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9/9

帰り道にて②

いわゆるボーイミーツガール物の作品でございます。

夢見がちなヘタレ高校生・早良さわら 汰郎たろうと、可愛いケド手が付けられない程ジャジャ馬な小学生・祇園ぎおんの 円袴まるこの心温まる物語……になる予定です(汗)

気ままに連載を続ける予定ですので、可能であれば最後までお付き合い頂ければと思います。

この作品を読んで人間が成長する事に、その快感にちょっとでも酔いしれて頂けたら幸いです。


登場人物


・早良さわら 汰郎たろう:主人公。並外れて低い身体能力しかないのにボクサーを志す夢見がちで坊ちゃん気質な高校一年生。

・祇園ぎおんの 円袴まるこ:小学生の女子。本来は元気で明るい女の子。だが様々な問題を抱えており苦悩が耐えない。美少女。

・御木本みきもと 鉄まがね:小学校時代からの腐れ縁。中学は別々の学校に進み同じ晴櫻学園に入学して再開を果たす。よく部活の帰りに汰郎と一緒に帰る。

・西山:ボクシング部の同期。落ちこぼれの汰郎を迷惑視して退部させようと色々画策する。

・祇園 信近のぶちか・有紗ありさ:円袴のパパ&ママ。昔は仲が良かったが今はすこぶる悪い。円袴の悩みの種の1つ。

・颯波さっぱミナト:ボク部の先輩。高2。人当たりが良い。

・六色むついろ 碧ル(へきる):ボク部のマネージャー。高2。エネルギッシュで人望も厚い美人。汰郎の憧れの人

・ガラの悪い男:円袴の隣にいる男。

あれはそう――ボク部に入部する前の日の夜の事だった。

おれは明日になるのが待ちきれずにいた。 夜中になっても気持ちが昂ぶってどうしようもないから近所をランニングしていたんだ。

まだわずかな賑やかさを残す商店街を走りぬけて静寂な住宅街に入る。

と、突然自分に向かって激しい怒号が飛んできた。

「ひぃぃっ!!」

なんて情けない声を上げてんだ。と、心の中で実況する余裕はあったが、足がもつれてしまい、勢い余って傍にあったゴミ箱にツッコんだ。

そして捨ててあった雑誌の山に頭をぶつけた。

「痛って~」

積み重なった本というのは案外硬かった。

頭をさすりながら声が飛んできた方を見ると、マンションのベランダから男がこっちを見ていた。

暗がりだったので顔は良くわからなかった。

それから自分に向かってどんな言葉を吐いたのか、それももう記憶に無い。 

ただ、あまりにもひどい暴言だった気がする。 

相手は相当ガラの悪い男だ。

その男の隣に少女が居た。 

そう。

円袴だ。

月明かりがちょうど彼女の顔だけ照らしていたからわかった。

今なら鮮明に思い出せるのに、先刻までキレイさっぱり忘れてた。

そうなんだ。 あの時こそが、おれと円袴が初めて出会った瞬間だったんだ。

――話を続けよう。

あの時円袴と出会った事が、もしかしたらきっかけだったのかもしれない。

その日から数日後の晩。 おれは不思議な夢を見た。


その夢は着水から始まった――。

真っ暗で冷たい水の中をどこまでもどこまでも沈んでゆく。

どんなにもがいても、金縛りにかかったように身動きが取れない上に、それがパニックを引き起こす原因にもなって、まともな判断もかなわなかった。 そうしてもがくだけもがいた後で気を失った。 

………………………………………………………………

………………………………………………………………

……次に目を覚ました時、今度は瓦礫だらけの場所にいた。 

辺りを見回しても一切人気がなく、風の音がやかましかった。

一体ここはどこだ?

一体何が起こったのか?

知りたいケド、知る手段がない。 スマホの電波も圏外を表示していた。

空を見上げるとどんよりとした曇り空に覆われていて、空気がズッシリと重たかった。

このまま突っ立ってると気が狂いそうになる。

「おーーーーーーーーーい! 

 おーーーーーーーーーい!

