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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
6.スパイ事件の真相に迫れ!
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閑話 氷の乙女2(レイリーズ視点)

 私はこの上なく緊張しながら寮の1階へ降りた。今日はブルームさんのご実家にドレスの試着へ行くことになっている。任務上、仕方がなかったとはいえ、ブルームさんのご実家にお邪魔する日が来るなんて思ってもみなかった。


 リークル神国でのお土産の件だけでなく、今までの言動、特に昨夜の言葉からブルームさんが私に異性としての興味が無いことはよくわかった。興味がないどころではない、どちらかというと嫌われているのかもしれない。


 そう思うと胸が張り裂けそうに辛い。それなのに、ブルームさんのご実家に行けることに胸が高鳴っている自分もいた。嫌われているとわかったからといって、すぐに自分の気持ちが変わるわけではないのだ。


 朝、リコが私の部屋に来て「ブルームになにか酷いことされたら、すぐに報告して」と怖い顔で言われた。酷いことだなんて。ブルームさんは私のことが嫌なのだろうけど、私を傷つけることは決してしない紳士な方なのに。


 待ち合わせ時間よりも早く着いたのに、ブルームさんは既にそこで私のことを待っていた。


「おはようございます、ブルームさん。すみません、お待たせしました」


 私は高鳴る胸を落ち着けながら略式の敬礼をする。ブルームさんは薄く笑って、


「いや、時間よりもまだ早いじゃないか」


 と、言ってくれた。ほら、やっぱり。ブルームさんはいつも優しい。


「行こう。少し歩くけど、ごめんね。俺の家はオルナーガの家と違って、迎えの馬車が来るような家じゃないからね」


「いえ、それが普通だと思います」


「そうだよねえ。キースを見てると時々感覚がおかしくなりそうだよ」


 私達は並んで寮を出る。そういえばブルームさんとこうして2人でのんびり話すのも久しぶりだ。身体の中は緊張と嬉しさから来る熱で非常に忙しい状態になっている。


「ドレスを貸していただいてありがとうございます。私には持ち合わせがありませんでしたので、助かりました」


「古いものだし、流行りの形じゃないだろうけどね」


 そういえばブルームさんのお母様のものだと聞いている。お母様……今日、お目にかかることになるのだろうか。


「いいんです。私のような者がドレスを着ることができるだけで、夢のようですから」


「そうか、レイは確か……」


「はい、ベルサロムの孤児院の出身です」


 孤児院出身の者が貴族の着るドレスを身につける機会などない。本来なら私だって生きている内に一度も着ることなどないものだ。それを一度でも着ることができるのだから、私は幸せ者だろう。


「それで第二守護兵団まで上がってきたのだから、相当な努力をしたのだろうね」


「私は運が良いのです。良い剣の師に恵まれ、能力ではなく魔力を持っていたために魔法の師にも出会えました」


 孤児は、同じ能力を持っていたはずの親がいないので使い方を教えてもらうことができず、その身に宿した能力を持て余していることが多い。それに比べて魔力保持者は多く、他人からでも学ぶことができる。もし私が能力者だったなら、ここにはいなかっただろう。


「実は、昔死にかけたこともあったのですよ」


「死にかけた?」


「はい、私が10歳の時、ならず者に捕らえられ、売り飛ばされそうになったことがありました。それが嫌だった私は魔力を暴発させ、手に余ったならず者は私に刃を突き立てました。そこを、守護兵団の兵士に助けられたのです」


「それは……助けが来て良かったね」


「はい、たまたま任務で通りかかってくれなければ、私は死んでいたでしょう。私は本当に運が良いです」


 その時のことは私の忘れられない思い出だ。その兵士は女性で、長い銀髪をなびかせながら氷の魔法を使って私を救ってくれた。私は危ない状況だったにも関わらず、その女性のあまりの美しさに見惚れてしまったほどだった。


「だから、レイも兵士に?」


「はい、助けられた命を使って、私も同じように人を助けられるような強い兵士になれたら、と。そして、できたらその兵士様にお会いして、あの時ちゃんと言えなかったお礼を言いたいのです。名前もわからず、未だに再会できていないのですけれど」


 あんなに強い女性だ、まだ守護兵団にいるのならばきっと有名な兵士となっているだろう。それなのに、すぐに再会できないのは、彼女が誰かと結婚するなりして兵士を辞めてしまったのではないかと思っている。それでも王都にいればいつか会えないかと、希望は捨てていない。


「すみません、私の話ばかり」


 気がついたら自分の昔話をしてしまっていた。しかも、ブルームさん相手に。興味がない話を聞かせてしまった、と不安になるが、ブルームさんはまったく気にしていない様子で、


「いいよ」


 と、笑ってくれる。


「そういえば、今日突然お邪魔して大丈夫なんでしょうか?」


「あぁ、大丈夫だと思うよ。この時間なら母様付きのメイドもいるし、対応してくれる。近々顔を出すとも言っておいたからね」


「そうでしたか」


 家族のことを話すブルームさんは、どことなく穏やかな表情。家族のことは聞いたことがないけれど、仲は良いのかもしれない。


 帰る家があるというのは単純に羨ましい。私にも生まれ育った孤児院があって良い思い出はたくさんあるけれど、世話をしてくれた神父様や乳母達はそれぞれの理由で孤児院を離れ、ほとんど知った顔はいなくなってしまった。


 もちろん一緒に育った子供たちももういない。あの場所は私にとって育った家であっても、帰る場所ではないのだ。


「あ、そうそう。妹がうるさいかもしれないけど、適当に相手していればいいから」


「妹さん、ですか?」


 ブルームさんに妹さんがいらっしゃるなんて初耳だ。


「うん、ベルキットと言う、7歳の妹だ。俺の唯一の兄妹だよ」


「随分と歳が離れていらっしゃるのですね」


「母親が違うからね」


 あっさりとそう言われてから、立ち入った事情を聞いてしまったことに気がついた。


「申し訳ありません」


「いや、いいよ。俺も妹も、人に言えないようなやましいことをして生まれた子供じゃないから、隠す必要もないし」


 これ以上は聞くまい、と思い意識的に口を閉じて、今ブルームさんに言われたことについて考える。ブルームさんも妹さんも、正式なガリオン家の子供。つまり、2人共、母親はちゃんとガリオン家に入った人、ということ。それならば、先に生まれたブルームさんのお母様は……?


