■第23話 何をしに?
(ほんとに、何しに来たんだろう・・・。)
リュータが帰った後、リコはいつもの自室の窓辺で夜風に当たりながら今夜の
摩訶不思議なひとときの事を考えていた。
つい先程、リュータは『じゃ。』と軽く手を上げ颯爽と帰って行ったのだ。
夕飯の後は自宅前で弟リクと母ハルコも交えて花火をし、花火の後は母に勧めら
れるまま食後のお菓子を食べ、仕舞にはリビングに寝転がりテレビまで観ていた
リュータ。まるで自分の家にいるかのようなくつろぎ具合で、リビングでの馴染
み方といったら並みではなかった。
ハルコはそんなリュータをたいそう気に入った様子で、不自由な一人暮らしを気
遣って明朝用のおにぎりまで握って渡していた。
勿論、遠慮知らずのリュータはそれを断るはずもなく、『まじ? ラッキー!』
と子供みたいに満面の笑みで喜んで見せた。
リクに於いては、もう懐いて懐いてまるで兄弟のようで。
元々姉ではなくお兄ちゃんが欲しかったリクは、気付くと『リュータぁ~!』と
呼び捨てにしては何かとくっ付いて傍から離れず、リュータもそれを煙たがる事
なく兄のように友達のように上機嫌に接していた。
なにがなんだか全く分からなかったけど、今夜はとにかくお腹がよじれるくらい
笑った。
普段3人で暮らしていて充分賑やかだと思っていたのが、リュータが加わるだけ
で華やかさが2倍3倍にも跳ね上がったように思える。まるで照明器具を新品に
付け替えたかのような眩しいくらいの明るさだった。
それは、つい先日ファミレスで泣いたあの胸の痛みを忘れてしまうくらいに。
(もしかしたら・・・
・・・心配して、わざわざ来てくれたのかな・・・。)
一言も ”あの事 ”に関することはリュータの口からは出なかった。
でもきっとリコの様子を見ようと、突然花火なんか持参してやって来たのだろう
と思うと胸の奥がじんわりと温かいもので満たされた。
(なーんか不器用だけど、もの凄くいい人だなぁ・・・。)
素敵な人たちと出会えた事を、リコは心から嬉しく思っていた。
出窓から見上げた夜空は今夜も無数の星がキラキラ瞬いて、目を瞑っても瞳の奥
に残像がいつまでも残った。思わず、やわらかい溜息がひとつ零れた。
翌日、登校した朝の教室でナチに挨拶するも、なんだか何か言いたそうででも
中々言い出さない妙な雰囲気のナチがいた。
『ナチ・・・? なんかあった??』
授業の合間の短い休み時間。
リコはナチの席に駆け寄り顔を覗き込むように訊いてみるも、ハッキリしない
曖昧な答えしか返ってこない。
いつもの快活なナチらしくないその様子に、リコは何かあったのではないかと
どんどん心配になっていった。
授業中もチラチラと自席からナチへと視線を送るリコ。ナチは俯いて机上で指
を絡ませ全く授業になど集中出来ていないのが見て取れる。
我慢出来ずにリコはコソコソと隠れてノートの切れ端に手紙を書いた。
‘なんか元気なくない?
聞いてほしい話とかあったら言ってよ!’
ノートを破って小さく四つに折り畳むと、教師の目を盗んで隣席のクラスメイト
に『ごめん、ナチに。』と小声でそれを託す。
少し離れた席のナチまで、クラスメイト5人を介して手紙を回してもらった。
急に机の上に現れた小さなメモ紙にぼんやりしていたナチは一瞬驚き、開いて
読む。そして、チラっとリコの方を見ると机に向かい同じ様に何か書きだした。
‘今日の帰りまたファミレス寄れる?’
再びクラスメイトの手を巡り返って来たナチからの返事。
ナチの女の子らしい丸文字が、今日はどこか硬いそれに感じる。
リコはナチの方を向くと少し心配そうに微笑みながら人差し指と親指で小さく
”OKマーク ”をつくり合図をした。
(私ばっか心配してもらって、
ナチのこと全然気にかけてなかったかも・・・。)
ナチからの小さなメモ紙に目を落とし、リコはひとり心の中で反省していた。




