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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
3.特務部隊の危機!
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王都にて束の間の休日2

 結局イオルの買い物にまで付き合わされて、解放されたのは夕方になってからだった。私は疲れた身体を引きずって第三守護兵団の本部にやってきた。馬小屋がここにあるのだ。


 ここの馬小屋にはミョルンとは比べ物にならないくらいの数の馬がいる。その中から栗毛の馬を探し出すといつものようにブラッシングしてやる。管理している人がいるようで餌は十分に与えられていた。


 馬小屋の中は王都にしては静かだった。馬の息は聞こえるが、これはうるさいには入らない。ミョルンでそうしてきたように、またたまにここに来よう。王都での任務が続くようならたまには外に連れ出して走らせてもやらないと。


 栗毛の馬のたてがみに私の印として小さな鈴をつけてから私は馬小屋を出た。先程までは赤い夕日が覗いていたはずだが、もうすっかり暗くなってしまっていた。


 早く帰って夕飯を食べよう。


「……リコル?」


 振り返ると軍服を着たキースが後ろから歩いてくるところだった。頭を撫でられた時の衝撃を思い出して一瞬固まったが、以前と変わらないように手を挙げて応えた。


「何をしている?」


「あぁ、馬にブラッシングしててさ」


「休みの日なのに馬の手入れかよ。寂しいやつだな」


 キースの目が可哀想なものを見るように細められた。


「別にいいでしょ。好きなんだもん」


「あの馬か」


「そう、栗毛の馬。綺麗でしょ。乗り心地も良くて好きなんだ」


 二人で並んで歩き始める。キースも寮に戻るのだろうか。


「ミョルンではずっとあの馬を?」


「一年前の春からね。あの後はずっと一緒だよ。他の馬よりあの栗毛の馬の方がしっくりくるんだ」


「名前は?」


「……へ?」


 キースの言った意味がわからずに私は聞き返した。すると、キースは、


「ミョルンから乗ってくるくらい大切な馬なんだろ?」


 と、言ってきた。キースにそんなことを言われるなんて思ってもいなくて私は驚いてしまった。キースには意外とそういう可愛いところがあるのか。本人に言ったら怒られそうだから言わないけど。


 それにしても名前、か。


「考えたこともなかったな。せっかくだからつけてあげようかな」


 馬の名前とはどう決めたらいいのだろう。何かに名前をつけたことなど一度もない。悩んでいると、


「ミョルン、とか?」


 と、キースが提案してきた。驚きのセンスのなさだ!


「それ地域の名称でしょ? 紛らわしいから却下」


 到底受け入れられない。私はキース案をバッサリと切った。


「じゃあリコルは何がいいと思うんだよ」


 むっとした様子のキースが私に振ってきた。


「うーん、あ! じゃあブルームとキースを合わせて『ブース』とか?」


「悪口じゃねえか! それに何で俺達の名前なんだよ」


 キースは即座にツッコミを入れて、呆れた様子で片手で前髪を掻き上げた。


「出会った時に二人もいたから。あ、じゃあブルームを無くしてキース?」


「俺の名前そのままか? それこそ紛らわしいだろうが」


「そうだよね……じゃあキースのファミリーネームのオルナーガ? とか?」


「まず俺から離れろよ」


 ツッコミが止まらない。名前も決まらない。名前を考えるのって難しいなぁ。

 

 気がつくと寮に戻って来ていた。キースの足も私の目的地と同じ食堂へ向いている。これは一緒に食べる流れだろうか。キースとはミョルンで一緒に食事をしていたから慣れている。


 それにしても、名前、どうしよう。私はうーん、と唸り頭を捻る。


「キースさん! リコル!」


 後ろから肩を叩いて私達の名前を呼んだのはベルロイだった。ベルロイはラフな格好をしていて、私たちに笑顔を屈託のない向けた。


「これから食事ですか? よかったら俺も一緒にいいですか?」


「……好きにしろ」


 キースは人相の悪い顔でそう言った。それが普通の顔なのか、それとも怒っているのかは私には判別はつかない。まぁ、怒る理由もないから、きっとこれがキースの普通の顔なのだろう。