「着いた」


 ブルームさんに声をかけられて、思考を一旦ストップさせる。貴族のお屋敷が立ち並ぶ地域の中腹に建つその家は、私が育った孤児院よりも遥かに大きい建物だ。


 ブルームさんが門を開けてくれて「お邪魔します」と、小さく言ってから敷地内に足を踏み入れる。大きくはないが、しっかりと手入れされた庭を通って入り口へ向かう。色とりどりの花が風に吹かれて幸せそうに揺れていた。


 大きなドアの前に立ってブルームさんがドアをノックすると、程なくして顔に優しげな皺を浮かべたメイドさんが顔を出した。ブルームさんを見ると、


「まぁ、おかえりなさいませ」


 と、うやうやしく礼をした。その後で私の存在に気がつくと、わかりやすく目を丸くする。


「母様はいる?」


「はい、すぐに呼んで参ります」


 ブルームさんと私は一緒に屋敷の中へ入る。そこは小さな広間になっていて、私はきょろきょろと辺りを見回してしまう。


「兄さま!」


 階段の上から小さな足音と共に嬉しそうな声が聞こえてきた。見上げると、今にも転んでしまいそうな危うさで、小さな女の子が駆け下りてくる。栗色の長い髪の毛が彼女の動きに合わせてふわふわと踊っていた。


「ベル、そんなに急ぐと転んでしまうよ」


「兄さま!!!」


 ブルームさんの忠告など聞かず、一目散に駆けてきた女の子は思いっきりブルームさんに抱きついた。ブルームさんはそれをしっかりと抱きとめて、嬉しそうに目を細めている。


「やっと帰って来てくれました! お元気でしたか?」


 この子が先程ブルームさんが言っていた妹さんなのだろう、ということがすぐにわかる。ブルームさんと顔立ちは似ていないが、瞳の色がブルームさんと同じ紫色だ。


「うん、元気だよ。少し仕事が忙しくてね」


「忙しくてももう少し帰ってきてくれてもいいのに!」


「王都を離れる仕事が多いんだ」


「まぁまぁベル。兄様を困らせてはいけませんよ」


 ベルキットに遅れてゆったりと階段を降りてきた女性がブルームさんに声をかけた。女性はベルキットと同じ栗色の長い髪の毛で、エメラルド色の瞳が何とも美しい。やはりブルームさんとはあまり顔立ちは似ていない。


「母様、只今戻りました」


「おかえりなさい、ブルーム」


 女性は優雅に微笑んでから、私に目を向けた。


「こちらは……」


「まぁ!!!」


 ブルームさんが私を紹介しようと口を開きかけると、ベルキットが大きく声をあげてブルームさんの腕から離れて私の元へ駆けてきた。


「あなた、兄さまの恋人なのね!」


 キラキラと輝いた顔が愛らしいが、突然盛大な勘違いをされてしまっている模様。


「え、いえ……」


「言われなくてもちゃんとわかるわ! だってあなた……」


「この人は俺の部下だよ。任務で用事があって、この家に来てもらった」


 ブルームさんがベルキットの声を遮って私のことを紹介してくれる。


「レイリーズ・リッチモンドと申します。突然お邪魔してしまい、申し訳ございません」


「レイリーズさん、初めまして。ミリエル・ガリオンです」


 ブルームさんのお母様、ミリエル様が私に丁寧に挨拶した。その立ち振舞からは気品が感じられて、私は恐縮してしまう。


「ベルキット・ガリオンです! お姉さん、本当に兄さまの恋人じゃないの?」


「はい、ご期待に添えず、申し訳ありません」


 私はベルキットの視線に合わせて腰を折って謝った。


「そんなはずないのに」


 ベルキットは不満そうに頬を膨らます。


「彼女に母さんのドレスを貸したいのです。グレース、見繕ってくれるかい?」


「かしこまりました」


 メイドのグレースが2階へと上がって行く。


「それでは私もお手伝いしましょう」


「そんな、お手を煩わせるわけには!」


 私はミリエル様の申し出を断ろうとするが、ミリエル様は楽しそうに、


「綺麗な女性のドレス姿を見るのは女性の楽しみよ」


 と、言って笑った。


「母様、よろしくお願いします。あ、ベルにはお土産を買ってきたんだよ」


「まぁ、本当に!?」


「リークル神国に行ってきてね……」


 ブルームさんはベルキットを抱えて楽しそうに話しながら屋敷の奥へと歩いて行く。リークル神国でのお土産。と、いうことは、あの女性用のお土産はベルキットへのものだったのか!


「それじゃあレイリーズさんはどうぞこちらへ」


 私はミリエル様に促されて2階へと上がる。

●登場人物の見た目紹介


ベルキット・ガリオン(7)

性別:女

身長115、紫色の瞳。

ブルームの腹違いの妹。

兄には似ず、ふっくらとした愛らしい顔をしている。将来有望だ。

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