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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
3.特務部隊の危機!
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王都にて束の間の休日1

 翌朝、私達は捕らえた商人と兵士達を王都へと移送した。ブルーム、イオル、ルシェ、ベルロイは商人達と共に馬車に、私とキース、レイリーズは馬で馬車の周囲を護衛しながらの移動になった。


 私は栗毛の馬を、キースも初めの関所から乗ってきた黒毛の馬に乗った。レイリーズはルシェが乗ってきた青鹿毛の馬で移動した。


 移動にはほぼ一日を使い、王都に戻った頃には日が暮れてしまっていた。移送してきた商人達は第三守護兵団の本部に引き渡した。遅い時間となっていたが、すぐに報告をしてほしいという私達の上長フレイの求めにより、寮の第一会議室に集まってフレイに報告を行った。


 フレイは聞き終わるとしばらく目を閉じて動かずにいたが、目を開けると私達を見渡して笑顔を見せた。


「よくやってくれた。初任務でここまでの成果を上げてくれるとは」


 私達もほっとして空気が緩む。だが、フレイはすぐに表情を険しいものに戻した。


「昨夜ブルームから報告を受けて軽く調べたが、ポリー商会は王都の端にある小さな商社だった。本社にいた一人は既に拘束したが、どうやら下っ端のようだしまだ何も口を割っていない。ポリー商会を調べて突き止めた倉庫は、王都に近いベルサロム地方にある。今日、急ぎ兵を向かわせたが、穀物などはあったが肝心の薬物は発見できなかった」


「もう情報を知っていた……?」


 ブルームが悔しさの滲む声を出した。


「それはまだわからない。何らかの理由で情報が漏れた可能性もあるし、たまたま倉庫に在庫がなかっただけかもしれない。もしくは、別に倉庫を持っているか」


「なるほど……」


「一筋縄にいかない相手、ということだ」


 ポリー商会の実態が何も掴めない。漠然とした不安が胸に浮かんだ。


「スパイについてもまだ何もわからないが、それはこれからの尋問で吐かせてみせる。ここからは俺達に任せてくれ」


 私達は「はい」と、ばらばらに返事をした。


「さて、遅くまですまなかったな。今日はこれにて解散とする。あと、しばらく遠方の任務で疲れただろう、明日は休みにしよう」


 対面に座っているルシェやイオルの顔に隠しきれない笑顔が浮かんだ。


「それと、給与を渡す。明日はのんびり身体を休めると良い」


 私達は順番にフレイから厚みのある封筒を受け取り、解散となった。部屋に戻ると、私はベットに腰掛けて一息ついた。


 第五守護兵団にいた時は休もうと思えば毎日でも休めるような環境だったので、明確な休みは定められていなかった。だから、明日が休みだと急に聞いても何をしたらいいのかわからない。


 重さに気がついて懐から封筒を出す。中身は、第五守護兵団にいた時と比べ物にならないくらい厚かった。二倍近くはあるのではないだろうか。


 私はまだ片付けられていない荷物の中から新しい封筒を取り出すと、そこに給料の半分以上を入れた。宛名を書き封をする。これを明日、配達所に持っていくことにしよう。


 予定が決まると途端に身体が重くなる。今日は馬で王都まで移動してきたのだから当たり前だ。私は明かりを消すとすぐに眠りについた。


***


 翌日。いつもと同じ時間に目が覚めたが、休みだと気がつくとそのままもう一度眠った。移動ばかりで気がつかない内に疲れていたのだろう、次に起きた時には昼に近くなっていた。


 ぼーっとした頭で髪の毛をまとめて、封筒を持って部屋を出た。まずは食堂で腹ごしらえ、その後で配達所だ。


 食堂に着くと、ちょうど昼食の時間だったらしく、第三守護兵団の兵士たちで席がいっぱいだった。こんなに広い食堂にいるたくさんの人の中で昼食を食べることが躊躇われて、私は時間をずらすことに決めた。お腹は空いているが仕方ないだろう。先に配達所へ行こう。


 寮の出入り口へ向かいながら、私はあることに気がついた。私は配達所の場所を知らない。王都は広く、私は土地勘がない。闇雲に歩いて果たして配達所は見つかるだろうか。


 少し悩んで、私はイオルの存在を思い出した。ミョルンの関所で一人部屋を変えてあげた貸しがある。


 私は再び二階へ戻り、初日にレイリーズに連れられて行ったイオルの部屋をノックした。


「はーい」


 イオルの気色悪い甘えた声が聞こえてきて顔を歪めると、開いたドアの向こうのイオルも私を見て同じく顔を歪めた。


「なんだ、あんたか。何? イオルは忙しいんだけど」


「ちょっと付き合いなさいよ」


「は? 何? 藪から棒に」


「貸し、あるでしょ?」


「何のこと?」


「もう忘れたの? 一昨日のことも思い出せないなんて、記憶力は大丈夫?」


 イオル相手だとついふっかけるようなことを言ってしまうのは何故だろうか。


「……一人部屋」


「そう。だから、案内して。王都の配達所」


「めんどくさっ。イオルもこれからランチに行こうと思ってたところだったのに」


「誰かと約束?」


「……してないわよ。一人だっていいでしょ」


 イオルは少し顔を赤くしてぷいっと横を向いた。


「別に悪いなんて言ってない。だったらランチ前に案内してよ」


 ちっ、と可愛らしくない舌打ちをしてから、


「……わかった」


 と、イオルは折れた。


 イオルの長い支度を後ろから急かして、15分後に寮を出た。イオルはぶつぶつと文句を言いながらも私を先導して歩いて行く。


 寮を出ると人、人、また人。あまりに人が多い。その隙間をイオルは人とぶつかることなくさっさと歩いている。

 よく見れば周りの人達もしっかりと周りを見ている様子ではないのに、自分のスペースを保ったまま歩いて行く。王都の人間は何かの能力が備わっているんじゃないだろうか。


 私は集中して歩かないと人にぶつかってしまう。今日は長袖長ズボンに手袋もしているので、滅多なことがなければ人と触れ合う心配はないのだが、それでも何となく気にしてしまう。


