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魔導工兵  作者: 龍血
第2章 救神の貴公子
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第23話 力に溺れた狂神

 

 クリフォードとミックはディアンと思われる巨人を見上げる様に見た。


「これが本当に父上なのですか?あの姿やこの気配は…リィーズと言われてもおかしくはないですよね」

「確かにな」


 目の前に現れた巨人。

 いろんな物質で構成されている為、リィーズ的な分類で言えば、大型で人型でキメラ型のリィーズである。


 そのてんこ盛りにはベテランの魔導工兵でも逃げ出すレベル。


 しかし、それを今ホーリーヘッドにいる魔導工兵たちが相手をしなければならない。

 しかも、やれそうなのはクリフォードとエーリクだけ。



 クリフォードは小型通信機を取り出した。


『こちらクリフォード、街にいる巨人が見るか?』

『はい、見えます』

『一回大砲を撃ってくれ』

『見た感じではリィーズと思われますが…』

『構わないから、撃て』

『了解しました』


 通信先は船。

 それに乗る船員に大砲を撃つ様に伝える。


 船員は見える巨人がリィーズの見た目をしている為、効かないのではと聞いたのだが、クリフォードは撃つ様に強く指示した。



 その1分後、船から大砲が撃たれる。

 轟音と共に放たれる弾は巨人に直撃。


 爆発音とそれによる煙で巨人の上半身が見えなくなる。


 巨人は動き始めて、上半身が見える。


「ダメか」


 巨人には傷一つ付けられなかった。


『感謝する。そっちは街への砲撃を続けてくれ」

『了解しました』


 無意味だと分かり、引き続き街への砲撃をお願いする。


「ミック、サポートは任せる」

「は、はい」


 ミックは「無理なのでは」と思いながらも、自分よりも一回り多く経験しているクリフォードが無理だと思っているのは百も承知だろう。

 しかも、相手がディアンなら「無理」とは言ってられない。


「今から無茶をする」


『ソードオブライト』


 クリフォードは手を振り上げ、それと共に巨人の周りに光の剣が展開する。


 レイラ戦からずっと解除する事なく、姿だけを消していたのを再び使う。

 さらに追加で10本出現させていた。


(口から血が…)


 ミックはクリフォードの口から血が流れているのを確認し、言葉通りに無茶をしているのだと思った。

 だからこそ。


『ヒール』


 回復だけは必ずする。


 ミックはクリフォードに回復をする。

 その際に使ったのは使い慣れた『ヒール』。


 既に『レストア』がミックの魔導の主要能力として格上げされたものの、『ヒール』が使えなくなった訳ではない。

 ミックの魔導は《オーバーズヒール》から《レストレーション》に変化し、これは上位互換への変化であり、《レストレーション》の中に《オーバーズヒール》が含まれている状態である。


 その上で『ヒール』と『レストア』の違いは効果と射程距離。

 効果は前者が単純な回復能力で後者が『元に戻す』という回復能力。

 射程距離は『レストア』の方が狭い。


 能力としては『レストア』が上ではあるが、射程距離に難がある為、使い慣れているという点も含めて『ヒール』を使う。


「フッ、行ってくる」

「お気をつけて」


 クリフォードはひと笑いをして向かった。


 巨人は歩き始める。


 その巨人に全方位から光の剣を向かわせ、突き刺す。

 硬い体なのか、剣先しか入らないが、クリフォードにはそれで十分。


『エッジ』


 光の剣から刃が伸びる。


「グアァァァァ」


 クリフォードには深く剣を刺す必要はない。

 ただ、剣が刺されば良い。


「流石にキツい」


 ただでさえ光の剣を展開するのも厳しいのにさらに全ての光の剣から刃を生み出している。

 その負担は倍以上。


 だが、ここで防がなければ王国も公国も終わる。


「魔導もあるのか」


 巨人の体から光の剣が抜け落ちる。


「やはりディアンなのか。本当なら総長が居てくれた方が良かったんだが…」


 リィーズに傷を治す力がない訳ではないが、何かが刺されている状況で傷が治る事はない。


 だから、魔導を持つ…ディアンの魔導ならばそれが可能だとクリフォードは思った。


 その思った時、自分だけでは勝てない。

 総長が出張ってくる状況。


 だからと言って逃げる訳にもいかないのも分かっている。


(まだエーリクの方がマシなはずなのに。生き埋めなったのか)


