リルルートにて狙われた特務部隊4
「すまない、逃した」
私達が宿についてしばらくしてからブルーム達が戻ってきた。
「仕方ないな。目的は達成できたのだから良しとしよう」
キースがベットで横になって眠るイオルを見ると、ブルームの後ろで控えていたレイリーズが飛んできた。
「イオル!」
イオルは静かに眠っている。腕や足についた縛られた痕が赤く腫れ上がっていて痛々しいが、その他に酷い外傷はない。休めば元気になるだろう。
「良かった……」
レイリーズは目を潤ませながらイオルの横に座り込んだ。私も上手くいった安堵感から、ずっと椅子から立ち上がれずにいた。
「イオルが起きたらこのことをフレイ隊長に報告だな」
「証拠は掴めてないけど……」
「キャッセル家という名前がわかっただけでも上々だよ。王都でも内密に調査を進めれば何かしらの手がかりが掴めるかもしれないし」
根拠はないが、フレイはそれを信じてくれるだろうか。私の根拠のない発言を信じてここまで着いてきてくれた皆には感謝しかない。
「今後は俺達もいつ、どこでも油断できない。またこんな事態に巻き込まれるともわからないからな」
「そうだね。敵はユーロラン帝国の皇帝傘下。守護兵団にも敵がいると考えたほうがいい。なるべく一人での行動は避けたほうがいいだろうね」
「特にブルーム、リコル、イオルは一人になるのは危険だ。外に出る時は絶対に俺達の誰かがつくようにしよう」
比較的安全だとされるリルルートですら狙われたのだ。いつでも誰かに狙われている可能性があるかと思うと恐ろしい。集団での行動が苦手な私もキースの発言に頷くしかなかった。
「それで、これからどうする? 王都に戻る?」
「敵がいつまた襲ってくるかわからないから、リルルートからは早く離れたいところだな」
「でもイオルさんが……」
「そうだね。まだ回復していないイオルちゃんを遠くへ連れて行くのは得策ではない。馬車も使うのが怖いし」
それでもゆっくりと王都へ向かうしかないだろうか。私達は頭を悩ませる。
「リークル神国に入るという手があるよ」
ブルームがそう提案した。
「キャッセル家が関わっている可能性が高いと掴んだはいいけれど、確実な証拠がないことに変わりはない。それならば、薬物が流通していると思われるリークル神国に入って調査するメリットはある。リークル神国では能力や魔法が使えない分、敵も俺達を狙えないから安全だ。リークル神国にはダイス帝国からの巡礼者もいるし、スパイの尻尾を掴める可能性だってある」
ブルームの提案は理にかなっているように感じた。しかし、そこで本当にスパイについて何か掴むことができるだろうか。
「スパイって結局何なんだろう」
私は疑問を口にした。
「皇帝が薬物の流通に関わっているとすると、スパイにも皇帝が関わっているってこと? でも、皇帝なんだから堂々とやり取りすればいいと思わない?」
「そもそも皇帝は大きな変革を望まないタイプの方。それが秘密裏にダイス帝国とやり取りしている、とは確かに考えにくい。だとすると、薬物とスパイの問題はまったく別、ということになる」
「皇帝が薬物を流通させていると知って、つけいる隙があると見たダイス帝国がスパイを送り込んでるのかな」
「目的は?」
「隣国がスパイを送り込む理由といったら戦だろうね、普通に考えると」
すべては憶測でしかない。私達はスパイについて、まだ何一つ手がかりすら掴めていないのだから。
「最初に立ち返って、スパイがどこから入ってきているのか調査しようか? ミョルンにもまだ調べていない国境があったよね。後はパリス地方の国境も調べていない」
「それを調べるのが一番手っ取り早いだろうが、どこで狙われているかわからない俺達が守護兵団の施設に行くのは自殺行為のように感じるな」
「そうだよね……」
敵は守護兵団内にもいるのだ。守護兵団の管理する施設に行くことは自分達の身に危険が及ぶだけでなく、自分達の行動を相手に知らせることにもなってしまう。
今だったらまだ、私達の調査がキャッセル家まで及んでいることに相手は気がついていないだろう。それならば、そのまま知られずに調査した方が王都のフレイ隊長達にとってもいいだろう。
それではどうやってスパイについての調査をするか。
パリス地方……。できればもう2度と行きたくない場所だ。しかし、能力以外で使える手札を私的な感情を理由に使わないわけにはいかないだろう。
重くのしかかる気を払って私は口を開いた。
「パリス地方についてなら……信頼できる情報屋を知ってる」
「情報屋?」
ブルームが聞き返してくる。キースの顔には何か思い当たったような表情が浮かんだ。
「今度は王都の時とは違って顔見知りの情報屋だから、皆を危険に晒すこともない。パリス地方の情報に関してはあいつが一番知ってる。それは私が保証する。上手く聞き出せれば、わざわざ関所に調べに行く手間も省けるし」
「リコル……いいのか?」
キースが私にそう尋ねてきた。私はこくりと小さく頷く。
私が頼ろうとしている情報屋は私の故郷で昔、私の命を救った男だ。私の本当の能力を知る唯一の人物。
本当は会いたくない。あの場所に行きたくもない。それでも、使えるものは使って前に進みたいんだ。
「わかった」
私の決意を汲み取ってくれたのかキースは頷いて、
「俺はその情報に頼ってみようと思う」
と、全員に向けて言った。誰も異論を挟む者はおらず、頷いて返事をした。
「じゃあ全員でパリス地方へ向かう?」
「全員で行く必要はないんじゃないかな。ブルームの言う通り、リークル神国を調査する必要もあると思う」
本来なら私一人がパリス地方に行けば十分だと思う。あの場所に皆を連れて行くのも気が引けるし。ただ、今は誰に狙われているかわからない状況。私が一人で行動するのは自殺行為に近いとも思える。
「俺がリコルに付いて行こう」
「キースが一人で?」
「情報屋に情報をもらいに行くのにそう人数は必要ないだろう。だが、イオルがリークル神国に入って通信ができなくなることを思うと、一番強いやつがリコルに付くのが確実だ」
キースは私の過去も情報屋についても軽く話してあるので、キースと二人でなら気が楽に思えた。私は、
「それがいいね」
と、同意した。
「ふーん、俺は特に異論はないよ」
ブルームはそう言いながら意味ありげな笑みを浮かべた。
「……何だよ」
「ううん、別に」
キースはブルームを軽く睨んでいる。私は何だかよくわからないが、あまりいい思いはしなくて同じくブルームを睨んでみた。
「リークル神国に入って出てくるまでに6日はかかると思うよ。その間、通信はできないけど……」
「何かあればフレイ隊長にでも連絡を取るさ。それに、俺がいるのに危ないことにはならないだろう」
キースの自分の能力に対する自信は呆れるくらいすごいと思う。でも、それが自信だけではなくて事実でもあるのだから、文句をつけようがなかった。
「それじゃあそうしよう。気をつけてねキース」
「お前らもな」
キースはブルームのことも自分と同じくらい信頼しているのだろう。そんな二人の関係が少し羨ましく思えた。
●リコルの能力
相手の脳内と繋がることができるので、リコルの方からも声をかけることが可能。
リコルもそれは知っているが、自分の能力がバレてしまうので使うことはほとんどなかった。
リコル側からの声は自身が自主的に発するものなので、相手に心の声が読まれることはない。




