」


 と、ブルームさんは見たこともないくらい大きな口を開けて笑い始めた。


「!?」


 訳が分からなくて、私は動揺しながらその様子を眺めているしかない。何か変なことを言ってしまっただろうか? 困惑しながらも、思い切り笑うブルームさんを見ていると、何だか嬉しい気持ちにもなってくる。


「いや、ごめんごめん」


 ブルームさんは眼鏡を外して涙を拭った。


「レイは可愛いなぁ」


「……へ?」


 さらっと口にした言葉に耳が止まる。可愛い? 私が? ブルームさんが女性を褒めているところはよく聞くけれど、私を褒めてくれたのは初めてのことだった。


「レイ」


 ようやく笑いの落ち着いたブルームさんがはっきりと私の名前を呼んだ。


「俺は弱虫で情けない男だけど、ようやく自分の気持ちに向き合えそうな気がする。ありがとう」


 何故お礼を言われるのかもよくわからず、私は「いえ……」と、言いながら頭をフル回転させる。


「今は任務も重要な局面だから、お互いにそれに集中しよう。でも、任務が落ち着いた時には……」


 ブルームさんの眼鏡の奥の瞳が優しく細められた。


「今度はちゃんと俺から告白させてくれ」


 そう言ったブルームさんの表情は、今まで見たことのない慈愛に満ちたもので、告白という言葉の意味するものを私はその表情から察する。恐らく真っ赤になってしまった顔でこくりと頷くと、ブルームさんはゆっくりと立ち上がった。


「明日は重要な日だ。ゆっくり休めよ」


 私の近くまで歩いてきたブルームさんは、私の髪の毛をひと束掬って、そこに唇をつけた。その動作があまりにも美しく、私はただただ見惚れてしまう。


「おやすみ、レイ」


 惚ける私を置いて、ブルームさんは部屋から出ていった。私は魔法にかかってしまったかのように、しばらくそこから動くことができなかったのだった。

●登場人物の見た目紹介


ライト・ガリオン(45)

性別:男

身長178、紫色の瞳。

赤茶色の髪の毛は後ろに流している。

美人の女性を2人も射止めているところから、相当なやり手と思われる。世の男性からの嫉妬が計り知れない。

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