 クリフォードは傷を付けて刃を伸ばし、内部にダメージを与えている。

 それを何十本単位で行う事で小さいダメージを大きくしている。

 それが数の力であり、目の前の存在にはあまり効果的ではない。


 対してエーリクは一回の攻撃で爆発力を発揮する。

 クリフォードの様な内部にダメージを与える事が出来ないものの、外から確実にダメージを与える。


 2人がもし1人で戦う場合、エーリクの方がまだ勝てる見込みがある。

 2人なら内外からの攻撃が出来るから、より確率が上がる。


 それなのに姿を見せないエーリクに巨人の出現で地下で生き埋めになってしまったのだろうかと思った。



 巨人はクリフォードに向けて拳を振る。


 クリフォードは向かってくる腕に光の剣を持っていき、360度から剣を突き刺す。


『エッジ』


 腕の中まで広がった刃は一部が繋がった状態で切断。

 腕の先はだらんとなり、クリフォードはまだ繋がっている一部を再度攻撃し、完全な切断を行う。


 腕は地面に落下する

 …と思われたが。


「ぐっ」


 肩側の腕が伸び、切り落とされた腕に繋がり、地面に落ちる事なくクリフォードに向かって殴ってきた。


 クリフォードはそれに反応出来ずに受ける。

 吹き飛んで建物の壁にぶつかる。


「クリフォードさん!」


 ミックはクリフォードに『ヒール』を継続的に行なっていた。

 それでもダメージの方が大きい。


「大丈夫だ」


 クリフォードの前には6本の光の剣が交差して盾の役割をしていた。

 それで多少ダメージを抑えたのだろう。


「エーリク!いつまで寝ているつもりだ!生き埋めで死ぬ様な魂ではないだろ!それともあれか、お前の北欧王国への想いはその程度なのか!」


 クリフォードは大声で啖呵を切る。


 それに応える様に地鳴りが鳴る。

 そして、地面を突き破り、水柱が上がる。

 その中にエーリク、メリッサ、コリーがいた。


「クリフォードさん、私がこちらに残っているのはそちらの都合ではないですか?」

「フフ、でも継ぐ者は現れたようだがな」

「そもそも貴方が継げば良い話を……。いえ、今はそんな事を話している場合ではありませんね。気絶していたのですが、少し早めに目覚める事が出来ました」

「気絶していたならしょうがない。今は私たちが相手をしなければならない。私たちが無理なら総長案件だ」

「見る限りでは総長案件ではありますが、今ここでは確かに私たちがするしかありませんね」


 クリフォードは地下から出ようと急いでいたのだが、階段を上がる手前で階段が崩れ始めてそれが降ってきた。


 そこで身を守る事を決め、メリッサとコリーの身を守る事を優先した事でクリフォードは落下物に当たって気絶。


 2人を優先に展開されていた大量の水で落下物との空間を作り出した。

 それにより完全な生き埋めにはならなかったものの、エーリクの気絶で水の展開は崩壊し、水は瓦礫の隙間を通って流れていき、水の隙間に瓦礫の隙間が狭まった。


 これですぐに死ぬという事なくなかったが、時間が掛かれば死もあり得る。


 そして、エーリクが最初に起きる必要がある。

 2人が洗脳に掛かっているからだ。


 まぁ結果的にクリフォードの啖呵で目覚める事が出来た。


「ミック、2人をお願いします」

「はい」


 エーリクが水で2人を運ぶ時、後ろに影が…。


「少し待っていて下さい」


 それは巨人の拳。


 それをエーリクは水の大王イカで止めた。


「2人は私の不手際で洗脳に掛かってしました。申し訳ないですが、解く事は出来ますか?」

「大丈夫です」

「お願いします」


 ミックは2人に『レストア』を掛ける。


「この程度なら……よし」


 どうにか洗脳を解けた様だ。


 洗脳に掛かってそんな時間掛かっていないし、ミリーほどの濃密な洗脳ではない為、解くは簡単であった。


「あとは離れて…」

「その心配はないですよ」

「レイラさん」


 レイラが歩いてきた。


「ミック、彼らに全力を注ぎ、ディアンを救って下さい」

「運んでくれるのか?」

「今は少しでも人が必要。私が参加すれば少し違う風に立ち回る事も出来るかもしれませんが、参加しないのはよくお分かりでしょう。なのでお願いしますよ、ディアンを」

「任せて下さい!」


 ミックは大きく返事をする。


 レイラは2人を運び、ここから離れる。


「これで勝率が上がった。行くぞ!」

「「はい!」」


 気合いが入った所で巨人は大王イカの拘束を解く。


【主神】『グロヴ・ヴォグ』


 エーリクを中心に広がる水。


「広がるまで稼いでやろう」


