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一話 伊藤ほのかの挑戦 落ちてきた男編 その四

「さあ、いきますの」

「よろしくお願いします、ほのかさん」


 納得いかない。

 あれだけアピールして、先輩達にフォローしてもらった結果がこれなの?

 橘先輩は私を選んでくれた。くれたけど、サポート役として同じ一年の黒井麗子さんと上春(うえはる)(さき)さんをつけるのが条件だった。

 要は私のお目付け役。


 黒井麗子さん。

 黒髪の下方ツインテで、御堂先輩と同じくツリ目。年齢より大人びた雰囲気を持つ女の子。


 上春咲さん。サッキーって私は呼んでいる。

 フェアリーボブの少し大きいぱっちりとした目をしている。

 身長が百五十くらいのマスコットみたいな可愛くて素直で優しい、風紀委員で数少ない常識人。


 一人で任せてくれなかったことが大いに不満だ。先輩達も納得しちゃたから文句も言えなかった。

 私一人で大丈夫なのに。


「いつまでむくれてますの? 早くいきますわよ」

「そうですよ。楽しくいきましょうよ」


 二人が呆れたような顔をしている。

 だって、しょうがないじゃん。子供扱いなんだもん。わたしゃ近所のガキかってっの。あ~腹が立つ!

 こうなったら一人で、意地でも一人で解決してみせるんだから!

 私はさりげなく二人から離れようと(こころ)みる。


「でも~、二人はよかったの? 他の仕事があるんじゃない?」

「まあ、ありますけど、橘風紀委員長直々の指名ですし、お断りできませんわ」

「私も大丈夫ですから気にしないでください」


 ううっ、ダメだ一人になれない。二人から離れることはできなさそうだよ。


「私一人でも大丈夫なのに」

「でも、男の人が空から降ってきたんですよ? 危ないじゃないですか」


 心配してくれるサッキーを安心させる為、私は笑顔で断言した。


「大丈夫! この件に関してはそんなに危険はないよ」

「なぜ、そう言い切れるますの?」

「私のカン!」

「何の説得力もありませんわね。あてになるのやら」


 カッチーン!


 黒井さんは肩をすくめて、私をバカにした態度にイラッときた。


「私のカンはね、知識と経験からきてるの! 絵本から六法全書(ろっぽうぜんしょ)までありとあらゆる本を読破した、この文学少女に間違いはありませんの、お分かり?」

「さっぱりですわ」


 おのれ~。絶対、目に物見せてやる!


「楽しみにしていますわ。返り討ちにあっても恨まないでくださいまし」

「な、何で私の心の声が分かったの? エスパーなの?」

「顔に書いてありますわ。さっさといきますわよ」


 先に歩き出す黒井さんを、私は慌てて追い抜く。

 これでは誰がこの件のリーダーか分からない。仕方ない。確実にこの件を解決して信頼を得よう。

 ふいに、二人の足音が止まる。二人の前に何かあるのだろうか?


「どうしたの、黒井さん? 忘れ物?」

「違いますわ。何か聞こえませんこと?」


 ん? そう言われてみると……何か聞こえる。

 なんだろう? 女の子の声が沢山聞こえる気がするんだけど。


「どうしますの?」

「え、私が決めるの?」

「今はあなたがリーダーですの。指示を」


 どうしよう? やることはあるけど、でも、気になってしまう。


「ほのかさん、確認してみたらどうかな? この件はそんなに急ぎじゃないし」


 そうだよね。サッキーの言葉で次の行動が決まった。確認しにいこう。


「声の正体を確認しましょう。何か問題があるかもしれない」

「はい」

「ですわね」


 気のせいか二人の笑みが優しい気がする。

 まっ、いいか。今は謎の騒音(そうおん)を確認しなきゃ。

 私達は騒がしい場所がする校門へ向かっていた。近づくにつれ、騒がしくなっているのでこっちで間違いない。校門に何かある。


「この先が騒がしいね」

「何かあるのかな?」

「分かりかねますわね。油断なさらぬよう」


 ごくり。


 私は角を曲がり、校門にたどり着いた。

 そこには。


「きゃああああああああああ、伊集院様~」

「こっち見てぇええええええ、伊集院様~」


 な、何あれ!

