■第21話 ナチの恋?
その頃、ナチはケータイを片手に指先でメッセージを入力していた。
自室のベッドの上にぺたんこ座りをし、ほんの少し背中を丸めてポチポチと。
”私、リコに話したよ。
ファミレスで2人で、ちょっと泣いた(笑)”
送信ボタンに人差し指で触れる。
小さな効果音が響き、それは相手へと届けられた。
ナチは、自分でも気付かぬうちになんだかやけにリュータに心を開いていた。
まるでいつものそれのように、至極慣れた遣り取りのように。
しかし、実際は初めてのラインを送信した。
(ちゃんと読んでくれんのかなぁ~・・・ あの人・・・。)
すると、すぐにケータイが鳴った。
それはメッセージ受信のメロディではなく、電話の着信音。
『・・・も、もしもし?』
『俺だ、バカ。』
リュータからナチへの着信。
ラインをポチポチ打つのが面倒で、リュータは直接電話してきたのだった。
驚きすぎて電話口でシドロモドロになっているナチに、いつも通りの人懐こさ
で普通に会話をしはじめるリュータ。ナチも瞬時に緊張は解け、その居心地の
良いペースに自然にのまれていった。
ナチは今日のファミレスでの事をリュータに話す。
嬉しそうに声を上げたり、たまに涙ぐんで声を詰まらせたり、大袈裟に身振り
手振りをつけながら夢中になって話しをした。
そんなナチをリュータは所々からかってみたり、わざとらしくバカにして笑っ
たりしながらも、きちんと話を聞いてくれた。
『まぁ、リコちゃんがそれでいいなら。
周りはどーのこーのゆう事じゃないし・・・。
つか、カシューナッチも頑張ったな!
偉い偉い。 褒めてやるぞっ!!』
ナチはケータイを口許から少し離し、顔を背ける。
頬を緩ませて嬉しそうに小さく小さくクスっと笑った。
そして、低いトーンで言い返す。その顔は瞬時にツンと顎を上げ目を眇めて
真顔に戻して。
リュータが直接目の前にいる訳ではないのだから見られる事もないというのに
まるで嬉しそうに微笑んでいた顔を見られるのを必死に隠すかのように。
『何・・・? 偉そうに。どっから目線よ?』
生意気な口調で言い返し、そしてまた二人で豪快に笑い合う。
気が付くと、1時間くらい ”バカ ”だの ”アホ ”だの醜い罵り合いをしなが
ら夢中になって話していた。
すると、突然耳に響いたピ・・・ピ・・・という音にリュータが慌てそして笑う。
『やべっ! しゃべり過ぎて充電切れるわー・・・。』
そう言うと、最後に一言ナチへと呟いた。
それは一際やわらかく優しい声で、ナチの小さな左耳へと届いた。
『お前も、言うのキツかっただろうに・・・
本当、えらいよ。頑張ったな。 ・・・またみんなで集まろな。』
リュータの声は、それでピーーと鳴って途切れた。
ナチは電話が切れても尚、体育座りをしたまま暫くケータイを耳にあてていた。
真っ赤に染まった耳の辺りに心臓が移動したのではないかと思う程、やけに耳元
でドクン・ドクンと鼓動が波打ち響く。
ナチの心にも、なにか小さい光が灯された瞬間だった。
(ぇ・・・
なにこれ・・・ 私、どうしよう・・・。)
ナチはブツブツ呟きながら、ウロウロと狭い自分の部屋の中を歩き回る。
ケータイを両手で握り締め、俯いたり天井を仰いでみたり。
本当に今の1時間は現実のことなのか、ケータイ画面で着信履歴を確認する。
すると確かに ”着信:リュータさん ”と表示される。
ナチは急に恥ずかしくなって、ベットに思い切りバフっとダイブした。
顔が一気に熱くてカッカする。インフルエンザにでも罹ったかのように体も熱く
てなんだか胸の奥の奥の方が歯がゆくチリチリして落ち着かない。
うつ伏せで布団に顔をうずめ、呼吸を止めて考えあぐねる。
今度はゴロンと仰向けになり、ケータイの画面をもう一度表示する。
何度確認しても、そこには ”着信:リュータさん ”と。
(ヤバイ・・・
私までトラップにハマっちゃうじゃん・・・。)
さっきまでリュータの優しい声が響いていた左耳が、切なさに異常に赤く染まっ
ていた。




