光の差す朝に
アリーチェは、ふと眩しさを感じて瞼を開いた。
「っアリーチェ! 大丈夫か?」
「お兄様……」
彼女の目の前には、なんだか懐かしく感じる顔があった。
(さっきのは夢……?)
太陽のひかりが窓から差し込み、遠くから子鳥のさえずりが聞こえる。
ゆっくり起き上がろうとするアリーチェの背中をそっと支えるノアは、いつも縛っている髪を下ろしている。アリーチェは、寝起きで頭が回らないせいか、何気に見たことがないその姿に魅入ってしまう。
「どうした? どこか痛むのか?」
「い、いえ。ずっと寝ていたのでぼーっとしてしまうだけです。」
(お兄様に見惚れてたなんて言ったら、彼の方が倒れてしまうかもしれないものね……)
アリーチェを不思議そうにみていたノアは、後ろにあったイスに腰掛けた。
「ここはカルハイト王国の王宮だ。昨日、リアム殿下がお前を運んできた。……その時のことは詳しく聞いてある。」
「ええ。私は魔力切れで倒れてしまったのよね」
「……そのようだな。」
アリーチェは元騎士として落ち込んでいた。
(戦いの途中で倒れてしまうなんて。……鍛え治さないといけないわね)
「結局魔物は、リアム殿下たちが協力して倒したらしい。彼にはアリーチェを守れなかったことで物申そうと思ったが、陛下に既に色々言われた後らしく、かなり傷心の様子だったからやめておいた。」
「ふふ……。でも、みんなちゃんと帰って来れてよかったわ。」
そう言った瞬間、ノアの両腕が彼女の背中に回され、2人の距離が無くなった。
彼女の頬に、ノアの絹のようにさらりとした髪が触れる。
アリーチェはノアの表情が見えないが、布団とは違う温かさが心地よく、瞳を閉じた。
「よかった。」
耳元で紡がれた彼の言葉はいつもより低く響く。
「……はい」
彼女はなんと言っていいかわからず、とりあえず頷いて、ノアの背中に手を添えた。
「ちゃんと生きてるな。」
「生きてますよ?」
過保護なノアとの変わらないやりとりが、今はアリーチェをひどく安心させる。
(考えなければならない事はたくさんあるけれど、今はもう少し、お兄様に甘えていたいわ)
お互いそれから何も言わず、温もりを分かちあっていたが、しばらくするとノアが体を戻してアリーチェの顔を覗いた。
「食欲、あるか?」
「はい、お腹ペコペコです! この国に来てから何も食べてないから……」
ローラたちの家でスコーンが出されていたが、食べる前に小人たちに呼び出されてしまったのだった。
「そうか。じゃあ、朝食の準備を頼んでくる。」
そう立ち上がり、ドアの方へ向かうノア。いつも隙のないその背中が、アリーチェには少しやつれているようにみえた。
(ずっと付き添ってくれたのね)
「お兄様」
「なんだ?」
ドアノブに手をかけた彼が振り返る。
「ありがとう」
「……大事な家族だからな」
優しくほほえむ彼が、妹と言わない所に意地を感じながらも、アリーチェは胸がくすぐったくなった。
◇◇◇
朝食の時間。
「「「いただきます」」」
(さすが王宮の朝ごはん……これだけで3食分くらいありそう。)
ふわふわのオムレツに、搾りたてのオレンジジュース。ソーセージは、噛んだ途端にじゅわりと肉汁が口の中に広がった。
(おいしすぎる……)
彼女は一日分と言っていいほどの料理をしっかり食べきるほど、ご飯の味についてはとても満足していた。味については。
(どうして居るのかしら)
そう。朝食を食べに彼女がこの部屋に入ったら、当然のような顔をしてリアムが座っていたのだ。
まぁ、リアムとアリーチェは正式に婚約したことになっているのだから、おかしくもないのだが。
アリーチェが困っているのは、何かとリアムが自分に話しかけ、その度にノアが彼の方を睨むというやりとりだ。
