■第71話 コンビニ
『いらっしゃいま・・・ おぉ!! リコちゃんっ!!』
コースケがバイトを始めたコンビニに、リコが立ち寄ってみたとある夕方。
水色ボーダーの制服の上着を着てレジに立ち、持ち前の人懐こい笑顔でニコニコ
してるコースケの姿があった。
リコは思わず微笑む。 『制服、似合ってますねぇ~!』
ふと目に入った胸に付けた名札の写真も、いつもの困ったような情けない顔で
笑っていて、もう見慣れたはずのそれですらなんだか胸がきゅんと鳴る。
すると、コースケは制服の裾をちょっとつまみ上げ、おどけてポーズを取った。
まだバイトを始めたばかりなはずなのにやけにしっくりくるコースケの制服姿に
可笑しくて二人で笑い合った。
リコは店内を端からゆっくり巡り、雑誌コーナーやその先のドリンクが陳列され
た扉式の冷蔵ショーケースを眺めた。新発売のチョコやお菓子を手に取って見た
りアイス用冷凍庫前で足を止めアイスクリームを買おうかどうしようか悩んだり。
結局、好きなヨーグルトを手に取ってレジへ向かった。
他に客があまり居なかったので、コースケもなんだか暇そうに背中を丸めレジカ
ウンター陰で足首をぐるぐると気怠そうに回している。
レジカウンターを挟んで内側と外側に立つ二人は、店が暇なのをいいことに少し
話をした。
『リュータがさ・・・
知り合いの車の修理工場でバイト始めたって話きいた?
最近ずっと塞ぎ込んでたのに、なんか吹っ切れたように
ガゼン頑張りだしてさぁ・・・
アイツ、なんかあったのかなぁ・・・?』
小首を傾げならがそう言うも、その顔はなんだか嬉しそうなそれ。
コースケがヨーグルト容器のバーコードにバーコードリーダーを当て、ピっと
言う音が鳴ると同時にレジに金額が表示される。
『リュータさんも元気そうで良かった・・・
ぁ。 ねぇ、リカコさんは?
リカコさんも、最近忙しくしてるんですか?』
リカコにずっと会ってない気がして、リコが少し身を乗り出し訊いてみる。
『アイツは、なんか海外に行くこと考えてるらしいよ。
めちゃめちゃ英会話に通い詰めてるわ。
・・・ほら、アイツん家。 父ちゃん社長やってて
地味に金持ちのお嬢だからさ。
親に金だしてもらって海外留学すんだってー。』
『ナチも勉強すごい頑張ってますよ。
もう志望校も絞り込んだみたいで・・・。』
気が付けば、各々自分の道を見付け歩き出していた。
それが誇らしい反面、正直に言うとなんとなく寂しい。口には出さないけれど
リコもコースケも同じ思いを胸に抱いていた。
すると、互いに少し黙り込んでしまった空気を破るようコースケが口を開いた。
『リコちゃん、今度の土曜の朝も境内でスケッチすんの?』
最近リコは土曜の朝は決まってお寺の境内へ通い、受験の為の絵の練習も兼ねて
スケッチをしていたのだ。
『行きますよ?』 リコがその質問の意図が分からずハテナ顔をして答える。
するとコースケが即座に続ける。 『雨だと中止?』
ううん。と首を横に振るリコ。
セミロングの黒髪が左右にたゆたって艶めく。
『雨の日は、雨の景色を描きたいし・・・
晴れてる時とは全く違う感じになるから。
・・・それに、雨は嫌いじゃないし。』
雨の優しい景色を想像しているように目を細めるリコを見つめ、コースケは
つられるように頬を緩める。
『そうなんだ~・・・
・・・俺も行こうと思うんだけど、いーかな??』
リコは思ってもいないコースケの申し出に驚いて一瞬固まり、舞い上がった。
日曜の園でのイラスト描きだけでなく、土曜もコースケと一緒にいられるな
んて嬉しすぎて幸せすぎて夢のようだ。
(また、ジョギングでもするのかな・・・?)
今週は7日間の内、3度もコースケの顔を見られる。コースケが何目的で境内
へ来るにしても、リコが嬉しくて仕方ない事に代わりは無かった。
『じゃぁ、土曜になっ!
・・・では、お客様。 98円になります。』
急に店員の顔と声色に戻ったコースケを、リコがぷっと吹き出して笑った。




