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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
4.ユーロラン帝国の闇
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リルルートにて狙われた特務部隊5

 部屋には私とレイリーズが待機してイオルが目覚めるのを待ち、男性陣は一旦部屋から退出している。私とレイリーズは言葉も少なくただイオルが目覚めるのを待った。


 イオルは静かな寝息を立てながら眠っている。私のせいでこんなことに、という後悔と、無事に助けられてよかったという安堵が入り交じっていた。


「う……ん」


 微かな呻き声と共にイオルは目を開けた。赤茶色の瞳を揺らめかせ、その瞳が側に座っていたレイリーズにぶつかると、


「レイリーズ……?」


 と、掠れた声で名前を呼んだ。


「イオル! 大丈夫ですか!?」


 レイリーズの後ろから私もイオルを覗き見ると、イオルと目が合った。


「大丈夫?」


「あたし……」


 イオルは顔をしかめて今の状況を思い出そうとしているようだ。


「誰かに捕らえらたのは覚えてる?」


「あぁ……」


 思い出したのだろう、イオルは眉間の皺を深くした。


「聞き込みをしても全然情報が得られなくて、うっかり路地裏に入っちゃって、そしたら後ろから誰かに拘束されて……。気がついたら暗い部屋に手足を縛られて入れられてた。たぶん薬を盛られてたんだと思う。意識もぼんやりしてて……」


 イオルは自分の記憶を確かめるように言葉を紡いだ。段々と意識がはっきりしてきたようで、話し方がしっかりとしてきた。起き上がろうとするイオルをレイリーズが助けて起こしてやった。


「みんなに助けを求めた後、すぐに男が二人来た。何かの倉庫みたいなところから抱えられて馬車に乗せられた。その後はどこかに連れて行かれて、あたし、誰かを殺すように命令された」


 イオルが身震いをした。そんなイオルの肩をレイリーズが抱いた。


「リコが助けてくれたんですよ。ここまではルシェが抱えて連れて帰ってきてくれて。犯人は……すみません、捕らえられませんでしたが、目星はついているんです」


「リコルが……そういえば夢でもあんたが出てきたような気がする。負けるなって励ましてくれて、喧嘩したこと謝ってくれたような」


 能力者に暴走させられていて私が呼びかけた記憶がはっきりとせず、夢として認識しているようだった。それならそのままでいい。私はベットに座ってイオルの手を握った。


「無事で良かった。本当にごめんね」


「……っ!? 何よ、あんたらしくもない」


 イオルは少し顔を赤らめてそっぽを向いた。手からは動揺の思考が伝わってくるが、嫌だとは思っていないようだった。私とレイリーズは顔を見合わせて微笑みあった。


 イオルが目覚めたことを伝えると男性陣はすぐに部屋に入ってきた。イオルの様子を見ると一様に安堵の表情を浮かべた。


 起きたばかりで申し訳なかったが、私達はすぐにフレイに連絡を取らなければならない。イオルは嫌な顔もせずに承諾し、身体はまだ辛いだろうに通信を繋いでくれた。


 今日あったことを報告すると、フレイは固い声でその報告を受けていた。犯人と思しき人物の名前を告げる前に、フレイから、


『実は君たちが捕らえた荷馬車だが、目撃証言から近くの献上農家へ通じている可能性が出てきた。その献上農家だが、キャッセル家と交流があることがわかってきた』


 と、言われた。フレイの声は険しく、声も小声になっている。


『君たちには注意を促すつもりだったが……一足遅かったようだ。しかし、無事でよかった』


 フレイはそう言って声色を少し和らげてから、


『今後だが、君たちには本格的にスパイの流入ルートの捜索を行ってほしい。王都は危険がある、しばらくは戻ってこないほうがいいだろう』


 と、厳しい声に戻って告げた。私達がリークル神国とパリス地方へ別れて調査をしようと考えていることを伝えると『十分注意するように』としながらも、了承してくれた。


『くれぐれも気をつけてくれ。相手が守護兵団であっても油断しないように。何かわかったらこちらからも連絡する』


 そう念を押されてから通信は切れた。


***


 明日からの行動が決まると、男性陣は部屋から出ていった。私達は明日まで身体を休めることになった。イオルは能力を使って疲れたのだろう、再びベッドに横になり、レイリーズがその横についている。


「明日からキース様と二人きりなのね」


「そうだけど……何よ?」


 私はじとっとした目で見つめてくるイオルに居心地の悪さを感じる。


「別に、任務だからしょうがないでしょ」


 言い訳じみたことまで付け加えてしまう。レイリーズに助けを求めるような視線を送ったが、レイリーズもまた少し顔を赤らめて私を見ていた。


「何よ、もう」


 私は諦めてそっぽを向く。キースと二人だから何だと言うのだ。そんな私を見て、イオルは盛大に溜息をついて、


「キース様に同情するわ、この鈍さ……」


 と、呟いた。


 私は何とも言えぬ居心地の悪さにいたたまれなくなり立ち上がった。それに、馬のセンスルの様子が気になっていた。明日からまた長旅に付き合ってもらわなくてはならないので、その前に様子を見ておきたかった。


