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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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鎌ちゃんの休日

旅籠でゆっくりする鎌ちゃん。

旅籠の庭に咲く赤い花を、ただただ見ていた。


お雪にあげたあのサザンカはどうなっただろう。

少しは大きくなっただろうか。


ここに来た時の事を少し思い出して、鎌ちゃんは遠くまで歩いたあの頃を思う、


幼いながらにどうしても許せなかった。父のことも、井伊家のお殿様のことも。そして、母上のことを思い慕っていた自分が情けなくもあった。


あれから自分も人に頼りながらではあるけれど、生きている。いつか自分も誰かから頼られるような立派な人になれたなら。


縁側に座り、何か考え事をしているのか、鎌ちゃんは寒くないのかそこに静かに座っている。


夕霧は、鏡山親方と熱燗を飲んでいたが、酔いを冷ますのに丁度いいと、鎌ちゃんのいる縁側まででてきて聞いた。


鎌ちゃん!何考えてたの?


鎌ちゃんは振り返ると、夕霧に、


やっぱりこの庭は好きだなぁって見てました。


そっか。


それはそうと、この旅籠、えらく流行ってますね。


そうなのよ。私の目に狂いはなかったわ。実はね、中居さんを2人雇ったの。そしたらお客さんが増えちゃったの!


あー、あの出迎えてくれた人ですか?


そうなの。もう1人いるの。この人がまた凄いの!


何が凄いんです?


オッパイが大きいの!


そ、それは凄い!


あ、鎌ちゃん、うちの鎌ちゃん見た?


は?


あのね、鎌ちゃんがいなくなった後、買ったのよ。ラクダの親戚なんだけど。鎌ちゃんが居なくて寂し過ぎて付けちゃったのよ。鎌ちゃんって。


ラクダの親戚?


そうなの!フワフワでかわいいの!なのに毎日一緒に仕入れに行って、荷物を全部運んでくれるのよ。


じゃあ明日、私も付いていきますね。そしたら鎌ちゃんにも会えますね。


じゃあ一緒に行こうか。


何かお雪にもお祝いしてやらなきゃな。夕霧さん、何がいいですかね。


そうねー。髷なんかいいんじゃない?奥さんになったら結い直すからね。


そうなんですね。じゃあ、それ買お。春になったらお雪は奥方様。なんだかまだ想像が出来ないです。相手が伊助さんでしょ?よくは知らないけれど父上の1番の家来で元は忍者だったとか。今はお民に命を狙われてるって。


大変よね、お雪ちゃんも。せっかく幸せになろうとしているのにね。


お雪には幸せが似合う人になってほしいんです。母上の命と引き換えに生まれたから。


鎌ちゃんもその時、まだたったの2才だもんね。


でも私の部屋には母上の絵があって、ずっと見守られて育ちました。絵だけど、私には母上そのものでした。


そうだったのね。鎌ちゃん、やっと話してくれたね。


私には、ここがお家で、夕霧さんも道蔵さんも、大切な家族ですから。


そうだよ。鎌ちゃん!いつでも帰ってきていいからね。ここが鎌ちゃんのお家だよ!


じゃあもう湯本家には帰りません。


鎌ちゃんはそう言うとハハハと笑った。


夕霧はそんな鎌ちゃんが少し無理をしているのではないかと気が気ではなかったのだった。








家族だと言ったその切ない鎌ちゃんの胸のうちを知るのは。

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