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■第24話 ヤキモチ


 

 

放課後、リコとナチはいつものファミレスにいた。


窓側の4人掛け席は先日ふたりで泣いたそこで、店員へ案内されリコは困った

ような情けない笑顔を浮かべ、しずしずと腰掛ける。

 

 

お互い無言でメニューを見つめいつものドリンクバーを注文し、1つだけ頼んだ

生クリームたっぷりのボリューミーなパンケーキは二人でシェアする。

 

 

ナチはずっと黙っていた。


そのなんとも言えない重い空気に、リコは必死に明るい話題をふってみる。

しかし、ナチは俯いたままで耳はどんどん真っ赤に染まってゆく。

まるで泣き出す寸前のような心許ない表情で、尚も、口をきゅっと噤んだまま。

 

 

  

 『ナチ・・・?』

 

 

 

優しく優しく呼び掛けるも、やはり返事はない。


その様子に、リコは無理に聞き出そうとせずナチが話したくなるまで待つ事に

決めた。ナイフでパンケーキを半分に切り分けると、ナチが手を伸ばし易い様

にフォークを差し出し皿の端に置いた。

 

 

向こうの席では子供連れの母親たちが、大きな声でしゃべって笑っている。

窓から見える車道は、まだ4時前だから渋滞などはしていなかった。

 

 

 

 (夕方の帰宅ラッシュの時間は、バス遅れるかな・・・。)

 

 

 

リコは窓の外を見ながら頬杖を付き、ぼんやりと頭の片隅で思った。

 

  

 

その時、ケータイのメロディがくぐもって響いた。

リコが設定している曲ではないという事は、ナチのそれという事で。


ナチが一瞬ビクっと驚き、慌ててカバンからケータイを取り出して画面を凝視

している。

 

 

そして、

  

 

 

 『リコ・・・ リュータさんと会ったんだね・・・。』

 

 

 

ナチのその言葉に、一瞬言われた意味が分からずほんの少しの間が出来た。

 

 

 

 『・・・ぁ。 今の、リュータさんから?』

 

 

 

ナチの様子がおかしかった事で今日一日頭がいっぱいで、まだその話をしてい

なかった事にやっと気付く。


リコは、リュータが律儀に心配して来てくれたのだろうという話をすると、

ナチは目を伏せ微かにひとつ溜息をついた。それは何かを考え込んでる様な

感じで、言おうとしていた言葉を胸の奥に飲み込んでしまったような表情で。

 

 

そして、

 

  

 

 『ほんっっと、あの人。 ああ見えていい人だよね~ぇ!!』

 

  

 

と、至極明るく話しだした。


まるで今しがたまでの沈んでいた様子が嘘のように、よく通る声を更に張って

胸の前で腕組みをして大袈裟に頷きながら。

リコにはそんなナチがどこか不自然にも見えたが、なにも言わずに黙っていた。

 

 

散々リュータのことを褒めたり、かと思ったらケチョンケチョンにけなしたり

した後、ナチがポツリと呟く。


それはまるでひとり言のように、小さく震えてこぼれた。

 

 

  

 『そっかぁ~・・・ 


  ・・・リコん家、訪ねてったんだ・・・。』

 

 

 

再び背中を丸めてうな垂れたナチの元々小柄な体が、増々小さくなる。


そしてテーブルの下でじっと見つめていた膝の上のケータイ画面を指先でスラ

イドすると、電源をオフにしてカバンの奥底に少し乱暴に押しやった。

 

 

 

  

 

その後は至っていつも通りのナチで、クラスメイトの話や物理の先生の噂話、

近付いてるテストの話などして二人で笑い合い、夕方に別れた。

 

 

ナチはリコに笑顔で手を振って背を向けた途端、下を向き俯いて歩く。


もう一度カバンからケータイを取り出して、リュータからのメッセージを読み

直す。それは、面倒くさがりなリュータらしいたった一文のメッセージ。

  

 

 

  ”大丈夫そうに見えたぞ、リコちゃん。 安心だな! ”

 

 

 

ナチはそのメッセージには返信しなかった。


きゅっと、つぐんだ口。少しひそめた眉根。せわしなく瞬きを繰り返す瞳は

まるでこぼれてしまいそうな涙を必死に誤魔化しているかの様で。

 

 

胸の中に言葉に出来ないモヤモヤしたものが渦巻く。

 

 

 

 (リュータさん・・・


  ・・・もしかして。 リコの、ことが・・・。)

 

 

 

焦りや苛立ちや嫉妬が混ざり合い、居ても立っても居られない。


ナチは突然猛ダッシュで走り出した。

通行人にぶつかりそうになりながらも、闇雲に猛烈に夕暮れの歩道を駆ける。

 

 

ショックを受けていた。


リュータがリコに会いに行った事も、リュータがリコを気に掛けているかも

しれない事も。そして何より、それに対しこんなにも動揺している自分にも。

 

 

 

 (リコに、リュータさんの事


  好きになりかけてるって言えなくなっちゃった・・・。)

 

 

 



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