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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
4.ユーロラン帝国の闇
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フィデロ地方最大の街リルルート2(イオル視点)

リコルが酔っ払ってしまったので、イオル視点です。

 結局、リコルも3杯目でレイリーズと同じ状況になった。あたしは2人が絡み合っている様を呆れながら見ている。ブルーム様だけは楽しそうだけど、キース様は怖い顔をしているし、ルシェとベルロイは困り顔だ。


「イオル! あんたも猫被ってないで飲みなさいよ!」


「そうれすよ!」


 2人が違うのは、リコルはいつもより攻撃的で、レイリーズが甘えているということだった。どちらにしてもめんどくさい。


「イオルは未成年ですからっ! ブルーム様ぁ、どうにかしてくださいよ!」


 あたしもブルーム様に甘えてみるが、ブルーム様は楽しそうに笑っているだけだ。


「この猫被り女!」


「女ぁ!」


 はぁ、と溜息をつく。


「イオルさんもお酒飲んだらこんな感じになりそうですね」


「はぁ!? こんなのと一緒にしないでよ」


 ルシェの言葉にあたしは小声で悪態をつく。わざわざ小声にしているけれど、そんな必要もないかもしれない。


 だって、みんなお酒を飲んで楽しそうだ。ブルーム様はいつもより笑顔が多いし、キース様は目が赤く充血している。

 こういう時、未成年だけ疎外感だ。ルシェも同じ気持ちなのだろう、いつもよりむっつりとして座っている。ベルロイだけはいくら飲んでもまったく変化がなく、


「イオルも気をつけなね」


 と、苦笑いをしながらアドバイスをくれた。


 長く感じた夕食を終えて外へ出た。こんなことなら誘うんじゃなかったかなぁ、と思いながら空を見上げる。空には星がまばらに見えた。フィデロの空、か。


 2人で支え合いながらふらふらとリコルとレイリーズが出てきた。その後ろをキース様とブルーム様が2人を見守りながら出てくる。あたしがこんな気持ちになるのはお酒のせいだけじゃないんだ、わかってる。


 まだ会計をしているベルロイを置いてリコルとレイリーズが先に歩き始めた。


「まだ飲み足りませんよ!?」


「もうちょっと行く?」


「やめとけ」


 そんな会話をするみんなをあたしはぼんやりと見つめる。あぁ、何だか疲れちゃったなぁ。


「お待たせ」


 ベルロイが店から出てきてあたしに笑顔を向けてきた。あたしは表情を引き締めてみんなに続いて歩き始めた。


 先に歩いていたというのにリコル達にすぐ追いついてしまう。リコルとレイリーズはいつの間にか離れていて、リコルがルシェの頭を撫でて、


「あんたは生意気だなぁ」


 などと、うざ絡みをしていた。そのリコルの手をキース様が強引に取って、ルシェから引き離した。


「何するのさ」


 キース様の横顔は明らかに怒っている。


「ちゃんとしろ」


「もー、ちゃんとしてるよ! 離してよぉ!」


 リコルがぎゃーぎゃーと喚くが、キース様はリコルの手を離さず掴んだままでいる。


「どうせ俺は怖くて人相が悪いからな」


「あ、キースいじけてるの?」


「ちげーよ!」


 キース様もぶつぶつ悪態をついているのに、歩調はちゃんとリコルに合わせている。


 その後ろではレイリーズが、


「ブルームさん? 嬉しそうれす。ブルームさんが嬉しそうだと私も嬉しいれす」


 と、ブルーム様に微笑みかけていた。白い肌がお酒のせいで真っ赤に染まったレイリーズは、とろんとした目つきも相まって色っぽい。ブルーム様もレイリーズに優しい笑顔を見せている。


