■第69話 佇むリュータ
講義終了のチャイムが鳴り終わったというのに、その場から動かずに大学
の講堂に一人ポツンと佇むリュータの姿がある。
廊下を歩いていたリカコが開け放した扉の奥にそれを見かけ、声を掛けた。
『ねぇ、リュータぁ~?
そろそろ昼だよ。 学食行かない?』
するとそこで初めて講義が終わっていた事に気付いたリュータが、一拍
遅れて少し気の抜けた笑顔を作り、ノロノロと重い腰を上げた。
昼時の学食は学生でごった返し混んでいたが、なんとか二人で向かい合
い座る席が確保出来た。決して美味しくはないが安くてボリューム重視
の学食券を買う。ちょっとでも悩んでいるとどんどん後ろに購入者の列
が出来てしまう為、取り敢えず無難な線でリュータはラーメン、リカコ
はA定食を注文して席に着いた。
リカコがテーブルに肘をついて、割り箸を両手の指先でパキンと二つに
割る。キレイに割れず片方が少し欠けてしまって、他方の箸で棘を削ぐ
ように擦りながら話し始めた。
『ねぇ、コースケの話聞いた?
コンビニでバイト始めたらしいね。
なんかお金貯めて、夜間の学校通うとか言ってたけど・・・。』
『ん・・・。』
一応相槌を打つリュータだが、なんとなく上の空だった。
注文したラーメンを前に箸を持ったまま、まだ一口も口を付けていない。
『私もさ~、
来月から英会話通おうかと思ってんの。
卒業したら海外に留学したいんだよねぇ~・・・。』
『ん・・・。』
そんなぼんやりしたリュータの姿を見て、リカコはテーブル端に置いて
いたノートを丸めて握り振り上げると、バコっと勢いよくその頭を叩いた。
リュータは急に我に返ったようにビックリした顔をしてパチパチと瞬きを
繰り返し、『なんだよっ?!』と、やっと反応を示す。
『あのさ。
そんなに気になるなら、連絡すりゃーいいじゃん?』
ズバリ痛い所を突かれて、リュータはアタフタと口ごもりながら言い返す。
『な、なな何がだよっ?!
・・・だ、だだ誰にだよっ?!』
リカコは呆れ果て嫌味っぽく大きな大きなため息を付くと、目の前に置い
た自分の定食のトレーと、リュータのラーメンのそれを脇にずらして身を
乗り出す。そして睨むようにじっとリュータの様子を眺め続けた。
リカコのそれはまるで心の中を全て見透かされていそうな視線で、思わず
弱々しくリュータは目を逸らし俯く。
するとリカコは諦めたように大きく息を吐き、前傾姿勢からイスの背へと
もたれ掛かり肩の力を抜いて、胸の前で腕組みをして言った。
『とことん話聞いてやるっ!
・・・はい!! 一から千までしゃべんなっ!!』
目の前の男らしいリカコの言動に、リュータが情けなく眉尻を下げ笑った。
リュータはここの所ずっと胸の奥で停滞するモヤモヤを、ぽつりぽつりと
話し始めた。
ナチに好きだと言われたこと。
でも、ナチへの気持ちが ”愛情 ”なのかそうじゃないのか分からないと
伝えたこと。
でも、やっぱり気になるし心配なこと。
そして、先日 ”つらいのは私だけだ ”と言われたこと。
それ以来、ラインも電話も出来ず心にぽっかり穴が開いたようで、何もする
気が起きないということ。
リカコは黙って聞いていた。
その目は鋭く光って、真っ直ぐ射抜くようにリュータを睨みながら。
『・・・で?
リュータはどうしたくて悩んでる訳?』
『・・・。』
即答も出来ず煮え切らないリュータに、リカコは淡々と聞き返す。
イライラするように右手人差し指が胸の前でクロスする腕の上で急かす様
にコツコツとリズムを刻む。
『はぁぁあああああ???
なにっ??
まさか、アンタ。 自分がどうしたいかも分かんない訳ぇ??』
『・・・。』
思い切り責めるような口調で言ってしまい、チラリとリュータの顔色を
伺うも、その顔は抜け殻のように眉ひとつピクリとも動かない。
すると、もう一度リカコが全身で大袈裟にため息を付いた。
そして、
『今のアンタの話聞いて、私が思ったこと言ってもいぃ?』
そう言って、リカコは気怠くイスにもたれていた体勢から背筋を伸ばして
座り直し、バツが悪そうに目を逸らすリュータを真っ直ぐ見つめた。