誰か居ませんかーーーーーーーー?」

力の限り叫んでみたけど、誰からも返事は無かった。

……怖い。 怖い。

心の中で恐怖が暴れまくってる。

必死に落ち着かせようとしたが、まともに思考が働かない。

おれは恐怖心を吹き飛ばしたくて、全力で駆け出した。

「はあはあはあ、……一体何がどうなってんだよ!」

全力で走って途中で立ち止まり、また走り出して。 そんな事を何回か繰り返してる内に足が棒のようになり加えて空腹がピークに達した時、追い討ちをかけるように今度は雨が降り始めた。

まずい。 と一瞬思ったけど幸い周りは廃墟だらけだったので、雨をやり過ごすだけなら場所は豊富だ。 とりあえず目の前にあった岩陰に隠れる事に決めた。 

「はあ~~……」

腰を下ろすと、疲労感が一気に押し寄せてきた。 

恐怖心はいつの間にか疲労感で塗りつぶされていた。

でもそのおかげで、少しは正常に思考が働けるようになった気がする。

ひとまずここでゆっくり雨が止むのを待ちながら、この状況を落ち着いて考えてみよう。

ここは一体ドコなんだろうか?

現実感が全くない。 まるで映画の1シーンの中に入り込んだようだ。

これは夢じゃないのか?

そんなことは既に何度も思った。 ベタだけどほっぺを抓ってみたら残念ながらメッチャ痛かったし。

ホントにここは一体どこなんだ? 何が起こったんだ?

目が覚めた時の疑問が再び浮かび上がる。

記憶喪失にでもなったのかな? 

ここまでに至った経緯がさっぱりわからない。 心当たりのある出来事なんて微塵も思い浮かばない。 

それにしても……お腹がすいて仕方なかった。

崩壊してから相当な年月が経っているっぽいのと、大量の砂埃をかぶっていて、極端に色味を失っているものの、崩れている建物をよくよく見てみるとどうやら元々は街だった形跡が伺えた。

ってことはスーパーとか、食料が残されている建物もあるのでは?

雨が止んだら食料を探そう。 缶詰があればもしかしたらまだ食べられるかもしれない。

小一時間経つと雨がやんだので、おれはもう一度辺りを調べて回った。

食料を探しつつ、誰か人が居ないか注意する。

人の声がしないか耳をそばだててみたが、風の音がうるさ過ぎて聞こえない。

その時だ。

一瞬だけ風が吹き止んで、うるさかった風音が途切れると、微かに人の声が聞こえた。

……誰か居る!!

声がした方に全神経が集中する。

おれは声がした方に向かって無我夢中で駆け出した。

聞こてきたのは、泣き叫ぶ子供のような声だった。 

こんな瓦礫ばかりの場所だし、もしかしたら生き埋めになっているのか。

心の中では孤独感から解放されるかもしれない喜びと、人命が関わるかもしれない緊急性を要する緊張感が渦巻いていた。 とにかく走れ!

すると再び子供の声が聞こえた。

何か叫んでいる。 しかも走りながら(?)叫んでるっぽい。

おれは声の主に気付いてもらおうと、思いっきり大声で叫んだ。

「おーーーーーーーーーい! 

 聞こえるかーーーーーー?

 聞こえたら返事してくれーーーーーー!!」

しかし、あちらからは何の返答もなかった。

風がうるさくて声が届かないんだ。 まるでおれの行く手を邪魔しているみたいに。

それにさっきから走りすぎて心臓が破裂しそうで苦しい。 思わず立ち止まってしまったら、足下にカツッと何かが当たった。

ピンク色のケータイが落ちていた。 機器にはベタベタと乱雑にシールが貼られててどうみても子供用だ。 さっきの声の主の持ち物だろうか?

ケータイを拾い上げると機器の裏には『祇園 円袴』と書かれていた。 少しでも情報が欲しいので、子供とはいえプライベートを無視して画面を表示させた。 

そこには途中までメールを打ち込んでいる形跡があった。

「…………」

その文面を読むと、おれにはとても信じられない内容が書かれてあり、声が出せないほどショックを受けた。

ケータイをギュッと握り締める。そして子供が走り去ったと思われる先を見据えた。 

太ももはすでにパンパンになっているケド、もうそれどころじゃなくなった。 

根性でもう一度走れ! 言う事を訊かない脚をバシン!と叩き、おれは力を振り絞って走り出した。

そして……

「いた!!」

ついに、子供を発見した。

前方に建っている比較的損壊率の低いビルの窓から、子供の姿が見えたのだ。

「おーーーーーーーーーい!!」

おれは手を振って大声で必死に呼びかけた。 しかし子供はこちらに気付かない。 階段を上っているらしい。 

もう一刻の猶予もならない。 早く。 早く子供を捕まえなければ!