 私達は混み合っている食堂の中に空いている席を見つけて三人で座った。私の隣にキース、前にベルロイだ。


「いただきます」


 挨拶をしてから食事を食べ始める。豪華な昼の食事とは違う固いパンとスープ、魚が僅かに入ったほとんど野菜ばかりの炒め物という簡素な食事だ。


「そういえばさっき何を話してたの? 何だか険しい顔をしていたけど」


 ベルロイが私に尋ねてきた。


「え? あぁ、そうだった。馬の名前を考えてるの」


「あぁ、あのミョルンで夜に世話をしてた?」


「そうそう」


 パンを口に運んでいた途中のキースがその動作を保留して私を見た。


「ん?」


「ミョルンでも夜に馬の世話を?」


「そう。そこで素振りしてるベルロイに会ったんだよね」


「俺もそれが日課ですからね。そこで少し話したんですよ」


「あ、そう」


 キースは興味がなさそうな返事をしてからパンを食べ始めたが眉間に皺が寄っているし、どことなく怒っているように見える。心当たりはないんだけど、何かしてしまっただろうか。


「センスル……」


「え?」


「馬の名前、センスルにしろ」


 私の方を見ないままキースはそう言った。


「センスルってどういう意味?」


「俺の名前から取りたいんだろ?」


「別にこだわりがあるわけじゃないけど……」


「ずっとこだわってただろうが」


 いや、それは他にどう名前をつけたらいいかわからなかったから────

 そう言いたいが、何故か怒っている様子のキースにこれ以上言うのも何だか怖い。どうしたものか。


「キースの名前ってことは、ミドルネームか何かなの?」


「いや、違う。前の名前だ」


「え? センスル・オルナーガってこと?」


「違う。キース・センスル、だ」


「キース・センスル……」


 それはどういうことなのだろうか。


「もう誰も使わなくなる名だ。それにしろ」


「あ、うん……わかった」


 私はすべてを飲み込むことができないまま、とりあえず了承した。元々は馬に名前なんてつける気なかったし、変なものでなければ何でもいい。


 ものすごいスピードで食事を食べ終えたキースが席を立った。まだ私は半分も食べていない。ミョルンでのキースはここまで早くなかったと思うんだけど。


「それじゃあ」


 キースは上から私達を細い目で一瞥するとさっさと立ち去ってしまった。何だったんだろう。私はしばし呆然と手元を見つめる。


 すると、目の前のベルロイが突然笑いだした。


「え、何? どうしたの?」


 私は目の前でお腹を抱えて笑うベルロイを困惑して見つめた。


「いや、ごめんごめん。キースさんとリコルってそういう仲なの?」


「そういう、って?」


「恋仲ってこと」


「こ……恋?」


 意味がわからなくて私は眉を潜めた。


「違うけどどうして?」


「ふーん、なるほどね。キースさんの意外な一面を見ちゃったな」


 ベルロイは一人で納得してまだくすくすと笑っている。


「全然意味わかんないんだけど、どういうことよ?」


「わからないならわからなくていいよ」


 笑いを収めたベルロイは意味深な表情を浮かべてから食事を再開した。キースもベルロイも一体何だと言うのだ。


「そういえば、キースの名前が変わったってどういうこと?」


「俺も詳しくは知らないけど、養子なのかもね」


「養子……」


 なるほど、それでファミリーネームが変わったのか。


「オルナーガ家は名門だろ? だから、キースさんのような能力の高い人を養子に迎えるっていうのはありえる話だと思う」


「オルナーガって名門なの?」


「リコル、それ本気で言ってる?」


 ベルロイが呆れた表情を浮かべた。


「オルナーガって言ったら名門中の名門だよ? 俺でも知ってるくらい有名なんだ。キースさんのお父さんは第一守護兵団の第二王子アイレーン班の隊長だ」


「第二王子の!? 隊長!?」


 それはゼノと肩を並べるくらいすごいことだ。守護兵団のトップ中のトップということになる。


「は~そんなすごい人だったんだね」


「知らなかったなんて驚きだよ」


 ベルロイは頭を掻いた。


 なるほど、だからキースは若くして特務部隊の隊長になったんだ。人柄と年齢を見ればブルームが隊長でもおかしくないのに、と不思議に思っていたのだ。


 思えば私はキースのことを何も知らない。私だってキースに言ってないことはたくさんある。でも、私はキースについてもっと知りたい、そう思った。

●マースドロス帝国について


ダイス帝国の南にある国。

ユーロラン帝国にはどんな国なのかほとんど伝わってきていない。

皇帝の下に政治政策を決める機関が存在し、それはマースドロス帝国各地の領主が所属している。

そのシステムが上手く機能し、ここ数年で急激な発展を遂げている。

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