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■第18話 昨日のこと


 

 

翌日曜日、お昼を少し過ぎたあたりでナチから電話があった。

 

 

リコも昨日のことで話したい事がいっぱいあった。あまりに興奮状態で

昨夜は殆ど寝られないくらいだった。いくら目を瞑って布団を被っても

浮かんでくるあの笑顔、耳をくすぐるやわらかく低い声。心臓が早鐘を

打ち過ぎて壊れてしまうのではないかと不安になる程だった。


リコとナチ二人は、昨日のファミレスでお茶をしながら話しをする約束

をした。

 

 

午後3時、窓際の4人掛け席にひと足早くナチの姿があった。


この時間帯のファミレスは、休日だがまだ混雑はしておらずゆったりと

した空気が流れ、店員もなんだか手持無沙汰で少し退屈そうだ。

 

 

リコは軽く手を上げ合図して、ナチに駆け寄り席に着いた。

 

 

 

 『昨日は、ほんっと楽しかったねぇ~!』

 

 

 

ナチが満面の笑みで少し興奮気味に身を乗り出して話し始める。


飲み物を注文するよりも先にはじまった話に、リコもメニューをめくり

ながらもその話に集中してしまい、一向にオーダーが出来ない。


リュータのこと、リカコのこと、息継ぎも忘れたのかと思うほどにナチは

夢中になって話しをする。

 

 

リコもコースケに案内されていた時のことを話したくて仕方なかった。


嬉しそうに頬を赤らめながら、丁寧に細かくあの時のことをナチに話して

聞かせる。相手の打つ相槌なんか正直なところ無くてもいい程、まるで

ダムが決壊したようにのべつ喋りまくる。

 

 

散々喋り、ふとリコは不思議に思っていたことを何気なく口にした。

 

 

 

 『ねぇ、そう言えば・・・

 

 

  ナチって、リュータさん達と焼きそば屋に残った時、


  なんの話してたの?

 

 

  ・・・なんか、急激に仲良くなってたみたいだけど・・・。』

 

 

 

『・・・。』 リコからの質問に、ナチが途端に黙ってしまった。

きゅっと口をつぐみどこか緊張したような表情で俯く。

 

 

実は今日ナチがリコを誘った本当の目的は、昨日リュータ達に言われた

ことをそれとなく伝える為だった。


でも、こんなに嬉しそうにキラキラした表情でコースケの話をするリコに

どういう言葉で伝えたらいいのか。何をどうキレイな言葉を使ったって、

ショックを与えない訳ないのに。

 

 

ナチの胸がどんよりと重いもので沈んでゆく。

俯いたその視線の先には、膝の上で歯がゆそうにぎゅっと握り締めた拳が

映った。

 

 

 

 『リコ。 ぁ、あのね・・・


  昨日、チラッと聞いたんだけどさ・・・ コースケさんの話。』

 

 

 

腹を決めたナチがポツリと話しはじめた。


その声が少しだけ震えていることに、 ”コースケ ”という固有名詞に

浮かれるリコは気付いてなどいない。

 

 

 

 『えっ? ・・・なに? どんな??』

 

 

 

リコは前屈みになって身を乗り出す。


途端にパっと明るい表情になり、しかしなんだかナチの雰囲気から次第に

聞きたいような聞きたくないような、妙な期待と不安が込み上げた。

 

 

 

 『なんかね・・・


  コースケさんって、ほら、すっごい優しいじゃない?


  結構モテるらしいんだけど・・・

 

 

  でも・・・ 誰とも付き合ってない、みたいなの・・・。』

 

 

 

ここまで聞いて、あからさまにリコの顔が再びパッと明るくなった。

”彼女がいない ”という事実だけで宙に浮きそうなくらい嬉しい。

 

 

チラっとその顔を見て、ナチがうな垂れる。

所々詰まりながら、言いよどみながら、なんとか言葉を振り絞る。

 

 

 

 『で、でもね・・・


  なんか・・・

 

 

  ・・・ずっと・・・ ずっと、好きな人が、いて・・・

 

 

  誰とも付き合わないぽいって・・・ 聞いたんだ・・・。』

 

 

 

 (・・・・・・・・。)

 

 

 

リコのにこやかに上がっていた表情筋がゆっくりと下がり唇が噤まれる。


急激に真っ赤に染まった小さな耳が、まるでジリジリと音を立てて焼けて

ゆくようだった。

 

 

 

 『そ・・・ そう、なんだ・・・。』

 

 

 

やっと言葉を発したリコのそれは、少しだけ嗤った感じが混ざっていた。

勝手に期待して舞い上がり浮かれていた自分へのそれなのだろう。

 

 

それから2人は暫く黙りこくっていた。

ナチはなんてリコに声を掛けていいものか分からず、下を向いたままで。

 

 

ファミレスの賑やかな喧騒が、やたらと耳につく。


子供の笑い声と食器のぶつかる音とストローの啜り音と。

窓ガラス越しに、中通りを過ぎる車やバスの走行音が遠く響いている。

 

 

ナチは弱々しく視線を上げてテーブル向かいのリコを見つめる。


無責任に『大丈夫だよ』なんて言える訳ない。

でも『だから諦めなよ』なんて簡単に言えない。言いたくない。

 

 

 

ナチは真っ直ぐリコへと顔を向けると、正直な気持ちを話し始めた。

 

 

 



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