くそっ、階段を一段上るのさえすっげーシンドイ。 足は既に限界の限界に達している。 それでもなんとか子供を追ってビルの屋上までやって来た。

子供はどこだ?どこだ!?

辺りを見回すと、一瞬背中に寒気が走った。 視線の先にビルから身を投げ出そうとしている子供の姿があったからだ。

そしてほぼ同時に、子供はビルから飛び降りた。

それとほぼ同時に、おれは咄嗟に叫んだ。

「あきらめるな!」

って。

そしておれも子供の後を追ってビルから飛び降りた!

ちょっと待って! ウソだろ!?

自分でも驚いている。 

ほんの少しの躊躇もなく自然と体が動いてビルから飛び降りたなんて。 よく本能的に体が動いたって話を人から聞くけど、こういう感覚なのだろうか?

こんな危機的状況にも関わらず冷静で客観的な物言いができるのはある種の興奮状態に入っているからかもしれない。

先に飛び降りた子供はおれの声を聞いて、落下しながら此方を振り返った。 

「誰えーっ?」

子供は必死に叫んだ。 その声と表情は明らかにおれに救いを求めている。

「円袴ーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

ありったけの大声で彼女の名前を呼んだ。

おれが手を目一杯伸ばすと円袴も懸命に手を伸ばした。

落下する円袴に少しづつ近づく……

がんばれ。

あともう少し……も……うすこ、し……ッッ!!

おれは円袴の手をガッチリ掴んだ。

そしてすかさず体をグイっと引き寄せて円袴抱きしめた。

よし、やったぞ。 その次は腰に巻いた命綱を掴みながら壁を蹴って少しづつ減速させて……って、あーーーーーーーーーーーーーっ!キャッチしたはいいけどおれ命綱なんて巻いてないじゃん! なんでそんな事に気付かなかったんだ!? 

今更後悔してももう遅いか。 いや、おれが下になってクッション代わりになれば、地面に激突しても円袴だけは助かるかもしれない!

闘志だけは心の奥からドンドンドンドン燃え上がってきてるんだ。 絶対に円袴を助けてみせる!

「さあ来いよ、地面! おれは死んだって絶対に円袴だけは助けてやるぞ!!!」

おれ達は飛び降りた勢いを少しも弱めることがかなわないままグングンと眼前に迫り来る地面に激突した――……様な気がするけど、それよりも前におれの意識がなくなってしまった。

そしておれはまたしても別の場所で目を覚ました!

「え!? なんで??」

何もかも分からなさ過ぎる!

何でまた別の場所に移動してるんだよ? いや、移動させられたといった方が正しいのか? とにかくなぜかおれは別の場所にいる。 分かるのはその事実だけだ。

「どうなってんだよ、ホントに……」

周りを見渡したところ、どうやらどこかのショッピングモールのようだ。

真っ白な照明灯で清潔に照らされたショップの数々。 どれも華やかなデザインの看板を独自の方法で目立つように掲げてある。

しかし、それを見てくれるはずのお客は周りを見渡しても一人としていない。 強いて言えばおれと、この腕でしっかり抱えている女の子。 祇園円袴くらいだ。

普段だったら絶対聞こえはしないだろう、空調設備から流れる風の音がハッキリ聞こえてくる。

こんな場所でさえ、死にそうな程静かだった。

「ん……」

腕に抱きかかえていた円袴がもぞもぞ動き出した。

「あ、ごめん。 苦しかった?」

飛び降りてる最中に円袴を強く抱きしめて、ずっとそのままだった事を思い出した。

円袴はおれの腕からぴょんと飛び降りると、そのまま駆け出した。

「ちょ、ドコ行くんだよ!?」

おれは慌てて呼び止めた。しかし、

「おしっこ!」

と、元気のいい返事が返ってきた。 なるほど。 よし、おれもしてこようっと。

その後でおれと円袴はようやく落ち着いて話すことが出来た。

「あ……あのさ、その……た、助けてくれてありがとう」

円袴はモジモジしながら礼を言った。

「結果オーライでしょ。 結局飛び降りてもこうして生きてるみたいだし……なんでかはよくわからんケド。 でも本気で死ぬつもりだったんだよな。 それだけはマズイ。 いけない事だよ。 おれはとにかくそれだけはやめさせようと思ってキミの後を追ってきたんだよ」

