良神
使徒たちの全身全霊を込めた一撃が、エミアリルの暴走の根源たる“接点”へと突き刺さった。地脈の魔素柱に激しく衝突し、天地を揺るがす轟音と共に、亀裂を生み出した。柱が内側から崩壊するように砕け散り、柱に繋がっていたエミアリルの巨体が大きく痙攣した。
「……ぐ、ああああああああ!いやぁぁぁ!」
断末魔のような叫びと共に、エミアリルと魔素柱の接続が、完全に断ち切られた。
途端に悪神の威圧感が薄れていった。それまで宙に浮いていたエミアリルは、まるで糸の切れた人形のように、重力に引っ張られ床へと叩きつけられた。
ドスッという鈍い音を立てて床に伏せた。その姿は、先ほどまでの禍々しい異形ではなく、痩せ細った小さな子供のようだった。幼い顔には、怯えと深い悲しみが深く刻まれていた。
エヴァは、疲労と微かな恐怖に足を取られながらも、震える一歩を踏み出し、エミアリルへと近づいていった。
「危ないよ。エヴァ。」満身創痍のサラが声をかけるがエヴァが足を止めることはなかった。
エヴァの接近に気づいたエミアリルは、怯えたように腕を振り上げた。小さな土塊がエヴァめがけて放たれたが、それはかつての威力とは程遠いものだった。
アレックスが疲れた表情で一歩踏み出し、その土塊をサッと払った。魔素柱との接続を失い、疲弊しきった今のエミアリルの能力は、彼にとって簡単に弾き飛ばせるほどに弱まっていたのだ。
エヴァは、小さなエミアリルの目の前にゆっくりと膝をついた。怯えるその小さな体を、優しく、しかし確かな力で抱きしめた。
「寂しいよね。でも大丈夫。エヴァがそばにいるよ。」
エヴァ自身が、かつて誰よりも欲し、切望していた言葉。その温かい響きが、エミアリルの心を直接揺さぶった。乾いた瞳から、一筋、また一筋と、汚れた頬を伝って涙が流れ落ちた。やがて、その小さな体は震え、嗚咽を漏らし始めた。何百年、何千年と抱え続けてきたであろう悲しみと絶望が、今、小さな身体から溢れ出していた。
その様子を見て、身体を引きずりながらも他の使徒たちがゆっくりと近づいてきた。
リーが、崩れ落ちた岩に寄りかかりながら、力なく笑った。「随分と、小さくなったな、悪神様も。」
アレックスは、深く息を吐き出しながら、エヴァとエミアリルを見つめた。「……ごめんな。」
サラは、静かに弓を下ろし、目に涙を浮かべながら、優しく微笑んだ。「……大丈夫、ゆっくり落ち着いてね。」
ジュールは、血の滲む手で自分のバズーカを握りしめ、安堵の表情を見せた。「君自体を打つ選択をしなくて本当に良かった。」
最後に、真人がゆっくりと二人の前に立つ。彼の顔にも疲労の色は濃かったが、その瞳には澄んだ光が宿っていた。
「人は確かに自分勝手で傲慢だ。でも良心と情愛を忘れているわけじゃない。思い出させてくれる神が必要なだけ。僕はそう思う。」
それは、【鑑定】の結果や、何かの説明ではなく、真人の心からの言葉だった。
エミアリルは、エヴァの腕の中で、真人の言葉を反復するように呟いた。「思い出させてくれる神……。」その言葉を噛み締め、何かに気づいたように、エヴァの方へとゆっくりと顔を向けた。
「僕の力を君に分けたい。……いや、託したい。エヴァ、神になってくれない?」
その衝撃的な言葉に、使徒たちは息を呑んだ。エヴァは驚きながらも、その言葉の意味を理解したように、にっこりと笑顔で答えた。
「一緒にならいいよ!二人で神様!」
エミアリルの目が見開かれる。それは初めて見る、純粋な驚きの表情だった。
「神となれば、地上には戻れない。それでもいい?」エミアリルの声に、僅かな不安が滲んでいた。
エヴァは頷いた。
「……わかってる。でも、もう寂しいって思う人がいなくなるなら!」
エミアリルは、そっとエヴァの手を取った。その瞬間、二人の間に温かい光が灯り始めた。
「待って。」
エミアリルを止めると、エヴァは立ち上がり、ゆっくりと他の使徒たちへと向き直った。そして、一人一人としっかりと抱きしめていった。
「……みんなと一緒に冒険できた時間、すごく楽しかった。ありがとね。」
サラはガラにもなく声を上げて号泣し、アレックスも目を真っ赤にして、泣きそうになるのを必死に堪えていた。ジュールは、目に涙を浮かべながらも「お祈りしてるから」と、エヴァの背中を優しく押した。リーは何も言わず、ただ力強くエヴァの肩を叩いた。
「行ってくるね!皆、お祈りしてね!」
エヴァの澄んだ声が響き渡る中、彼女は再びエミアリルの手を取った。二人の体は、眩い光に包まれていった。
エミアリルが、その光の中で、新たな声で紡いだ。
