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■第59話 悩める女子高生


 

 

リコは自宅に帰ってからも進路の事を考えていた。


自室の勉強机に向かい、キャスター付きのイスを意味も無く右に左にクルクル

廻しながら、指先で摘んだ進路希望調査書を顔の高さに上げて眺める。

 

 

 

 (出来れば・・・


  好きな事を勉強しながら、じっくり先の事を考えたいなぁ・・・。)

 

 

 

幸せな事に、両親からは『リコの思うように決めたらいい。』と言われていた。


進学なら進学、早々と就職したいならそれはそれで応援するという両親の言葉

を思い出し、今一度、自分の遠い未来と近い将来のことをぼんやりと思う。

自分の好きな事・興味がある事は何か、リコは考えあぐねた。

 

 

 

 (やっぱり・・・ 描くことかなぁ・・・。)

 

 

 

机の上のスケッチブックに目を遣り、その刹那哀しげに目を伏せる。

リコは先日の事を思い出していた。

 

  

コースケのあんな怖い顔を初めて見た、あの日。


リコの『マリさんが好きなの?』という問い掛けに、コースケは一瞬表情を曇らせ

途端に口をつぐんでしまった。

 

 

そして、『・・・俺の事は気にしないでいいよ。』と、少し引きつった頬を無理

やり笑顔に変えた。声色だって、それまでのとは明らかに違う低く苦いそれで。

 

それは、違う角度から見れば ”お前には関係ないだろ ”という意味に他ならな

かった。あの日刺さった棘が、リコの胸に再び歯がゆい痛みを思い起こさせる。

 

 

近くにいるのに、一番遠い。

手が届きそうなのに、手を伸ばすとまるで蜃気楼のように儚い。

 

 

 

 (なんで優しくするの・・・?


  なんで思わせぶりな態度するの・・・?

 

 

  なんで・・・


  ・・・なんで、あんな風に抱き締めたりするの・・・?)

 

 

 

本当は答えなど分かっていた。


コースケの ”底抜けの優しさ ”なだけであるという事を。

無自覚の優しさ。実直で素直で、バカが付くほどの善良さ故なだけなのだ。

 

 

例えばこの先、進学して絵を学んだからといってそれがなんになるというのだ

ろう。絵が描けるという武器で、取り入るつもりなのか。本当に心から絵が描

きたいのだろうか。ただ絵を描く事で近くにいられることを期待してるだけな

のではないのか。

 

 

自問自答するリコの口からは、ため息しか出なかった。


100%頷くことは出来ないけれど、しかし100%否定も出来ない。

ただただモヤモヤした気持ちだけが胸の中で停滞し、明確な答えが出る気配

など微塵も感じられなかった。

 

 

  

 

 

その時、ナチはブツブツと独り言を繰り返していた。

 

 

 

 (兄バカって何よっ?! 


  ・・・兄バカ、って・・・。)

 

 

 

ナチは最近、リュータの前では必死にただの ”仲間 ”を演じていた。


あの日、自分の中で覚悟とケジメを付けたつもりの ”想い ”は結局のところ

ただ本当の気持ちに蓋をしただけという状況で、隠せば隠すほど逆に想いは募

っていった。

 

 

その反動か、今までにも増して些細な事にさえ異常にヤキモチを妬いてしまう

状態になっていた。

 

 

 

 (可愛いのかな・・・ アカリさん・・・


  リュータさん、優しいんだろうなぁ・・・

  

  

  ズルいよぉ・・・


  なんで、アカリさんだけ・・・

 

 

  私だって・・・ 独り占めしたいのにぃ・・・。)

 

 

 

四六時中、心の中を占めるリュータの笑顔は、ブンブン頭を振ってみたり枕を

抱えてボフボフと拳で殴ってみたり、突然大きなため息をついてみたりしても

一向に翳ることはない。

 

 

『リュータさぁん・・・。』 ため息の隙間から恋しいその名が切なく零れる。

 

 

次から次へと悩みが尽きないリコとナチであった。

  

 

 

 

 

その頃。

 

  

 

 『もしもし、リュータ? 着いた。早く来て。』

 

  

 

自宅のベッドに横になりマンガを読んでいたリュータのケータイが、けたたま

しく着信メロディーを鳴り響かせた。


画面に表示された着信相手の名に小さくため息を付き、それを耳に当てると、

ケータイ向こうから聞こえたのは、妹アカリの気怠そうな声。

やれやれという風に、リュータがケータイを耳に当てたままヘルメットを小脇に

抱え玄関先でスニーカーに爪先を突っ込んだ。

 

 

 

 『駅か~ぁ?


  今からバイクで行っから、明るいトコで待っとけ。』

 

 

 

ドルン・・・

 

  

バイクのエンジン音が、三日月が輝く藍色の夜空に低く響いた。

 

 

 


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