「そうなの……? なんで?」

おれはポケットから彼女の物であろうピンクのケータイを出した。

「あ!」

「返すよ」

おれはケータイを円袴に返した。

「もしかして……みた?」

円袴の質問におれは首を縦に振った。

みるみる円袴の顔が真っ赤になった。

でも違うんだ。 彼女にとってはただ見られたら恥ずかしい内容が書いてあっただけかもしれないけど、おれには何よりもショックなことが書いてあったんだ。

円袴のケータイの画面にはソーシャルゲームの会員同士が自由に書き込めるチャット形式のルームがあった。 そのルームには指定された会員しか入れないようになっており、実際には円袴ともう1人の会員だけの完全な個室状態となっていて既読を見ると膨大な量の会話のやり取りが行われていた。 普通の小学生がこれだけのめり込むのは普通ではないがそれは相手にも同じ事が言える。 平日休日昼夜を問わず、まさに廃人といっても差し支えない程に二人は病的にここでバーチャルな会話を繰り広げていた。 最初はお互い名前や素性を隠していたようだけど、やがてお互いにリアルな素性を明かすようになっていた記述を見つけた。 そこには円袴は自分が小学生3年生の女子だと明かし、相手は高校教師の男だと明かしている文面が書かれていた。

「"けーべつ”っていうんだろ、今おにーさんがしてるような顔」

円袴が言った。 彼女の目にはおれの表情が哀れんでいるように見えたらしい。 でもそれは違う。 おれはただ、どんな表情をすればいいか理解らなかっただけだ。

「相手の男の名前、『早良さわら 丈治じょうじ』ってさ、」

さっきの記述には続きがあり円袴と相手の男はお互いに実名をも明かしていた。 もちろんお互いに相手が明かした名前が本当に実名なのか知る術はない。 この2人をリアルに知っている者でない限り。 おれは2人の名前が実名である事を知っていた。 つまり……

「早良 丈治は……昔、おれの父親だった人だよ」

「え?」

「軽蔑されるのはおれの方なんだだよ」

「え、ちょっと……おにーさん!? なんで泣いてるんだよ?」

くそ、円袴の顔が涙で滲んで見えない。 なんで泣いてるんだおれは。 あんなヤツのためになんで泣いちまってるんだよ。

「あの……バカオヤジ……」

どれだけ拭っても後からどんどん溢れてくる。 横隔膜が不随意に痙攣してしゃっくりがとまらない。 こんな小学生の女の子の前でガチ泣きなんてカッコ悪すぎる。

「おにーさん……」

円袴はおれの隣にちょこんと座った。

おれもなんとなく、彼女の隣に座って体育座りの状態で顔を膝に埋めるようにして表情を隠した。

こうしてると何か小学校時代を思い出す。

「あたしもよくそーやって泣いてるよ」

小さな声で呟く円袴の声。

「へへ、おんなじだね」

円袴は笑っていた。 おれの事をバカにしている笑いじゃなくて、むしろ慰めているような優しい笑いだった。

そこまで分かっていながらおれは何のリアクションもせず、聞こえないフリしてずっと自分の膝に顔を埋めていた。

そうしてお互い無言になって、どれだけ経っただろうか。5分?いや3分位か。

「おにーさん、『ジョージ』の子供だったの?」

円袴が静かに口を開いた。

おれももうさすがに涙はひいてたし、体勢的に膝に顔を埋めたままで首が痛くなったので致し方ないようにして顔をあげながら「うん、そうだよ」と答えた。

「親父とお母さんは5年前に離婚した。 親父は都内の高校で教師をしていたんだけど性犯罪がバレて警察に捕まったんだ。 おれが小6になってすぐの頃だった。 その時のおれはその罪の重さをあまり理解してなかったんだけど、あのたった1つの事件でそれまですごく和やかだった家庭が一瞬にして崩壊したのを今でもよく覚えてる。 お母さんも相当ショックを受けたみたいだけど、運良くすぐに知人の紹介でイイ人を見つけて再婚した。 それが今の父親さ。 で、新しい父さんの仕事の都合でお母さんも一緒に今は京都に住んでる。 この話は今はどうでもいいか」