 その間、光の剣を操作して巨人の相手をするクリフォード。


「ミックにはこれを」

「これは通信機?」


 クリフォードはミックに小型通信機を渡す。


「今から言う事をウィロー隊、クリフ隊、デレック隊に伝えろ。それぞれ3、4、6番の番号に繋げろ」

「はい」


 ミックに伝えて欲しい内容は以下の通りである。


 ① エーリクがこの街を水で満たす事

 ② ①の影響はそちらには無効される事

 ③ 敵はディアンではあるが、参戦しない事

 ④ これからこの街全体で戦う事になる為、支部に集まって強固な防壁を作り、耐えて欲しい事

 ⑤ こちらが負けた場合にこちらが連絡もしくは敵が明らかに街の外を出ようとしているのを確認したら、総長に救援を求めると共に動ける者は敵の足止めを行なう事。


 大まかに5つ。

 細かく言えば生半可な実力では洗脳されてしまう可能性がある為、足止めするにしても戦う者を選ぶ必要がある。


 また、ミックがいるから洗脳を解く事は出来るけど、解除には射程の短い『レストア』を使う必要がある為、一々近付いて治す暇はない。


 つまり、今からディアンと戦うから、みんなは極力巻き込まれない様に防衛していて欲しいという事である。



 それを伝えた上でクリフォードはディアン(巨人)を抑えている。


 本当ならクリフォードとエーリクが2人で攻撃すれば倒す事は出来る。

 しかし、殺し切るとなれば難しいかもしれない。


 2人とも全力を出し切った上で殺し切ろうとしている。



「まだ…まだだ」


 ディアンを抑えるには傷を与えれば良いって事はない。

 傷を付けられた上で攻撃を可能とするディアンをさらに傷を付ける。


 防御に関しても【主神】だけでは防ぎきれないので、自分の意思で防御にも回している。


 巨大な分、その疲労は大きい。

 光の剣を動かす数は100を超える。

 出現する光の剣は150を超えた。


 その数は既に限界を超えていた。


 それを可能としていたのは自分の意志とミックの治療である。


 ディアンが水に手を振り下ろす。

 それにより水しぶきが舞い、波打つ。


 その水しぶきに拳が通り、クリフォードに向かう。


「この…程度…」


 少し視界を奪われた程度、どこから来るかなんてすぐに分かる。


 クリフォードは10本で水しぶきを切り、【主神】の10本が反応してディアンの腕を切る。


「クリフォードさん、右から来ます!」


 ミックが叫ぶ。


 ディアンが左足を足払いの様にしてクリフォードを蹴り掛かる。


 クリフォードはミックの声に反応して右を向く。

 既に目の前の攻撃に【主神】の自動防御が反応してしまっている為、右から来る攻撃には自分で防ぐ必要がある。


 咄嗟に持っていた光の剣で防御する。


 明らかに相手の方が力が強く、クリフォードが左腕を使える様になった所で変わりはしない。


 クリフォードは蹴り飛ばされ、近くの建物に激突。


「クリフォードさんの方に行って下さい」

「はい」


 ミックはエーリクに言われ、すぐにクリフォードの所に向かう。



 ディアンはエーリクを見た。


「少し遅れてしまいますが、仕方ありませんね」


 ディアンの腰辺りまで水を満たしてきたが、その勢いを抑え、攻撃にも割り振る。


『ユーブハーヴ』


 ディアンの上空から黒い水が落下。

 ディアンに降りかかる。


 上半身に一瞬の水圧を与えて、一瞬の膠着状態を引き起こし、その隙に地面に流れる水と共に黒い水が線状となって流れ、ディアンの下半身に絡み付く。


 締め付けによる圧力と黒い水(深海)の水圧の二重で動きを止める。


 これで上手くという事はなく、所々を意図的に切り離し、拘束から脱する。


 当然それを見越しているエーリクは下半身全てを包み込む。


 しかし、ディアンはその上を行く。


 上半身と下半身を切り離し、上半身が水に沈み行く中で右手を振り下ろす。


 水を切り裂いて行き、エーリクに落ちる。


 エーリクは一応余力があった。

 さらに水を満たす方の力もある。


 それでもこれは防ぎ切れない。

 例え、クリフォードの【主神】の自動防御があった所で変わりはしない。


 だからと言って何もしない訳にはいかない。

 余す力全てを防御に注ぐ。


「何が……」


 目上に迫っていた拳が真っ二つに割れ、エーリクの左右に落ちる。

 その先にいたのは血まみれのクリフォードだった。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫…ではないな。戦闘が出来るまでミックが回復してくれたが、完全に治った訳ではない」


