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旅立ちの時  作者: 美藤蓮花
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計画

夕霧が変なことを思いつく。

今年の梅雨は長く続きそうね。


夕霧は、朝からずっと降り続く雨を見ながら呟いた。


そうじゃな。長雨じゃな。


ヤソさんがここへ来て1年が過ぎたけど、話し方、変わらないわね。


そうじゃな。変わらぬな。


あ、そういえば、お昼に手紙が届いたんだったわ。ヤソさん、ごめんなさい、ちょっと頭上げてもらってもいい?


えぇ?


わざとらしく嫌そうな顔をしている八十五郎の顔を見て夕霧は嬉しそうに笑って手紙を取りに行って戻ってきた。


座り直した夕霧は、自分の膝をポンポンと叩いて八十五郎を呼んだ。八十五郎は当たり前のようにまた夕霧の膝の上に頭を乗せた。


夕霧は手紙を開いて読みだした。


誰からの手紙なのじゃ?


鎌ちゃんよ?


鎌ちゃん?ワシの息子の聡太郎からか。


起き上がろうとした頭を夕霧は優しく静止した。慌てて起き上がろうとした八十五郎は、思い直してまた夕霧の膝の上に頭を置いた。


ワシは死んだんじゃ。


1年前にそう言ったお殿様を、夕霧は迎え入れた。その時からもう、お殿様は死んだのだ。今はただのヤソさん。夕霧の 亭主のヤソさんなのだ。


夕霧?


ん?


なんて書いてある?


近いうちにここへ来るって。その時はよろしくお願いしますって。鎌ちゃん、今度は4人でくるって。


人数が多い上に大きいから部屋がないと困るものね。去年は私を驚かそうと思って連絡してこなかったのよ。で、泊まるところが無くて道蔵の部屋に泊まったの。


今なら部屋はガランとしているのになぁ。


そうね。時期的に梅雨だもんね。あー、鎌ちゃんに会うの楽しみだわ。


ワシも楽しみじゃ。


ヤソさんは鎌ちゃんに会っちゃダメ!


なんで!


だって死んじゃったじゃない!


じゃあワシはどうしたらいい!ワシは死んだけど生きておる!


、、、。そうね。会いたいわよね。当然よね。そうだ、あたし、今、とても良い事を考えついちゃったわよ。


あの馬がいるってことはお殿様も居るとみんな思うでしょ?


ちょっと待て、ワシの馬がなぜここにおるのかの説明がわからんぞ。


だから、あの馬はお殿様の魂がここへ連れてきたって事にして、お殿様は幽霊として鎌ちゃんと会えばいいのよ。


そんな、上手くいくかのう?


鎌ちゃんよ?お殿様の息子よ?大丈夫!みんなお殿様が生きている事を知っているけど、知らないのは鎌ちゃんとお雪ちゃんのところでしょ?


みんなにはお殿様が見えてないことにすれば大丈夫よ。きっと。ヤソさん鎌ちゃんに会いたいんでしょ?


会いたい。


じゃあ決まりね!


道蔵とお里ちゃんにも協力してもらわなくちゃだわね。


ワシはこのままでいいのか?


そうねぇ、白い着物がいいわね。あと、髪は落ち武者風にしてと。


茶店のおばちゃんにも言っとかないとだわ。


鏡山親方にも手紙を出さねばじゃな。


あ、ヤソさん乗り気になってきたわね。


ワシは次はお化けにならなくてはじゃな。


ヤソさんになってから、お殿様はこの1年をただ毎日生きていた。傷は癒えていったが、心はどうしてもまだ癒えない。


我が子が自分より先に逝ってしまうというのは、やはり辛い。しかし、今は夕霧がいなくなることを考えただけでこんなにも辛い。いつも側にいるのにその人を失うことを考えてしまう。


もう離れないでいつも側にいたい。あの世に行く時でさえ一緒がいい。


八十五郎が選んだのは夕霧と暮らす人生だった。





夕霧と一緒ならあとはどうでもいい。でもどうでも良くはなかった。

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