虫の胸中
びっくりした
男の礼に居心地悪く視線を逸らし、さりげなく隠した指をポケットの中で擦る
ちなみにもう傷はないが、布で少し覆うなどしておいた方が人間的に不自然じゃないだろうかなどと思う
男からはどう見えていたのかわからないが、ユカラと呼ばれるこの母親の体を拭いていた時に、地面に落ちていた小さな陶器のかけらに手をついてしまい、ほんの少し指先に怪我を負っていたのだ
チクリとした感覚に目をやると、じわりと赤黒いものが浮かぶ
先程の虫で自分の血の毒性はうっすら理解していたが、たとえ今ほんの少しユカラの体についてコロッと死んだところでどうせ変わらないしいいか、と思い直し,そのままにしたのだ。
今死ぬか、それとも少し後か、の差にすぎまい。食べる時には支障もない
気にせずユカラの染み付いた薬草臭さを料理の下拵えのように丁寧に行なっていた際に,指から滲んだ血の雫が、濡れたタオルから落ちる水滴と混ざり合い、彼女の鎖骨の位置にぽたりとほんの一滴だけ落ちる
彼女の体表に塗り込まれていた薬草成分と、水分と血が混ざりあい、ポタリ…と跳ね、その雫を肌が吸収した僅かコンマ数秒の瞬間に、魔物も知らない地獄がユカラの体内に潜んでいた大量の虫の幼虫達を突如として襲っていた
幼虫達はそれまでなんの苦労もなくのびのびとこの人間の中で暮らしていたのだ
後もう少しで成虫だ、と皆ソワソワしながら宿主の魔力と栄養をモリモリ食べて備えていた時に、突如としておきたビッグバン
ほんの一滴,されど一滴
虫達にとってはあまりにも強力な殺虫剤が目鼻口尻に至るまであますことなくごってりと、大量に押し込められたような地獄がスタートした。
人間と魔物には聞こえてなかったが,阿鼻叫喚が沸き起こっている
ここにいられない!!!一刻も早く毒のプールであるこの体から出なければ
大混乱に陥った虫達は巣食っていた場所から一気に出口である宿主の口内へ殺到した
噛み破ろうなんて少しも考えない、毒が回った肉に歯を突き立てた瞬間にどうなるか想像もしたくない
今ですら耐え難い程の痛みに絶叫しているのに、更にこの毒を口にしたらとても耐えられるはずがない
我先にと全ての虫達が元からある食道という道を駆け上がり必死に出口へ直走る。
だが、宿主の体もダメージを吐き出そうとしているのか、なんと後ろから胃酸と毒の血が混じった内容物まで一気に津波の如く競り上がってくる
これに触れたらアウト!と分かる虫達の絶望感は筆舌に尽くし難い
津波に押し流されるように一気に口内から押し流されて外に飛び出した虫達だが、飛んで逃げることももはや叶わない
息絶え絶えの虫達が手を折り畳みながら最後に見上げた空を覆い隠すように、1人の男が自分達を金色の目で見下ろしていた
「ギィッ?!」
虫以外には聞こえぬ絶叫であろうが、叫ばずにはいられない
絶対に、絶対絶対絶対にお近付きになりたくない匂い
絶対この人もどきのせいだ…なにをしたのかわからないが、この人もどきの手から先程味わった地獄の匂いと同じ、いや何百倍にも濃縮したような匂いがしている
虫は知らないが、親虫達は全てこの濃縮された一滴を味わい、子虫達が味わったものより比べるのも烏滸がましい程の地獄をがぶ飲みしてしまい、コロリといっている
兄弟虫達がポクポクと召されていく中、最後の一匹も、不満げな声を上げながら後を追うようにポクリと天に召されていった
そんなことは露ほども知らない男と魔物が揉めていたが、ユカラが助かったのは魔物の毒が一滴であったこと、またその一滴を、ユカラの全身に塗られていた薬草の成分が限りなく弱めた為に起きた虫専用のビッグバンだったのだ
流石に殺虫成分にユカラの全身も拒絶反応を起こし吐血したものの、残留していた毒物のほとんどは虫達が背負って行ったので、ユカラ自身は身体中の毒素が一斉に出て行った状態となっていた
体の倦怠感、耳鳴り,頭痛、悪寒,ひどい喉の渇き、あげだしたらキリがないほどあちこちが酷く体調は悪いものの、息がしだいに細くなっていく程の苦しみがぴたりと止まったことにより、ユカラの呼吸が安定したものへ変わる
意識はまだない,けれど手に感じる愛おしい温かさ、小さな柔らかさはユカラに生きる希望を確かに抱かせていた
今回AIの補助機能(文書の数箇所をいい感じに節々直す、誤字脱字チェック)はしっくりこなかったのでオフにしてます、生書きのままなので読みにくかったらすみません。




