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4年ぶりの

アメーゼル帝国をなぜかアメーゼル皇国にしてたので、今までの話の該当箇所を直しました。直ってない場所があったらすみません。

「あぁ、もうわたしダメかもしれない」


 珍しく朝から弱音を吐くアリーチェは、自室の机で1冊の本に向き合っている。本というか、数学の参考書だが。


「マイナス2がマイナス4個あったら、プラス8なの……? どういうこと……?」


 アリーチェは約3年前、15歳の頃から、家庭教師に歴史や数学、魔法を学ぶようになっていた。ちなみに、今彼女は18歳だ。

 

 そんな彼女は、数ある分野の中で数学が一番苦手だ。

 もちろん家庭教師は凄腕の人を雇っていたが、アリーチェの頭は数学に全く向いてないらしく、家庭教師の方が泣きそうだった。


(次に教師さんが来てくれるまでに理解しておきたかったのに……もう無理)


 アリーチェは参考書を閉じ、机につっ伏す。


(歴史なら得意なんだけど……)


 アリーチェは過去の歴史の一部をその目で見てきている。得意というか、記憶として元から知っているからできるのだ。


(ウィルフレッドの名前が歴史の参考書に書いてあった時は、心臓が止まるかと思ったわ……)


 歴史の教科書によると、ウィルフレッドは今からおよそ200年前にいた人物らしい。

 

 もちろん、彼は戦争の首謀者と明記されていた。


(こうなると、歴史なんてあまり当てにならないって思っちゃうわね)


 アリーチェがそんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえる。


「アリーチェ様、お部屋に入らせていただいてもよろしいですか?」

「どうぞ。」


 かちゃりとドアを開けてきたのは、栗色のミディアムヘアーを持つメイドだ。


 彼女はカミラといい、アリーチェがこちらへ養子に来た日から、アリーチェの身支度などを担当している。



 ちなみにアリーチェを忌避する言動は、ノアによって厳しく、いや、とてつもなく厳しく取り締まられている。そのため、アリーチェの暮らしは安寧が保たれている。


 カミラももちろん、アリーチェが屋敷にきた日から彼女と共に過ごしているため、アリーチェに対する負の感情はない。

 

「アリーチェ様、そろそろお出かけの身支度をさせていただきたいのですが。」

「もうそんな時間なのね。」

「今日は気合を入れたいので」


 

 アリーチェは今日、ノアと共に午後からの外出予定がある。

 向かうのは隣のカルハイト王国で、数十時間かけて馬車で行く。着くのは明日の朝だ。


「そうね、久しぶりに王子様にお会いするんだもの」

「ええ、正式には初めてですからね。」


王子が15歳になって魔法契約がしっかりできるようになったため、アリーチェは仮契約を本契約に変えてもらいにいくのだ。


(彼に会うのは、わたしが前世の記憶を思い出した日以来なのね……)


 

 王子とはあまりうまくやれなかった為、アリーチェは謁見に不安を覚えている。

 王子との童話のような結婚を夢みてきたアリーチェにとって、これ以上彼に嫌われることは絶望に他ならない。

 彼女は普通、そんなに悲観的にはならないが、先程の数学のせいか現在はネガティブになりがちである。


(ううん……ノア様とも楽しくおしゃべりできるようになったんだもの。きっと何とかなるわ!)


 拳を突き上げて自分を鼓舞するアリーチェは、カミラに不審げな目で見られていることに気が付かなかった。



 ◇◇◇



「ううー、どんな感じて話せばいいのかしら……」


 カミラによって美しい気品のある令嬢の格好をしたアリーチェは、カルハイトの王宮にある大きな扉の前で、今にも泣きそうな顔をしている。

 いざ王子や国王と会うとなると、前世で何度か謁見の経験があるアリーチェといえど、緊張してしまうのだ。


 もちろん、アリーチェがこれほどまで嫌がっているのは、以前リアムがアリーチェに敵意むき出しだったせいなのだが。


「大丈夫だ。私が補助する。」

「お兄様……」


 先程から……というか、馬車に乗る時からずっとノアはアリーチェの隣にいる。


「距離感を掴むまでは私に頼ってもらって構わない。というか、掴んでもずっと頼っても……」

「ありがとうございます! そうですよね! 初めての謁見だもの……距離感を見定めれば大丈夫ですね!」

「あ、あぁ……」


 ノアは、自分が言いたいことがそんなに伝わっていないが、納得した様子のアリーチェに水を差すようなことは言えなかった。



「……それでは、これより正式な謁見と、リアム殿下とアリーチェ様の本契約を行っていただきます。」


 アリーチェの準備ができるのを待っていてくれた城の兵士がそう言い、ドアを開けた。



 中には金色のシャンデリアや、真っ白で複雑な模様が彫り込まれた柱がある。さらに真っ赤な絨毯が敷かれており、持ち主の権力が痛いほど身に染みる。

 

 その部屋には、中央にある玉座に腰掛ける白い髭を生やした国王と、その隣に立つリアムがいた。

 

 アリーチェとノアは彼の近くで跪き、頭を下げる。


「ノア・ブランシェット、アリーチェ・ブランシェット。今日はよくぞ来た。」


 そう国王が言うと、アリーチェたちはより深々と頭を下げる。


「今日は、アリーチェの本契約を行う。早速だが、アリーチェ、こちらへ。」

「はい。」


 アリーチェが立ち上がりながらチラリとノアの方を見ると、彼は頑張れ、と励ますように頷いた。



 リアムの近くに行くと、彼の容姿がよく見える。

 

 (あの時とは別人のようだわ。)

 

 前に会った時からおよそ4年。

 リアムは、たくましさや凛々しさが増していた。


「今から魔法契約を行う。」


 リアムが言う。相変わらず温かさがないその声は低くなっており、しんとした部屋に重く響く。


「はい。よろしくお願いします」


 書物の記録をする人や、王族の護衛、国の要人など、たくさんの立会人が見守る中で契約は行われる。


 淡い青色の光がリアムの手から放たれ、アリーチェの体を包んだ。


「アリーチェ・ブランシェット。我が国のためにその力を捧げると誓うか。」


 その声にアリーチェは跪き、応える。

 

「はい。わたしは貴国への忠誠と、この力を捧げることを誓います。」


 お互いに指定された文句を言うと、アリーチェを包んでいた光が彼女の首元に集まり、王家の紋章をかたどったアザになった。


「契約を完了とする。」


 そうリアムが言うと、国王が頷き、口を開く。

「よくやった。……あぁ、要人も集まっておるし、ついでに婚約も済ませておくか。今はまだ口約束だからな」


(え? 聞いてないわ)


 アリーチェは口からでかかった言葉を必死に押えたが、表情から言いたいことは丸見えであった。


 この国で婚約の際に行われるもの。


 信頼し合えるものとしか出来ないそれは……。


「さぁ、誓のキスをしたまえ、2人とも。」

「え?」


 アリーチェは声を抑えられなかった。

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