「アリーチェ、うちのシェフが作る料理はどう?」
「はい。どの料理もとってもおいしいですね。」
「まぁうちの料理に引けを取らないな。」
「他国から連れてきたシェフだからね。公爵家に劣る訳が無い。」
「……あぁ、怖い。いつか不敬罪で訴えられてしまうわ」
(本当に、さっきのイケイケお兄様はどこへ……)
そんなことを考えながら、彼女は2人を見ないふりして、ジュースのおかわりを飲み干した。
◇◇◇
朝食の時、アリーチェは庭園で話がしたいと言われていた。
呼び出し主は他でもないリアムだ。その時のノアはアリーチェに、「嫌だったら断れ」と何度か言っていた。断ったら不敬だ。
使用人に案内されて来た庭園は、純白のガゼボを中心に花が咲き乱れていた。もちろん、規模は大きめの公園くらいある。
ガゼボの所まで行くと、使用人が『お送りするのはここまでと殿下に仰つかっておりますので』と帰ってしまった。
使用人にお礼を言ったアリーチェは、先に来ていたリアムに声をかける。
「お待たせして、申し訳ありません」
リアムは、ガゼボに置かれたイスに座って紅茶を飲んでいた。テーブルにはティーセットが置かれていて、アリーチェの好みを知ってか、スコーンも置かれている。
護衛のような格好をした騎士が2、3人離れたところから見守るだけで、ガゼボの中にはアリーチェとリアムのふたりきりだ。
「大丈夫だよ。呼び出したのも、昨日のことについて詫びておきたいという、僕の勝手なお願いだしね。」
彼が座るように促してきたので、アリーチェは「失礼します」と言って彼の向かいに腰かけた。
「そんな、お忙しいでしょうし、昨日は私が勝手に着いて行っただけで殿下は悪くないですから。」
「ああ、僕は全然忙しくないよ? まぁそれはいいや。とにかく、昨日は色々巻き込んでしまって本当にすまなかった。」
そう言って、リアムは頭を下げた。
「あ、頭を上げてください!」
そう言われたリアムは、数秒してからゆっくりと体を起こした。
「王族が頭を下げるなんて、自分の主張を通すチャンスだよ。何か言わなくていいの?」
「えぇ……特にないですね……あ、言わない方が無礼かしら……?」
アリーチェが正解を探っていると、向かいから笑い声が聞こえてきた。そちらを見ると、リアムがくすくすと笑っていた。
「……君はいい人だよね。君の兄が大事にしているのもわかる。」
「そうですか……?」
アリーチェはリアムにそんな風に言われて、拍子抜けしてしまう。
昨日の再開ではあんなに冷たかった視線が、今は好意に溢れている。不思議な話だ。
「僕が昔、城の庭園で遊んでいた時、双子の妖精が遊びに来ていたのにたまたま出くわしたんだ。それでそのまま仲良くなって、定期的に、こっそりあの家に行くようになっていた。」
「そうだったのですね……。」
アリーチェは、本題は謝罪ではないのだろうと思って、そのまま耳を傾けることにした。
リアムは紅茶を一口飲んで、つづける。
「知っているかもしれないが、あの森が国境になったのは、200年前の戦争の後からで、元々アメーゼルはカルハイト王国の1部だった。」
「知ってます。……王族の内部分裂が原因でしたよね。」
(戦争の原因は、第1王子派閥と第2王子派閥に別れ、争うばかりで国の発展が全くなかった現状に対しての、民衆の不満。)
「そうだ。そしてその状況は、今の王国に酷似している」
「……それが、私となんの関係があるのでしょうか。」
リアムは音を立てずにカップをテーブルに置き、息を吐く。
「君は、200年前の剣士ウィルフレッドと何か関係があるんじゃない?」
「え――」
アリーチェは、言葉を失った。
気がついたらノアがいちゃついてた。
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