 血まみれで状態が分からないが、少なくともそれだけのダメージを受けたのは確実。

 それを戦闘が出来るようにしたミックの力は強力と言える。



 そして、気になるのは…


「その左手に持つ剣は何でしょうか?」


 右手に持つ光の剣とは違う輝きを放つ剣を左手に持っていた。


「これは『ソードオブセイクリッド』。ミックがアガートラムを治してくれた事で使える様になった力だ」


 その剣…力は『ソードオブセイクリッド』。


 ・『ソードオブセイクリッド』

 通常の『ソードオブライト』の光の剣よりも性能が高く、ある一点の範囲が広がった。


「言わば聖剣の様な物だろう。今やっと使える様になったが、まだ使え熟せていない」


 アガートラムが治った事で使える様になった。

 治す前にあった『ソードオブダークネス』の様なモノだろうか。


 まぁ、すぐに使えなかった辺り、ミックの『レストア』とは違ったモノなのだろう。


「それで倒せる…いや、抑えれると思ってるのか?」


 突如聞こえた声。


「ディアンか」


 その声の主はディアン。

 目の焦点がちゃんと2人の方に向けていた。


「抑えるしかない。そして、倒すしかない」

「今まで苦戦していただろうに、今更新たな力を使える様になった所で何も変わらん。しかも、こっちは更に正気の状態にある。それで勝てるなんて思うな」


 状況はむしろ悪くなっているかもしれない。


「ここからが2回戦…いや、3回戦といこうか」


 そして、戦いは再開する。



 再開して早々にエーリクが水を満たす、クリフォードがディアンを抑えるという事が難しかった。


 それでもなお、まだ抑えられていた。

 時間が掛かるものの、聖剣を1本ずつ生成している。


 ただし、光の剣の方を消している訳ではないので、負担は増すばかり。


「そんな出して大丈夫か?幾ら攻撃した所で無意味でしかないがな」


 ディアンはそう言って嘲笑う。


「それにこっちはどうなんだろうな」

「こっちに干渉して来ましたか」

「これだけの量で何も出来ないと思ったか」


 エーリクが満たしていた水が毒々しい色へと変わっていく。


「そんな事させるか」


 クリフォードが聖剣の1本を飛ばす。


「毒を消すか。だが、進行速度はこちらの方が早い」


 聖剣は水の色を戻すが、ディアンの方が上。

 その領域はどんどん変わる。


 その変化を抑える意味でエーリクも深海に変えていた。


 これでこちらが一枚上手となり、そしてホーリーヘッド全域を水が満たした。

 それと同時に深海の領域も広げる。



 その時、ミックが何が気付き、空を見上げた。


「上を見て下さい!」


 この声に反応して2人も見上げる。


「気付いた所で止める事は出来ん」


 何処からともなく集まってくる瓦礫を中心とした複数の物が1つの球体へと固められていく。


 それを止めるべく2人がそれぞれで攻撃を行う。


 しかし、それよりも早く球体が完成し、ホーリーヘッドを丸ごと埋めるほどの大きさが落下し始めた。


「今から砕くから、その処理を頼む」

「分かりました」


 クリフォードは聖剣を先に、その後ろに光の剣を追従する形で大岩に向かわせる。


 聖剣は大岩に刺さり、その刺さった部分に光の剣を刺す。


『エッジ』


 光の剣から刃が生み出し、大岩にヒビが入る。


「足りないか」


 それでも大岩の上の方には届かなかった。


 クリフォードは泳ぎ、大岩に近付いて叩き切った。


 大岩はその衝撃で一部が壊れた。

 壊れた事で複数の岩が満たされた水に落下し、エーリクがそれを水圧で押し潰す。


「狙いは毒だ!」


 ディアンの声だったが、さっきまで聞いた声と少し違った。


「貴様、何故まだ出て来れる?」

「舐めるのも大概にすると良い。私は目の前にいるクリフォードとエーリクの2人と同格の存在であると」


 この声は本来のディアン。

 もう1人のディアンに人格を奪われても、表に出てこれる程の力はあった様だ。


「だからと言って私に出来る事は少ない。このホーリーヘッド内には幾つか仕掛けがしてある。それを魔導と合わせれば絶大な効果を生み出す」

「黙れ!引っ込んでろ!」

「黙ってたまるか!長い年月を待っていたのはこの日の為だ!そして、私の毒を解くのは私の自慢の息子、ミックだ!」


 その声に反応してディアンの方を注視するミック。


「ミック!お前の力を存分に使う為にクリフォードに託したんだ!もう治してくれたんだろ。なら、やる事は決まってる。やれ!」


 クリフォードのアガートラムが緑色に光る。


「エーリク!奴を止めろ!」

「はい!」

「何もかも蝕んでやる」


 エーリクはもう1人のディアンを止める為に水圧で押し潰す。


 しかし、もう1人のディアンは発動し、街の所々から毒が撒かれる。