「はぁ、酷い目に合いました」


 リコルに撫でられて乱れた髪のルシェがあたしのところまで戻ってきた。いつの間にかもう一方のあたしの隣にはベルロイが歩いている。


 幸せそうな4人の後ろ姿を見ていると、あたしの口からは思わず溜息が漏れ出た。


「……なんか、疲れちゃったな」


 あたしは空を見上げた。


「やっぱ、キース様ってどう考えてもリコルが好きだよね。ブルーム様だって何だかんだ言ってレイリーズのこと……」


「そう、でしょうか?」


「そうよ。ずっと見てるからわかる。あの2人ほど、あたしは鈍くないもの」


 もやもやとした感情が胸に湧き上がる。また、あたしは幸せを掴めないのかな。


「ねぇ、イオル、ルシェ。デザート食べて行かない?」


「は? デザート?」


 ベルロイが突然女子のようなことを言い始めた。見ると悪戯っぽい顔で甘い匂いのする屋台を指している。


「俺達がいなくなっても大丈夫だって。行こう」


 4人に声をかけることもなく、ベルロイはずんずん屋台の方へ向かっていく。あたしは呆気に取られてルシェと顔を見合わせたが、ルシェが、


「行きましょうか」


 と、言うし、よく考えればこのまま女子部屋に戻るのも嫌だ、と思いベルロイについて行くことにした。


 屋台は軽いパンにフルーツとクリームを挟んだ、フィデロ地方定番のスイーツのお店だった。ベルロイは既に3種類頼んでいる。 


「あんたスイーツなんて食べるんだ?」


「お酒飲んだ後は食べたくなるんだよ。勝手に頼んじゃったけど、ルシェは大丈夫だった?」


「は、はい。まぁ、食べます」


 ルシェは少し恥ずかしそうにそう言った。実は甘いものが好きなタイプなのだろうか。


 スイーツを受け取って、近くのベンチに並んで座った。背後には大きな噴水があり、夜だというのに水が流れ続けていた。


「この時間に食べたら太りそう……」


 あたしはスイーツとしばし見つめ合ったが、もうどうでもいいや、とやけになってかぶりついた。甘くて美味しい。懐かしい味だ。


「美味しい!」


「なかなか……美味しいですね」


「フィデロでは定番のスイーツよ。あたしの街にも時々屋台が来てた」


「へぇ~いいなぁ」


 ベルロイは口の端にクリームをつけながら嬉しそうに食べている。


「あたしと弟がねだるから、母さんがすごーくたまに買ってくれた。それを3人で分けて……」


 懐かしくて苦い思い出。あたしは手に持ったスイーツを見た。1人で食べると少し量が多いくらいね。


「あーあ、何もかも全然上手くいかない」


 あたしはお酒を飲んでいないのに、普段は言わないような言葉が口からついて出た。場の雰囲気に酔ってしまったのだろうか。口に出すと、胸のもやもやが空に溶けていくような気がした。


「キース様とブルーム様はあたしに見向きもしない。あたしだって2人のこと好きってわけじゃないから心から頑張れないし、リコルとレイリーズだって憎らしいはずなのに憎みきれないし……」


 あたしは女が苦手だ。あまり接してこなかったこともあるし、関わった人達も気持ちのいい人達ではなかったから。1人だと行動できない癖に集団になると強気になる。そういうところが苦手だ。


 リコルとレイリーズにだっていい印象は持っていなかった。だから素を出した。それなのに、2人はあたしに普通に接してくる。そこが憎みきれないところなのだろうか。


「あたしもまだまだ甘いのかなぁ……」


 あたしだって頑張らなきゃいけないのに。もがいてももがいても浮かび上がれない海に入ってしまったような感覚だ。


「あたしより少しだけ年上でいい家柄か出世間違い無しの人と結婚したかったんだけど、そんな夢諦めて行き遅れてビジュアルは最悪だけどお金はあるおじさんを探して結婚しちゃうほうがいいのかな」


 ルシェとベルロイはあたしのどうしようもない愚痴をただ黙って聞いている。うるさいから黙れって言えばいいのに、そう言ってくれないと止められないよ。


「猫被ってるのも意味ないし、疲れたからもうやめちゃおっかな」


 あたしの人生、生まれた時からどこまで行っても上手くいかない。何だか疲れちゃった。


「俺は素のイオル、好きだよ」


「は?」


 眉を潜めてベルロイを見上げると、驚くほど優しい表情であたしを見ていて、心臓が少し跳ねた。


「ルシェもそうだろ?」


「ま、まぁ……キースさん達の前よりは今の方が……その、いいと思います」


 ルシェも躊躇いながらもそう同意した。


「正気? この性格悪いあたしの方が?」


「自覚あるんですね……」


「うるさいな」


 あたしはルシェを軽く小突いた。


「誰だって性格悪いよ」


「あんたは笑顔で突然すごいこと言うのね」


「ははは」


 ベルロイは軽く笑ってから、


「特務部隊を考えてご覧よ。みんな変わってて性格歪んでるよ」


 と、さらにすごいことを口にした。


「ベルロイさんがそんなことを……。ってそれには俺も含まれて……」


「俺は自然なイオルがいいと思うよ。そうしたら2人に振り向いてもらえるかもよ? 2人じゃなくても、別の人だって」


「お金があってあたしより少し年上で顔も悪くない男なんてそうそういないわよ」


「少しハードル下げてみれば? お金の額とか、年下も見てみるとか」


「ぐっ……」


 何故かあたしの隣でルシェがパンを喉に詰まらせている。


「俺は、お金や年齢ももちろん大事だけど、イオルが幸せになれることも大事だと思うよ。だから、素のイオルが感情で好きになれる人と結婚できたらいいのにって思うけど」


「好き、ねぇ」


 レイリーズの顔が浮かんできた。ブルーム様のことを一途に好きで、悩んだり喜んだりしているレイリーズ。辛いことのほうが多いはずなのに、今日なんてお酒の勢いもあってデレデレしちゃって。恋をしたらあたしもあんな風になれるんだろうか。


「ベルロイは好きな人とかいないの?」


「うん、いない」


「説得力ないじゃない」


 思わず笑ってしまう。


「ルシェは?」


「え? あ、え、いや……」


 あたしが聞くと途端に顔を赤くした。


「あ、いるんだ」


「い、いません!」


 ルシェは強くそう言って顔を逸した。そんなルシェを見てベルロイが笑っている。


「はぁ、でも、何だか話したら少し楽になったかも」


 あたしは立ち上がって少し歩いて空を見上げた。星がさっきよりも瞬いているように感じた。


「あーっ! キース様は顔が怖いしブルーム様は気難しすぎーっ!」


 空に向かって思い切り叫んでみた。いつの間にか胸のもやもやがすっきりとしていた。いつか、あたしはあたしなりの恋愛ができるだろうか。そんなことを考えてみてもいいのだろうか。


 あたしはくるっと2人を振り返った。


「2人ともありがとっ! ちょっと気が楽になった」


 ようやく心からの笑顔で笑えた気がする。反応がないので2人に目を合わせると、ルシェは顔を逸し、ベルロイも目を逸らして頭を掻いた。変なの。


 あたしはもう一度空を見上げた。もう少し頑張ってみようかな、キース様とブルーム様。自分のため、弟のためにも。

●豆知識


ユーロラン帝国の成人は20歳。お酒も20歳から。

結婚は男女共に16歳からできるが、しっかりとした家柄の一般常識としては20歳以降にするのが普通。

18歳から結婚相手を探し婚約し、20歳になると同時に結婚するのが貴族女性のステータスでもある。

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