 お、女の子がそこいらにあふれかえっていて、神輿(みこし)があって、その上に人がいて……。

 黒井さんもサッキーもこの光景に唖然(あぜん)としている。

 い、いけない! こ、こんな時こそ、私がしっかりしないと!

 もう一度、状況を冷静に確認してみる。


 校門の両サイドに女の子が並んでいて、うちわを手に黄色い声をあげている。うちわには『ピースして!』、『口ちょうだい!』、『伊』と書かれているけど、じゃんけんのグーは何なの? サザ○さん?

 道の真ん中には女の子達が神輿(みこし)(かつ)いでいて、その神輿の真ん中に一人の男の子が椅子に座っている。

 何コレ?


「伊集院!」

「伊集院!」

「伊集院!」

「伊集院!」


 凄いお祭り騒ぎだ。伊集院コールが鳴りやまない。

 天神祭ギャルみこしかっ! と思わずツッコミたくなる。

 あれ? あの神輿担いでいるの……。


「くるみ?」

「ほのか」


 押水先輩の件で知り合った、彼のことが好きだった女の子の一人。友達になったけど、彼と対立してしまい、疎遠(そえん)になっていた。

 こんなかたちで出会えるとは思ってもいなかった。

 私達は見つめ合う。



 くるみ……新しい恋、みつけたんだね。

 うん……ほのか、ごめんね。

 謝ることないよ、お幸せに。

 ありがとう。



 アイコンタクトで私達は分かり合えた。少し心が軽くなった気がする。


「試合、楽しみにしてますわ!」

「青島なんて、目じゃありませんわよ!」

「負けないで、伊集院君!」


 ここ、青島(ホーム)なのに凄い言われよう。青島の制服着ている子いるけど、自分の高校をデスっていいの?

 伊集院君が神輿から立ち上がる。


 パチーン!


「無敗の俺様に、敵はいねえ」

「きゃああああああああああああああああ!」


 伊集院様が立ち上がり、ジャケットを脱ぎ捨て、決め台詞をはなつ。あまりの格好良(かっこうよ)さに失神(しっしん)する女の子が続出した。

 そのせいで神輿を担いでいた女の子も失神し、伊集院様が神輿から転がり落ちた。しかも、頭から。


 プッ! ククククククッ……。

 何コレ、コント?

 場が一気に和やかな雰囲気になったのは気のせいじゃないよね?

 黒井さんが硬直(こうちょく)から回復し、ぽろっと本音が出た。


「なんて、茶番(ちゃばん)ですの……」


 デジャブを感じるのは気のせいじゃないよね。それはもう先輩がやりましたよ、黒井さん。

 だから、言ってやったね。


「いえいえ、アカデミー賞にノミネートされますよ。ベタすぎ」

「喜劇じゃないですか!」


 ナイスツッコミ、サッキー!

 思わずサムズアップしたくなるところだったよ。


「とにかく、この馬鹿騒ぎを止めますわよ、上春」

「はい!」


 ちょっと! 私を無視しないで!

 私は慌てて二人の後を追う。前を走る黒井さんとサッキーの前に女の子達が立ちふさがった。


「なんですの? あなたたちは?」

「あなたこそ何なの? 伊集院様に何か用?」


 黒井さんは腕章(わんしょう)を相手に見えるように引っ張る。


「風紀委員ですの。この騒ぎについて聞きたいことがありますの。どいてくださる?」

「そうはいかないわ! そんなこと言って、伊集院様にお近づきになるんでしょ!」

「抜け駆けは許せないわ!」


 あらら。

 恋する乙女のパワーには、流石の黒井さんも太刀打(たちう)ちできないか。怖いもの知らずだもんね。人数が多い分、あちらが有利。ここは引くしかない。


「黒井さん、サッキー! こっちこっち!」

「な、なんですの、伊藤さん」


 私は二人の制服の(そで)を引っ張って、この場から離れる。女の子達がいない場所まで避難(ひなん)した。

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