「我ら二人は、良心と情愛の神。二人で一柱。共に手を取り合い、支え合い神生を歩むことを誓う。」
一瞬の静寂が訪れた後、エミアリルは、どこか嬉しそうな声でエヴァに尋ねた。
「名前、どうしよう。1個しか登録できないや。」
「じゃあ……エミヴァル?」エヴァの提案に、エミアリルは満面の笑みを浮かべた。
「いいね!そうしよう!――我が名はエミヴァル。天界へと帰還を申し出る。」
次の瞬間、二人の光は弾けるように増幅し、虚空の彼方へと吸い込まれるように消えていった。
「……エヴァ、まじで神になったのか……。」
アレックスの呆然とした呟きが、静まり返った空洞に響いた。残された五人は、エミヴァルが消えていった虚空を、ただ立ち尽くして見つめていた。その瞬間、張り詰めていた緊張の糸が切れたかのように、全員がその場に崩れ落ち、深い眠りに落ちていった。
~神の円卓~
眩い光の中、エミヴァルとなった二人の神は、神々の円卓の前に立っていた。
エミヴァル(エヴァ)が、元気いっぱいの声で挨拶した。
「よろしくお願いします!」
ヴァレボアが豪快に笑った。
「おう、よろしくな。嬢ちゃん!ガハハ。」
アズライルが驚いた表情で、エミヴァル(エヴァ)を見つめた。
「まさか神になっちゃうって、おねぇさんびっくりよ。」
「エヴァもビックリだよ!」エミヴァル(エヴァ)が答えた。
ノイアが現実的な声で告げた。
「自己紹介も聞きたいが、一旦、魔素をどうにかしないとな。」
エミヴァル(エミアリル)が申し訳なさそうに、頭を下げた。
「そうだった。ごめんなさい。」
フォルメリアルが、慈愛に満ちた声でエミヴァル(エミアリル)を慰めた。
「私達もあなたの痛みに気づけなかったのがいけないわ。ごめんなさい。」
フォリュアも同意した。
「そうよ!あなただけのせいじゃないわ!」
エミヴァル(エミアリル)は、皆の優しさに涙ぐみながら言った。
「ありがとう皆!……魔素なんだけどさ、空間転移で移動させるの?それとも時間逆行で800年前まで戻す?」
セラヴィオルが冷静に分析した。
「地脈は世界規模です。どちらにしても影響は測りえしれないでしょう。」
ノイアが首を横に振った。
「いや、そうじゃない。魔素を石に替えて欲しいんだ。私達は物理法則には干渉できないが、君ならできる。違うか?」
その言葉に、エミヴァル(エミアリル)の瞳が輝いた。
「魔素を石になるほど、位相変異か!」
~地上~
ゆっくりと目を開けた真人の眼前には驚きの光景が広がっていた。
先程まで悪神と戦っていた空洞は、まるで別世界のように変貌していた。周囲を覆っていた岩盤や、無数の魔物たちの残骸、そして溢れかえっていた魔素の痕跡は全て消え去り、代わりに光り輝く紫色のクリスタルのようなもので覆われていた。空間全体が、宝石箱のようにきらめいていた。
彼の【鑑定】スキルが発動した。
『対象:物体/名称:魔宝石、魔素反応:極高』
『危険度:無し』
『有用法:武器、防具への加工や魔法付与』
『対象:空間/魔素濃度:中』
『危険度:低』
驚きながらも、その情報に安堵した。空間の魔素濃度も、体感で減少していることが感じられた。呼吸がしやすいのだ。
次々に目を覚ます使徒たち。
「なんだ!ここどこだ!」アレックスが跳ね起き、周囲の光景に目を丸くした。
「綺麗。これならいいネックレスが作れそう。」ジュールは、戦いの痕跡が美しい結晶に変わった空間を見渡し、感想を漏らした。
リーもサラも目を覚まし、呆然と周囲を見渡した。彼らの目に映るのは、確かに自分たちが戦った場所でありながら、まるで浄化されたかのような、幻想的な世界だった。
エミヴァルによって魔素は魔宝石へと変換され、世界は危機をおそらく脱したのだ。
やがて、全員の疲労が限界に達し、しばらくその場で動けずにいたが、数時間後、彼らはようやく立ち上がり、この地脈の空洞を後にした。
空洞の外もアヴァシオン全体も魔素濃度が下がり、魔物の量も大幅に減っていた。危機的状況では無くなったことが肌で感じられた。
一行は船に乗り込み、アヴァシオンを後にし、王都のジュール宅へ向かい進んでいった。
【本日の残業報告】
・悪神エミアリル、撃破→幼子へ
・エヴァの抱擁→心の浄化
・エミアリル「神力、託す」→エヴァ「一緒に神になる!」
・二人三脚神「エミヴァル」誕生
・神の円卓:神籍登録&魔素対策会議
・位相変異:過剰魔素→魔宝石化
・目覚めた使徒達、宝石空間で現状確認→魔素安定
・アヴァシオン脱出→王都へ帰還予定
#本日の残業報告
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