王都にて手がかりを掴め2
私達はブルームに連れられて落ち着いた雰囲気のお店にやってきた。昼間だというのに薄暗い店内で、店員がうやうやしいお辞儀をして出迎えてくれた。
個室に案内され、席についてメニューを見ると驚くほどの値段の高さに私は言葉を失った。これだけのお金があれば、ミョルンの食事処でたっぷり3食は食べられそうだ。
唖然とする私に気がついてブルームがくすりと笑った。
「俺がご馳走してあげるから、気にせず頼むといいよ」
ブルームに貸しを作るのは癪だが、その申し出を受けないわけにもいかない。私は頷いて改めてメニューに目を向けたが、書かれているメニューがどのような料理なのかすらまったくわからない始末だった。
結局ブルームと同じものを頼み、アルロと向き合う。アルロも少し落ち着かない様子だが、ブルームは優雅にタオルで自分の手を拭っている。
「アルロ、元気だった?」
「うん、僕は相変わらず。ブルームとキースが第三守護兵団に異動になったって聞いて驚いたけど、特務部隊の隊長と副隊長だって?」
「そう、小さい部隊だけどね」
「やっぱり二人はすごいなぁ」
アルロは嬉しそうに目を細めた。
「僕達の歳で小隊であっても役職につけるなんてなかなかないことだよ。あっという間に出世していくんだろうな」
「どうかな。功績を残せなければ第四まで下がることもあり得るかもよ」
実際に今、私達は解散の危機に直面しているわけだ。
「まさか。二人に限ってそれはないよ」
アルロは軽く笑うと水で喉を潤した。
「そうだ、自己紹介がまだだったよね。僕はアルロ・オーロスト。聞いてると思うけど、ブルームとキースとは養成所時代の同期なんだ」
何も喋らずに二人の会話を聞いている私を気遣ってか、アルロが声をかけてくれた。
「初めまして、アルロさん。私はリコル・イヤルダです」
先輩なのだから、と背筋を伸ばして名乗った。
「リコルちゃん、ちゃんと敬語使えるんだね」
私の挨拶を聞いて、失礼なことにブルームが笑い始める。
「当たり前でしょ。あんた達は失礼なやつだったから敬語使わなかっただけ」
「今も使ってないけどね」
「それは、ブルームがいいって言ったからでしょ」
「そうだったね」
ブルームは愉快そうにくすくすと笑い続ける。
「それじゃあ僕にも敬語使わなくて大丈夫だよ。僕とリコルちゃんとは第三守護兵団の同僚なわけだし」
「あ……それじゃあ……」
アルロの申し出を受けることにする。少しの間一緒にいただけだが、アルロの人の良さが伝わってくる。ブルームが言った通り信頼できる人のようだ。手袋を外す必要もないくらいに。
「またとない機会だから、養成所時代のキースのこと、アルロに聞いておいたら?」
前菜と飲み物が運ばれてきて店員が下がると、ブルームが私にそう促した。
「キースだけじゃなくて、ブルームの恥ずかしい話も聞いておきたいわ」
私は澄ましてそう言うと、アルロに目を向けた。アルロはくすりと笑いを零してから口を開いた。
「僕とブルームは入所当時からの同期なんだけど、キースは飛び級で上がってきたから三年次に初めて顔を合わせた。その前から噂は聞いていたけどね。何しろオルナーガ家の長男だろ? 入学した時からキースの話題で持ち切りだったよ」
ベルロイが言っていたように、キースは相当な有名人らしい。
「キースは誰ともつるまずいつも一人きりだった。近寄ってくる仲間を冷たくあしらっていて、それは女に対しても同じだったから、だんだん評判が悪くなっててね」
ブルームが楽しそうにそう言った。
「そうそう、今よりもずっと怖かったよね、キースは。常に攻撃的な目をしててさ。だから、飛び級で上がってきた時は誰も近寄ろうとしなかった。それなのにブルームが突撃していった時はみんな驚いたものだったよ」
「へぇ……」
今のキースは顔は怖いが、話していて恐怖を感じたことは一度もない。顔も怖いのに内面まで怖ければ、それは誰も近寄ろうとしないだろう。
「ブルームに対してもキースは冷たい態度を取ってたけど、ブルームはしつこいからさ。ずっとつきまとってたらいつの間にか拒否はされなくなってて。四年次になってキースの方から僕に話しかけてくれた時は驚いたよ」
