王都にて手がかりを掴め1
会議室を出るキースの横顔が虚ろに見えて、不安を覚えた私はすぐにキースの背中を追いかけた。
「キース!」
「あぁ」
振り返ったキースはやはりいつもの覇気がない。隊長として任された部隊が早くも存続の危機に晒されているのだから、当たり前かもしれない。
「大丈夫、一緒に頑張ろう。このまま終わりになんてしたくない」
「……あぁ、そうだな」
キースは柄でもない緩い微笑みを見せた。
「キース、大丈夫かい?」
追いついてきたブルームが私達の会話に入ってきた。
「……あぁ」
キースはさっきから「あぁ」しか言っていない。そんなにダメージが大きかったのか。
「お父上、会うのは久しぶりなんだろう?」
「……そうだな」
「会えるかな?」
「わからない。とりあえず、王城へ行って今日の予定を聞いてみよう。忙しくとも夜に少しだけでも時間をもらう」
そう言うキースの顔は心もとなく歪んでいる。あ、もしかして────
「キースってお父さんのこと苦手?」
「え?」
キースだけではなくブルームも目を丸くした。
「苦手……か。そう言われたら、そうだな。そうなるだろう」
苦手という言葉を噛みしめて自分の中に落とし込むような口調だった。
「だが、そうも言ってはいられない。必ず何かしらの成果は得て戻る」
「強いね、キースは」
キースと父親の関係がどのようなものかわからないけれど、苦手に立ち向かっていくキースは強いと思う。親という存在は子供にとって重いものだから。
「リコルちゃんは俺と一緒に第三守護兵団の本部へ行かない? 同期に話を聞くの、一緒に来てよ」
「私も? まぁいいけど」
二人の信頼できる同期なら私が行って何か役に立てるとは思えなかったが、私には人脈もないので、ブルームの提案を受けることにした。
「ヘマするなよ、リコル」
「あ、うん。キースも頑張って」
キースは先程よりも力強く頷いて、王都の人混みに紛れて消えていった。
「さ、俺達も行こう」
私はブルームと連れ立って第三守護兵団の本部へと向かった。
本部に着いて三班の拠点である部屋へ入り、二人の同期だというアルロ・オーロストの所在を尋ねた。すると、アルロは夜の見回り番だったようで、引き継ぎを終えてそろそろ戻ってくる頃だという。私達は部屋の隅のソファに座り、彼の帰りを待たせてもらうことにした。
部屋には事務作業を行う兵士達やナビゲーターと思われる兵士が机に向かって何やら仕事をしている。壁に貼られたボードには警戒地域や手配中の犯罪者の似顔絵などが貼られていた。
「随分キースと仲良くなったみたいだね」
ブルームが室内の兵士の邪魔にならないように小声で話しかけてきた。眼鏡の奥の瞳が楽しそうに細められている。
「別に。ミョルンで一緒だったから多少話したりはしたけど」
様子のおかしかったキース。大丈夫だろうか。
「キースがお父さんのこと苦手なのって、養子だから?」
「お、そこまで知ってるのか」
「やっぱりそうなんだ。名前が変わったって聞いて、ベルロイが養子なんじゃないかって」
キース・センスル。もう使わなくなる名だと言っていた。
「そう。キースは養子だよ。俺にも詳しく教えてくれたわけじゃないけどね」
「お父さんの方はキースのことどう思ってるのかな?」
「オルナーガ家存続の為にキースを迎え入れたようだから、親子というよりは上司と部下みたいな関係に近いんじゃないかな。俺から見るとお互いに一定の距離を保っている感じがする」
家の存続のために養子を迎える。そんなに家名というのは大事なものなのだろうか。キースはどんな気持ちでセンスルという名前を捨ててオルナーガの家にやってきたのだろうか。
入り口がざわざわとしてきた。交代の兵士達が次々と報告にやってきているようだった。
「アルロって人は信頼できる人なの?」
私は話題を変えてブルームに尋ねてみた。
「うん。養成所に入った時からの付き合いでね。アルロに嘘をつかれていたら、俺は誰のことも信じられなくなるね」
「ふぅん」
ブルームがそこまで言うなら信頼できる人物なのだろう。昔のキースとブルームを知る男。どんな人物なのだろうか。
「ブルーム?」
金髪に茶色の瞳を持った男性が私達に向かって歩いてきた。下がり眉毛で気弱な表情を浮かべている。
「おぉ、アルロ! 久しぶりだな!」
ブルームは両手を広げて大げさなリアクションを取った。やはりこの人物がアルロらしい。ブルームとキースの同期にしては顔が幼く見える。
「驚いたよ。突然、ブルームが僕に会いに来てるって聞いて」
アルロは垂れた瞳を細めてはにかんだ笑顔を見せた。アルロは私に気がつくと軽く会釈をしてくれたので、私もそれに返した。
「夜勤明けで悪いんだけど、ちょっと話せないか? 奢ってやるからさ」
「それはいいけど……」
「あ、この子? 特務部隊の隊員だよ。キースと仲が良いんだよ」
「キースと!?」
アルロは茶色い瞳を大きく見開いて私を見た。そんなに驚かれることなのか。
「そう、だからこの子も一緒にいいかな?」
「もちろん僕は構わないよ」
「それじゃあ行こう。店は俺が決めるよ」
ブルームはアルロと肩を組んで楽しそうに歩き始めた。
●守護兵団について
第二守護兵団
王妃以下の王族を守護する隊と戦時対策部隊、王城内警備隊に分かれる、守護兵団内で最も人数の多い団。
戦時対策部隊は戦いが起こった時にすぐに出れるように訓練を重ねている隊だが、戦自体はもう90年起こっていない。
そこで、現在は主力を王都に残しつつ手の足りない部隊への手伝いを行うこともしばしばだ。