「生まれた頃と変わりませんね。でも、何で嬉しいだろう」


 ミックはディアンの言葉に笑みを浮かべる。

 そして、発動する。


【導神】


『ラインホープフル』


 ミックの【導神】が最大効果を発揮。

 ミックとクリフォードのアガートラムが繋がる。


 さらにミックから根を張る様に広がっていく。

 その先にはレイラたちや支部にいるウィローたち。

 ホーリーヘッドにいる者たちの希望をミックとクリフォードが受け取る。


 各地から浮き出た毒がミックの癒しにより、浄化。

 しかし、毒の方も勢いを上げ、ミックの癒しを侵食して拮抗していた。


「負けてたまるか」


【主神】『ポイズン…』


「させるか!」


 もう1人のディアンが【主神】を発動しようとしたら、本来のディアンが止めに入る。


 外はエーリクが、中は本来のディアンが、毒はミックが、そして残るのは……。


「よし、このくらいでいいだろう」


 クリフォードは左手に持つ聖剣を天に掲げ、背後に100本の聖剣が浮かぶ。


「これで終わりだ」


 左手の聖剣を振り下ろして中段の位置に、それに反応して100本の聖剣がディアンの頭上に向かい、1本の巨大な剣を生み出す。


 そして、下段に振り下ろした。


『クラウ・ソラス』


 神話に伝わる聖剣を模した技。

 その効果は『エッジ』を同時に複数を起こす一振りである。


 巨大な剣は頭上に突き刺さる。

 巨大な剣から刃、さらに刃から刃へと繰り返し生み出されていく。

 それにより空いた隙間から光が出てくる。

 次第に巨大な体を包み込む程の大きさになって、弾けた。


 巨大な体は消え、何かが落ちていく。


 それをエーリクは大量の水を使って、減速しながら沈めていく。


 そこにクリフォードが受け止めて、地面に下ろした。

 下ろしたのは元の姿に戻ったディアンだった。


 クリフォードは警戒を解く事なく、目覚めるのを持つ。


 さらにエーリクとミックも側に来ると、ディアンは目を覚ました。


「空…とは言えぬか」


 目を覚ましたディアンの視界には青々しい空ではなく、エーリクが生み出した大量の水で深海状態の真っ暗な状態にあった。


 それでも気配は感じ取った様で。


「クリフォード、エーリク、後はミックだな」


 同年代の2人はまだ人格が表に出ていた頃に感じていたのとそんなに変わらなかった為すぐに分かったが、ミックはほぼほぼ人格が乗っ取られていた頃だったので曖昧に判断した。


「私の今の状態が表か裏を証明する事は出来ないが、拘束した状態でも構わないから今は話を聞いてくれ」

「エーリク」

「いつでも対処可能です」


 今はこの状態のまま、拘束か何かした時の備えを頼み、それをエーリクが担う。

 まだ大量の水は消していないので、水操作や深海の水圧を使える状態にしている。


 その上でディアンは話し始めた。


「今回の件、全て私に非がある。私の人格が2つになったのは西への警戒によって力を求めたからだ」


 自分に非があると認めながらもその原因となるのは西…アイルランド島にあると言うディアン。


「西に関しては七王国全体の…特にマーシア、ノーザンブリア、ウェセックスとウェールズの警戒する対象。それでも実際は1つの貴族が持ち、逐一報告する必要があった。しかし、それは仲を取り持つ役目も含まれる為、交流を行い、その一つとして政略結婚も行われた」


 これに関してはクリフォードも知っている。


 辺境伯という立場は隣国の監視や防衛を担い、独自の兵も持つ。

 それに加えてグレートブリテン島内の国々はほぼほぼ均等になっており、アイルランド島の存在はその均等を破る可能性があった。


 現状ではグレートブリテン島と同様に複数の国々が存在するが、統一国家となった時に七王国と同等かそれ以上の国力があると思われていた。


 それがグレートブリテン島の情勢やリィーズ関連、連合王国関連で大きな変化を防ぐ為に一貴族が担っている訳だが、実際のその裁量は各国もしくは一貴族次第である。


 ディアンたちの政略結婚にしたって、お互いの仲を良くする為であり、見方によって出し抜いたと思われてもいい行為。


 それでも七王国としての最終的な所はアイルランド島の統一にある。


「妻は…ミックの母親はそっちの出身で、そちらの国とはそれほど仲は悪くなった。まぁ亡くなった後は怪しいが、私自身も変化し始めていたから実際は分からない。ただし、向こうもこっちに目を向けるほど暇では無かったらしい」

「何があった?」

「詳しい事は分からないが、一部の国で無気力な状態の者が増えていたという」

「無気力な状態の者?毒が流されたのか?」

「その可能性があるかもしれないが、聞く話だと王族や貴族でも見られるらしい。だから、他の国がやったっていうのもあるが、私の予想ではリィーズが裏を引いているんじゃないかと思っている」


