お雪の決意
兄を思うお雪の決断
青空の広がる空に、少し暗い色の雲が流れた。
その雲はだんだんと分厚くなって、やがて太陽の光を隠してしまった。辺りは急に少し寒くなって、空から冷たい雨が降りだした。
パラパラと雨音が聞こえた。それはだんだん大きくなり、ザーッと降りだした。
母上、今まで私は兄上からも、父上からも愛されて育てて頂きました。そしてこれからは、伊助がずっと居てくれるでしょう。
今なら母上を兄上のもとへ送り出せます。母上と離れてしまうのは寂しいけれど、この家から離れて1人、懸命に生きる兄上のことを思うとなんだか泣きそうになるのです。
きっと兄上は、自分がいまこの家に戻っても皆、戸惑ってしまうだろうと思ったのでしょう。兄上は昔からそう。いつも自分のことよりも私や家来たちのことを気にかける。
母上に似て優しい人ですものね。
お雪、あなたも優しい良い子よ。2人とも、とっても良い子よ。
そんな母の声が聞こえてくるようで、お雪は母の絵をニコニコと眺めていた。
お雪、入ってもよろしいですか?
言ってるそばから戸を開けて伊助が心配そうに覗いている。
この母上の絵を兄上に差し上げようと思うの。
お雪はそれでいいの?寂しくなるんじゃないか?
これからは伊助がずっと居てくれるなら、寂しくはありません。それに夫婦になったら家族が増えるでしょ?
伊助は黙って頷くと、ではこの襖の母上様を掛け軸へと仕立て直してもらうよう、私が手配しておきますね。
母上様に会いたい時は兄上様のところへ見せてもらいに行きましょうね。お雪。
はい。伊助、ありがとう。
お殿様に言わなくてもいいの?
父上には私から伝えておきます。
では今から行ってきますね。
でも外は凄い雨よ。
伊助はそう言うお雪の手を取り包み込む。
今日は暖かいですね。良かった。そうですねぇ。では明日にしましょう。
伊助の笑った顔はお雪にも伝染した。
2人は少しの間、そうして時を過ごしていたのだった。
人を思うことは常に優しい。