小さい頃に親父によく言われた言葉をふと思い出した。 “男だったら泣くな”“男だったら強くなれ”“男だったら悪いことをするな”……だったかな? 親父は“男だったら~”とつけるのが口グセだった。 口が酸っぱくなるくらい言われてたな。 それなのに今のおれはてんで弱っちくて、臆病だし、親父もあんなデカイことを言ってたくせに最高にカッコ悪い姿をさらしてるんだもんな。 血は争えないってことか? 世界はマジで残酷だな。

「親父は今どこにいるか何か言ってた?」

「うん。 大阪で高校の先生やってるっていってた」

「え、ホントに?」

「うん。 なんかボクシング教えてるっていってたよ」

「え、ボクシング?」

それは初耳だった。 確か親父は現国が専門で体育系はからっきしだったと思ったケド。 ま、部活の顧問についているだけだと思うな。 教えてるって言うのはきっと話を盛ってるだけに間違いない。

「ね、 その……さっきは本当にありがとう。 おにーさんだって死んじゃうかもしれないのに助けてくれて……本当に嬉しかった」

「いや、それはなんというか父親の責任は息子が取らなきゃっていう使命感が強かったからで……」

円袴のケータイを拾って画面を表示させた時、一番最初に表示されたのが“これから死にます”という円袴のメッセージだったのだ。

2人のチャットの既読を遡って会話の経緯を理解した時には本当に衝撃を受けた。

なんせ性犯罪を犯して自分の下から去った父親が、何食わぬ顔で再び未成年の女性をたぶらかしていたのだ。 しかも小学生女子を相手にだなんてありえないだろ。 たとえ死んでもこの子を守らなきゃって思うのは息子として当然の義務ってモンでしょう?

ああやだやだ……久しぶりに親父の事を思い出したせいで、心の中が嫌な気持ちになって落ち着かなくなってしまった。

でもそんな事は本当の本当にどうでもいい。

今一番大事なのは自分達のこの状況だ。

この広大なショッピングモールにさえ人の気配が無いのはどういうワケなのか。 周辺を歩いて少しでも何か情報を手に入れないと。

「円袴!……ちゃん。 これから一緒に辺りを調べに行こう。 なにか手掛かりを探さないとさっぱり状況がわからないよ」

「うん」

おれは先に立ち上がって円袴の手を掴んで立たせた。

「ね、あたしのコト円袴って呼び捨てでいーよ。 そのかわりおにーさんの名前も呼ばせて」

「え、いいけど」

「やりぃ☆ おにーさん何ていうの?」

「早良 汰郎だけど」

「タロウ? あはは古い名前! 桃太郎みたい。 それにジョージと同じ苗字なんだね」

「ま、既に物心ついてる年だし改姓するのは可哀想だって事で……両親は違う性だけどね。 あと、お前だって人の事言えるか? マルコってまるっきり昭和のセンスじゃないか」

「ムカッ!」

「痛ってぇ!」

円袴のヤツ、脛蹴りやがった。 なんて乱暴なヤツなんだ。

「いくぞ、汰郎」

円袴がスッと手を差し出した。 コイツはコイツでさっきまで物凄く寂しくて辛い思いをしてきたワケで、いきなり人を蹴った事は頭に来たけどそんな事が出来るくらいには少しは苦しさから解放されたんだなーと思ったらまあ許してやらなくはないと思ったり……ま、そんな感じでおれは円袴の小さな手をギュッと握りしめ、謎がひしめくショッピングモールの探索に歩みだすのだった。

前回の投稿から約9ヶ月も掛かってしまいました。

仕事の合間に書いているのですが中々まとまった時間が作れず、とはいえここまでかかるとは思いませんでした。まだまだ道のりは長いですが、自分のペースでちゃんと完結まで書き切りたいと思います。

次回投稿時期は未定ですが、ふとこの作品を思い出したら様子を見に来て下さいませm(_ _)m

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