 何をするにしても「動き」というのが必ず起きる。


 もしアイルランド島に対して島外の国が接触を図れば、その際に「動き」が生まれる。

 それを悟られない為に秘密裏に行なっている訳だが、完全に消す事は難しく、逆にその「動き」を見つける事が出来る訳でもない。


 ディアンにはそう思う理由があった。


「実は島の西部には10年近く訪れた国はないらしい。まぁ当然西部の国が無くなった訳ではないが」


 この「10年近く訪れた国がいない」という点は外交でこちらからその国に訪れていないという事である。


 グレートブリテン島内の国はアイルランド島に接触する事はあまりない。

 これはリィーズや連合王国関係なく一国が接触した事を指摘される可能性があるから。


 他の国に関してはそもそも直接接触する事はない。

 何故ならグレートブリテン島の国々の監視があるからである。


 接触する際はグレートブリテン島の国々を通している。


 こうなった現状も理由がある。


「クリフォードやエーリクは知っているだろう。あちらから『こちらから接触、もしくは何かあれば一部の港町で乞う様に』と言われている事を」

「確かに」

「当時は大きかったものの、それも島同士の関係性もあっただろうが、それまで以上に関係が薄くなったのは本当の事だ」

「まぁまだその当時はマシだっただと思うが、その内情を知る者は少ない。その中に総長がいるかは分からないが」


 接触する機会が減り、その内情を知る者は減った。

 監視する立場にあった貴族や元々商売関係があった商人は港町までの情報しか知らず、そこから先は現地の人たち次第。

 ディアンはまだ知っている方だろう。


 ただし、連合王国…正しくは『魔導工兵』としては現地の魔導工兵管理を行う必要もある。

 実際は国々と同様に行き来出来ていないが、現地の者がこちらに来る事はある。


 クリフォードはマーシア王国管轄の本部長。

 エーリクは全本部・支部をまとめる総本部のナンバー2的立場にあるとはいえ、それを担うのは救援を求められた場合のみで、当然入島する事自体厳しく、それを望まない為に島内事情は知らない。


