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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
5.スパイを捕らえろ!
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パリス地方にて 告白1

「善良な一般国民の家にあんなものを連れ込むとは……」


「どこが『善良な一般国民』よ」


 私は困り果てたふりをするアスモに睨みをきかせる。ここはアスモの診療所。守護兵団にダイス人を預けられないので、他に置いておける場所といえばここしか思いつかなかった。


 それに、レイリーズの怪我も診てもらいたかった。アスモは一応医者だから。本当に傷は浅かったらしく、簡単な治療は既に終わっている。


 ダイス人は裏手の倉庫に押し込んで、ルシェとベルロイに監視を任せた。残りの私達は袋に詰め込まれたダイス人を見て目を丸くしたアスモに場所を貸してもらえるように説明しているところだ。


「事後報告になりすみません」


「謝る必要ないよ、ブルーム」


「いや、謝ってくれていいんだよ、リコル……」


 アスモは情けない表情を作っているが、本当は心から楽しんでいることはわかっている。


「別にいいでしょ。あの倉庫も本来の用途を全うできて喜んでいるはずよ」


「倉庫の用途は物の保管でしょう」


 アスモに頼るのは癪だったが、アスモはパリス地方一の情報屋。アスモを知っている者ならば不用意に近づかないし、一番安全な場所と言えるのだ。


「で、あいつらをこの国に呼んだ人物について教えてほしいんだけど」


 捕らえた男2人の身元を話さないわけにもいかず、アスモには簡単に説明をした。情報を渡したのだから、今度はこちらがアスモから情報をもらう番だ。


 ダイス人がユーロラン帝国に入ってきた背後には、御者に『差し入れ』を渡した守護兵団の兵士がいる。こんな重大な犯罪を犯すには何らかの大きな力が働いていたはず。私達はその大きな力を追わなければならない。


「僕じゃなくて本人に『聞けば』いいだろう?」


 アスモが意味深な笑みを浮かべてくる。心を読めば、と言っているんだ。そんなことわかってる。聞いた情報をキース達に告げることができないから、こうして頼んでいるというのに。


 私はアスモを睨みつける。


「『聞いて』も教えてくれなかったわ」


 みんなはキースが行った尋問の話をしているのだろうと思っているだろうけれど、私とアスモの会話はそうではない。


 硬直が解けてからキース達がダイス人に問い詰めたが何も口を開かない。私も手を当ててはみたが、男から読み取れた思考は『何を聞かれても絶対に喋らない。感情を表に出すな』と、自分を律する声。何とか聞き出せたのは、後から助けに来た男の名前が『ジェヴォ』ということ。男がしきりに繰り返していたビブリオという名前の男は別にいるらしい。


「ふぅん」


 アスモが立ち上がって私に近付いてきた。そして、「本当のことを教えてよ」などと言いながら、肩を揉むふりをして私の首筋に手を当ててきた。


『で?』


『本当に聞けてない』


『何も?』


 本当はビブリオ、という人物のことを聞いてみたい。しかし、これはこの国の重大な機密だ。アスモに言えば、別の誰かに伝わる可能性だって否定できないし、それをするのは危険すぎる。


『聞けたのは頑なに喋らないという思考だけ。それ以外は何も聞けなかった』


 アスモはすっと私の肩から手を離した。きっと、私に心を読まれないようにしたのだろう。何か考えているに違いない。


 アスモはゆっくりと元いた椅子に戻っていく。


「で、彼らをこの国に入れた人物とか行き先に心当たりはないの?」


「残念ながら」


 アスモは腕を組んで薄く笑う。


「一時的な居場所はパリス地方にあるんだとは思う。ここからだと王都は遠すぎるだろう?」


 やっぱり狙いは王都なんだ。私はじっとアスモの目を見つめる。


「でも、そこに長く留まっている様子はない。他に潜伏場所があるんだろうね。それ以外のことは僕も知らないよ。誰が彼らをこの国に入れてるのかも含めて。この件に関しては簡単には掴めない」


「やっぱりね」


 はぁ、と私は溜息をつく。


「前回、私が来てからしばらく診療所を空けてたでしょ? どうせ気になって調べてるんだと思ってたわ」


 アスモは興味の塊だ。気になった情報は調べずにいられない性格。だから、診療所を出て調べ回っていると思っていたのだ。


「リコルには敵わないねえ」


 アスモは両手を挙げて降参のポーズを取った。


「かなり大量の人間が入ってきているはずよ。それでも何も掴めないの?」


「いや、そんなに大量の人間は入ってきていないよ」


「だって……」


 サイが言うには10日に1度くらいのペースで馬車はソーケトルに停まっている。半年前くらいから始まったとのことだから、15人以上は既に入国しているはずだけど……


「リコルは頭が固くなったのかい? 入るだけとは限らないだろう」


「あ……」


 そうか、出入りしているのか。ユーロラン帝国で掴んだ何かを母国に持ち帰って報告する。確かにそれが普通だ。


「それにしても、頻繁に入って来られない分、厳選された人間が入ってきているはずだ。それなのに、リコル達に為す術なく捕らえられてしまうとは、ね」


 アスモは柔らかく笑う。そう言われてみればそうだ。武力に長けた人間ならば、気配を察知して反撃してきてもおかしくないはずなのに、何故それをしなかったのだろう。後から加勢にやってきた男だって、結局能力や魔力を使わなかった。いや、できなかった?


 腕を組んで様々な可能性を考える。


「ここを使うのは構わないけど、あまり派手なことはしないでよ。僕は目立つのが嫌いだから」


 アスモはそう言い残すと、悩む私を置いてさっさと階下に降りていってしまった。アスモがいなくなると、ブルームが、


「リコルちゃんが何故あそこまで情報屋とやり合えたのか、わかった気がしたよ……」


 と、言って苦笑した。


「結局上手く聞けなかった」


 たぶんアスモはもう少し情報を持っていた。しかし、私が知り得た情報を全てアスモに開示せず、アスモはそれに気がついていたからこそ言わなかったのだろう。


 アスモから聞けたのは、スパイの狙いが王都だということ。王都で得た情報をダイス帝国に持ち帰っていること。ダイス人が能力や魔力を使わなかった裏に何かがありそうだということ。


 そして、それを裏で手引している人物が守護兵団内にいる。ビブリオ、という人がかなり怪しい。敵に塩を送るようなことを、何故。


 ビブリオ。ダイス人の思考から考えて、守護兵団の兵士である可能性が高い。その正体がわかれば話は早いのに、キース達に言えないことがもどかしい。掴めなかった尻尾をようやく掴んだ。それなのに、私はみんなに相談することができない。聞けばその人物がわかるかもしれないのに。

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