 歩くこと10分で配達所に着いた。私は用意していた封筒を頼んで、すぐに用事は終わった。

 さ、帰って昼食を食べよう。あれからさほど時間は経っていないが、まだ混んでいるだろうか、などと思っていると、


「リコル。あんたの用事に付き合ってやったんだから、ランチは付き合いなさいよ」


 と、イオルが誘ってきた。断ろうかと思ったが、お腹は限界に近いくらい空いている。給料も増えて、ランチくらいならいいか、とその誘いを受けることにした。


 イオルに連れられてきたのは落ち着いた雰囲気の小さな店だった。イオルはそこのテラス席に座ると、慣れた様子でメニューに目を落とす。さっきまで不満げな表情をずっと浮かべていたのに、今は打って変わって口の端が少し上がる程の上機嫌っぷりだ。


 私もイオルに習って適当に注文すると、イオルはうーん、と伸びをした。


「おやすみ久しぶりだ~! 異動したと思ったらすぐに地方遠征なんだもん。今までは地方に行くことなんてほとんどなかったのに」


 そうぼやきながら上半身を捻ってストレッチをしている。


「ご褒美に今日はいっぱい買い物するぞ」


 イオルの赤茶色の瞳がメラメラと燃えている。確かにあの給料を自分で全て使えるのなら、買い物くらいしてもいいだろう。


「あんたは? 何か買い物するの?」


「私はお金ないから」


「は? お金ないって給料もらったばっかりでしょ? 借金でもしてるわけ?」


「まぁ……そんなところかな」


「ふーん」


 曖昧に答えると、イオルは不可解な面持ちで私を見た。


「それをさっき送ってきた、と?」


「まぁね」


 まだ何か聞きたそうな顔のイオルだったが、そのタイミングで食事と紅茶が運ばれてきた。食事はプレートにパンとサラダ、ハムが乗っている。


 紅茶を飲もうと口まで持っていくと茶葉の香ばしい香りがした。


「美味しい……」


「でしょう!?」


 私が呟いた言葉にイオルは過剰に反応して身を乗り出してきた。紅茶は好きでミョルンでもたまに飲んでいたが、ここまで香り高くなかった。初めは茶葉のしっかりとした味が来るのに、後味がフルーツを食べた時のようにさっぱりとしている。


「給料日後のご褒美はここって決めてるの。パンもさっくさくで美味しいんだから!」


 イオルは得意気に言ってパンにかじりついている。私も続くと、甘い香りからサクッとした食感、とろけるように消えていくその軽さに驚いてしまった。


「やっぱこれがないと働いてる意味、ないじゃない?」


「働いてる意味……」


 私はある意味では自分のために働いているが、自分の娯楽のためにお金を使ったことはほとんどない。余った分は溜めてきたが、それをこうして少しだけでも自分のために使うこともいいかもしれない。


「ねえ……あんたも金持ちとの結婚目指せば?」


 イオルが忙しく口と手を動かしながらそんなことを言ってきた。


「何で?」


「お金に困らないで暮らせる。働かなくても遊んでても怒られない。それって天国だと思わない?」


「結婚、か……」


 そんなこと考えたこともなかった。私が誰かと結婚をする、だなんて。


「私には無理ね。誰かと一緒に暮らすなんて不可能」


「ちょっと我慢すれば済む話じゃない。兵団で働いてたら危険もあるし、あんたの能力じゃまたどこか別の安い給料のところにやられるかもしれないでしょ?」


「まぁそうなんだけど……」


 もし、私が結婚したいと思っても、誰も私との結婚なんて望んでくれないだろう。私にはレイリーズのような強さもイオルのような可愛さもない。


「今の生活、前に比べたら嫌いじゃないの。それに、自由に死ねるならそれでもいいかなって」


「リコル……」


 イオルは驚いた顔をした後で眉尻を下げて憐れむような目を私に向けた。確かに私のこの考え方は寂しいかもしれない。でも、私はそれが幸せだと今は思っているんだ。


 その後もイオルと他愛のない会話をしながらランチを楽しんだ。テラスで食事を取っていると、王都を歩く人の声が一つのざわめきに聞こえてきた。もちろん木々のざわめきの方が好きだが、これはこれで悪くない。風に乗って漂ってくる潮の香りも嫌いではない。


 美味しい食事に本心を隠さないイオル。女と二人で食事をするなんて初めてのことだが、落ち着いて過ごせている。今の私を昔の私が見たら一体どう思うのだろうか。

●乗馬スキル


特務部隊のメンバーの中ではリコルが断トツに馬に乗り慣れている。

キース、ブルーム、レイリーズも不自由ないくらい乗れる。


乗ることはできるが乗り慣れていないのはルシェとベルロイ。

(ベルロイは田舎育ちだが、山ばかりの土地だったために馬に乗ることはなかった)


ナビゲーターはそもそも本部を離れることが少ないため、イオルは乗れない。

ベルサロム班の移動の際は、レイリーズに乗せてもらっていた。

(イオルはブルームと乗りたいと騒いでレイリーズに怒られていたようだ)

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