 知っていそうなのは連合王国の2トップ。

 政治側のトップは事情を知る機会はありそうだが、入島する事はなく、貴族や商人と同様に向こう次第でしかない。


 総長は魔導工兵を管理する立場にあるものの、ディアンが思っているのは総長という立場ではなく、エスラ・モナーク個人として何か知っているのではないかという事である。


「うっ」


 ディアンは呻き声を上げる。


「父上!」


 心配になって一歩踏み込んだものの、思い止まるミック。


「もうそろそろ時間はないか…」

「大分耐えるなと思ったら、そうか。ディアン、自分の力で少し延ばしてるな」

「はははぁ…」


 クリフォードは殺すつもりでやった。

 それなのに割と話せてる状態で保っていた。


 現状ディアンの身体がどうなっているかは分からないが、そう長くないなのは確かな様だ。


「それでもっと苦しくなってどうする?」

「何故って情報を話し、そして最期の家族との会話をする為だ」


 その為にディアンは毒を上乗せして延命措置をしている。


 これはハイリスクハイリターンではない。

 ハイリスクローリターンと言ってもいい。


 それでもディアンはこの時間を作った。


「なら、情報はいい。家族を優先しろ」

「助かる。情報はあってもほとんど憶測過ぎんからな」


 延命措置するにしても身体は限界がある。

 時間はあまりないだろうと判断したクリフォードは家族を優先させる。


「ミック、今は貴方だけが家族として言葉を交わせます」

「レイラか?」

「はい、主人様」

「今までミリーの事を感謝する。これからも頼む事になるが…」

「いえ、ご心配なく。これは私がしたい事なので」

「今回でレイラ自身の目的は達成されたか?」

「はい」

「良かった」


 レイラがミリーを抱えながら、こちらにやって来た。


 ディアンはレイラに感謝を述べる。


「ミック、これから先ディアン…貴方の父親は悪名として名を残す。だが、私は彼を友として心に残す」

「クリフォード…」

「彼は父親として判断するのが難しいのかもしれない。しかし、家族として心に刻めるのはミックだけだ」


 無理強いとも取れるが、ディアンが父親として失格だったかどうかは正直難しくはあるものの、彼なりに所々でやれる事はしており、何よりも息子を信じていた。


 それをミックがどう捉えるかはミック次第ではあるが、クリフォードは2人がどれだけ会話してきたを知らない。

 それでも数えられるくらいには少ないだろう。

 だから、会話できるこの機会を逃させる訳にはいかなかった。


「なんだったら文句でも言ったやれ」


 そう言ってクリフォードはミックの背中を押した。


 ディアンの側にミックが立つ。


 ディアンは自分から話しかける資格がないから、レイラとの話を終えてからずっと無言のままでいた。


 その場は静寂に包まれ、皆がミックが話しかけるのを待つ。



 大体1分くらいだろうか、ミックは握り拳をして発した。


「何が全て自分が悪いって!ミリーの事は任せた!?最後まで足掻いて下さいよ!親の責務を子に押し付けるな!」


 ミックは叫んだ。


 しかし、「でも」と一拍置き、握り拳を解く。