 私はレイリーズに馬小屋へ行きたいことを伝えると、


「それではベルロイ辺りについてきてもらったほうがいいですね。たぶん部屋にいると思いますよ」


 と、言われた。本当は一人で行きたいところだが、誰に狙われているかわからない状況で私一人では出歩けない。私はイオルをレイリーズに任せて男部屋に向かった。


 ノックをして部屋に入ると、キースとルシェがいた。


「どうした?」


「馬小屋に行きたくて……ブルームとベルロイは? ベルロイについてきてもらおうかと思ったんだけど」


「あいつらは明日のための馬車を調達に行った」


 キースは何故か不機嫌そうにそう言って、


「俺がついていく」


 と、言って立ち上がった。


「いいの? 休んでるところを」


「いい。さっさと行くぞ」


 キースは私より先に部屋から出て行ってしまう。何故キースは不機嫌なんだろうか。私はルシェに困惑の目線を向けてから、キースの後について部屋を出た。


 キースはどんどん先へ進んでしまっている。この人、私を守る気が本当にあるのかな。私は早足でキースに追いつくと一緒に馬小屋へ向かった。


 暗くて決して広くない馬小屋にセンスルはいる。私が近づくと静かな目で見つめ返してきた。私は軽く撫でてから、いつものように餌やりとブラッシングをしてやる。キースも自分が乗ってきた馬や他の隊員の馬を世話してやっていた。


 馬小屋の中は普段のうるささが嘘のように静かだ。私はこの静けさが好きなのだが、何だか今日は落ち着かない。キースと何か言葉を交わしたほうがいいかとも思うが、どうにも言葉が出てこない。


 やっぱりあの日からだ。キースに私の過去を打ち明けて、抱き締められて……。


 思い出すと顔が熱くなってしまう。特になんの意味もない行為だったのだろうと思うのだけど、何だか恥ずかしい。


 それにしても、やっぱりキースはさっきから不機嫌そうだ。元々怖い顔がさらに怖くなっている。もしかして、昨日人相が悪いと言ったことを怒っているのだろうか。


「キース、昨日はごめんね」


「何がだ? 酒か?」


 キースは手を止めて私を見た。


「それもだけど、人相が悪いとか言って」


「は? ……あぁ、そういえばそんなこと言ってたな」


 キースは今思い出したかのように不満げに顔を歪めた。


「キース、それで怒ってるんじゃないの?」


「は?」


「さっきから不機嫌そうだから」


「……」


 私が素直に伝えると、キースは呆気に取られた顔をしてから、


「……別に不機嫌じゃねぇよ」


 と、不機嫌そうに言った。


「何かあるなら言ってよ」


「何でもねえって」


「何でもなくないよ。私、また喧嘩して誰かを危険に晒すのなんて嫌だよ」


 イオルのことが脳裏にへばりついている。私は人の気持ちがわからない人間なんだと改めて自覚したのだ。今までろくに人と関わりを持って来なかったのだから人との関わり方がよくわからない。


 自分が気が付かない内に人のことを傷つけている。その可能性があるのだから、わからない内はちゃんと人の気持ちを聞いて理解しなければ。


 私が真剣にキースを見つめると、キースは何故か困ったような表情を浮かべた。しばらく躊躇った後、ようやくキースは口を開いた。


「……お前はベルロイのことが好き、なのか?」


「……へ?」


 キースに聞かれたのは私が予想もしなかったことで、私は変な声を出してしまった。キースはバツの悪そうな顔をしながらも、その質問を取り下げる様子はない。


「好きって……異性としてってこと?」


「……あぁ」


「違うよ。ベルロイは仲間としては信頼してるけど異性として好きとかそういうんじゃない。何で?」


「……違うならいい」


 私の答えを聞いて満足したのか、キースは私から顔を逸らして馬の世話を再開した。


「どうして?」


 意味がわからない私は再度質問するが、


「もういいって言ってるだろ。もう不機嫌にはならないから」


 と、ぴしゃりと話を切られてしまった。私は意味がわからなくて問いただしたかったが、これ以上聞くと逆に怒られてしまいそうなので、諦めることにした。


 まったく意味がわからないが、キースは言葉通りその後は不機嫌ではなくなった。何だろう、変なキース。

●豆知識


能力や魔力を使うと精神が削られるのか、疲れる。

風邪などで体調が悪いと発動しなかったり暴発したりするので危険だ。

何故疲れるのか、どういうメカニズムで能力や魔力が発動しているのかについては現在はっきりとはわかっていない。

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