■第73話 雨の告白
『たったの数ヶ月で、なんか色んな事が変わったよなぁ・・・。』
コースケが沈黙を破って静かに話し始めた。
リコはスケッチブックをカラフルに色付ていたパステルを持つ手を止めると、
コースケの方へとそっと顔を向ける。
『5人が仲良くなって、
遊ぶようになって、
・・・そのうち、各々が自分の道みつけて歩き出して・・・。』
リコが微笑んで頷く。
コースケの言っている事は、その通りだと感じて。
『私が今、こうやって絵を描いてるのはコーチャン先生のお陰だよ・・・
園の手伝いをさせて貰えるようになって、
忘れかけてた描く楽しさを思い出させてもらって。
・・・それで、進路が明確になったんだもん・・・。』
リコは心からそう思っていた。
お寺の境内でスケッチしている所に偶然コースケと会ったあの日を思い出し
そっと目を伏せ、嬉しそうに頬を緩める。
すると、
『それは、こっちのセリフだよ・・・。』
コースケが真っ直ぐ前を向き、真剣な表情を作った。
それは、いつもの困ったような情けないそれとはまるで別物だった。
『俺、最近気が付いたんだけどさ・・・
俺が何かしようと思うその先には、必ずリコちゃんがいるんだよ。
ほら、あの絵本探してた時。
実はもう諦めかけてたんだよな~・・・
それが、あん時。 リコちゃんがまだ絵本探してるのか声掛けてくれて。
園のイラスト描きだって、俺一人じゃなーんも出来なくて。
諦め掛けてた時に、偶然この境内で絵ぇ描いてるリコちゃんと会って
今に至るわけだろ・・・?』
リコはそんな風には全く考えた事がなかったので正直驚いていた。
なにも返せずにいるリコに、コースケは続ける。
『園のイラストを一緒に考えて作り始めたら、
やっぱり俺は保育士になりたいんだって気持ちが固まって、
専門学校行くために今のバイトだって始めた。
この数ヶ月で、俺。 すげー、リコちゃんに影響受けてんだよ・・・。』
そう言い切るコースケの横顔が凛々しすぎて、リコはなにも言えずに見つめて
いた。それは、思ってもいない賛辞だった。
リコはただコースケが好きで、コースケの傍にいたくて、コースケの役に少し
でも立てればと願って来たが、それをこんな風に本人の口から言ってもらえる
なんて・・・。
思わず、リコの頬に大粒の涙が一粒落ちた。
正面を向いていたコースケは照れくさそうにふとリコへと目線を移動すると、
ツヤツヤのその頬を転がる涙の雫が目に入り、驚いた顔をして何も言えずに
見つめる。
リコは慌てて手の甲で涙をぬぐうと、手を左右に振って必死に笑顔を取り繕
いなんでもないフリをした。
しかし、一度こぼれた涙は次々とリコの頬を転がり伝って落ちはじめる。
その時、一瞬強い風が吹いて傘が逆向きに吹き飛ばされかけた。
雨の粒がコースケの頬を濡らし、『冷たっ・・・。』と小さくこぼす。
なんだかまるで泣いてしまいそうな、
困り果てたような情けない笑顔で・・・
すると、全く無意識のうちにリコの口から秘めつづけた想いが溢れた。
『コーチャン先生が・・・ 好きなの・・・・・・・、私。』
この一言で、もし、
この関係が崩れてしまったとしても、
それでもいいと思った・・・
頭で考えるよりも先に、心が動いて、それが言の音になっていた。
『なんにも言わなくていいよ。
・・・ただ気持ちを伝えたかっただけだから・・・。』
リコが眩しいほどのきらめく笑顔で、呟いた。