「足掻こうとしたけど、限度があった。母上に何も出来なかった。私たち兄妹には過酷な選択肢を与えてしまった。後悔という面において父上は私が思っている以上にあるのでしょう」


 無力感。

 それを感じていたディアン。

 そんな彼にやれる事はあまりにも少なかった。


「そんな状態でもやれる事を熟し、親として子を信じた。そのおかげで私は救われた。だから、お疲れ様です」


 ミックはディアンの手を取り、胸の上に置いてそれを発動した。


『レストア』


 ディアンの体が緑色に光る。

 これは体を治す為のモノではない。

 痛みをなくすモノで、看取る為のモノである。


 そして、ディアンの視界が見える様になる。


(感謝する、エーリク)


 エーリクが視界だけを見える様にした様だ。

 それにより皆の姿を直に見ることが出来た。


「立派に育って良かった。今度からは母さんと見守っているからな」

「はい、母上によろしくお伝え下さい」

「あぁ…」


 ディアン・メディシーア。

 家族と友に看取られながら、死を迎える。


 その空間にはミックの静かに泣く声しか無かった。



今回で決着。

最終的に3(+1)対1の構図でもう1人のディアンを倒した形となりました。


今回のそれぞれの補足。

エーリクは深海と【主神】を披露しましたが、どちらも元々持っていた力で成長した点はありません。現状で出せる引き出しを出した感じで、成長性は見せませんでした。そして、今回の件で変化がありますが、それは次回に。

クリフォードはミックにより『ソードオブセイクリッド』が使える様になりました。エーリクの深海の様に『ソードオブライト』の上位互換だと思って貰えれば。また『クラウソラス』は元々『セイクリッド』の呼び名にしようと思っていましたが、カタカナに呼び名を付けるのがなんか嫌になったので却下。その代わりに技として使用しました。

ミックは今回の章で1番成長しました。真の魔導に【導神】を獲得した訳ですが、今回の【導神】は煌夜の【導神】の『忿怒』に似た力ではあるものの、状況的に発動出来た感じなので頻繁に発動は出来ないと思います。

最後にディアンはこの章のボス。デメリットがあるとはいえ、第2章では強過ぎる敵だったかなと思いました。ディアンに勝つには今回の様な八方塞がりか力押しになると思います。因みに後者はエスラ総長が可能。ディアンの様なボスは多分今後出ないじゃないかと思い、ある意味特殊なボスになるかと。魔導に関してまた後日。


ここから今後の話について。

次回にエピローグ、その次にこの章で出た用語説明なり、用語説明はちょっと整理してから投稿する予定。

その後に関しては当初第3章に移行しようと思っていましたが、キャラ同士の仲の描写が少ない(他の作品でもあるが)。それを踏まえて一旦閑章として何話か挟もうと思います。無駄話になるかどうかはちょっと分からないけど、仲の深掘り様に入れます。因みに当然第2章と第3章の間になります。


次回はエピローグ。

戦争は終え、後処理が行われていく。

今回の件で各国が対応を追われる事となる。

その途中、総長はレイラを飛び出す。

次回、エピローグ。

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