一年前の春。キースがブルームのことを「あいつは唯一、俺に普通の態度を取ったから」と、言っていたのを思い出した。ブルームがキースを変えたのかもしれない。
「二人は養成所の中ですごく目立っていたよ。ブルームも元々僕達の年次の中では一番の実力者だったし、そこにキースが加わったら無敵でさ。養成所の訓練は守護兵団の入隊後訓練よりも厳しいものだったけど、それをいつも二人は難なくクリアしてて。みんなの憧れだったよ」
アルロは頬を赤らめて、心から誇らしそうにそう言った。一度見ただけだけれど、二人の連携はすごかった。アルロの言葉が偽りでないことはすぐに理解できた。
「おいおい、そんなに褒めても何も出ないぞ」
ブルームは手をひらひらとさせた。ものすごい能力を持ちつつ名門オルナーガ家という強い後ろ盾を持ったキースと、魔力も去ることながら頭も切れるブルーム。相性は抜群だ。敵にしたら恐ろしいが、味方であるなら心強い。
アルロとブルームの思い出話を聞きながら食事は進んでいく。普段より砕けた様子のブルームを見ていると少しの虚無感が訪れて、私はそれをかき消そうと必死だった。自分にはどう望んでも手に入らないもの。望むことすら諦めたはずなのに、何故こんな気持ちになるのだろうか。
豪華な食事を食べ終えた。美味しいとは思ったが、食べたことのない味が多くて疲れてしまった。私にはやはり食堂の簡素なごはんで十分だ。
「さ、それで本題なんだけど」
食後のお茶が運ばれてきたところでブルームが本題を切り出した。
「アルロに聞きたいことがある」
「うん」
「王都で信頼できる情報屋を教えてほしい」
「……へ?」
アルロはお茶を飲もうと口を開いたまま固まり、口をつけないままカップを置いて苦笑した。
「キースとブルームには散々驚かされてきたから今更驚くことはないと思ってたけど、まさかそう来るとは」
「元々はリコルちゃんの提案だけどね」
「へぇ……」
何故か感心したような顔でアルロに見られた。私が頷いて言葉を促すと、アルロは真剣な表情になって顎に手を当てた。
「信頼できる情報屋、か。どういった類の情報が必要なのかな?」
「王都の商会に詳しいやつがいいな」
「商会、か」
アルロはしばらく視線を彷徨わせてから、意を決したようにブルームをしっかりと見据えた。
「王都の情報屋にもいくつかグループがあるんだけど、その一つを束ねるリーダー的な男なら知ってるかもしれない。以前捕らえた違法に武器を販売してる店に裏で関わってたと噂されてる男だ。一度、向こうから僕らに接触してきたことがあって話したことがあるけど、無謀なことはしない慎重な男に見えたね」
「その人にはどこに行けば会える?」
思わず身を乗り出して私は尋ねた。アルロは懐から王都の地図を出すとある一点を指差した。
「ここの地下にあるクランクっていうバーを拠点にしてると聞いたことがある。男の名前はガイラス。大柄な男だ」
バー・クランク、ガイラス。王都の地理に詳しくない私は店の場所はブルームに任せて、名前だけをしっかりと頭に刻む。
「ガイラスの所属する情報屋集団の人数や勢力はわかる? 雇っている護衛の数とか」
「僕が会った時には二人の男を連れてたな。能力や魔法についてはわからない。全体の人数も……はっきりとは。多くても2、30人だと思うけど」
「なるほど」
その情報もしっかりと頭に入れた。こちらの戦力と相手の戦力。向こうも馬鹿ではないので王都で派手にやることはないだろうが、何かがある可能性はある。
「かなり頭の切れる男だと思う。慎重といえども裏社会の情報屋だ。接触するなら気をつけて」
アルロは気遣わしげな表情を私達に向けた。私は頷いて丁重に御礼を言った。
●守護兵団について
第三守護兵団
王都の警備を任される兵団。
一班は王都で起こる大きな犯罪の取り締まりや、王都と王城のやりとりに関する管理。
二班は外から王都への出入りの管轄。
三班は王都内の治安維持。
四班も王都内の治安維持だが、住民からの通報で動く警察のような役割を果たしている。




