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八話 俺達は絶対に負けない その四

 四番バッター、強。

 国八馬と強のガチ勝負だ。

 ノーアウト、満塁。ファーボールでも一点は確実にとれる。

 頼むぞ、強。

 不安と期待で落ち着かない。太股をカリカリとかいてしまう。


「やっと、決着をつけられそうだな、クソガキ!」

「俺が勝つ」


 強はバットを空へと向ける。ホームラン予告だ。

 国八馬はクチャクチャとガムを噛み、余裕の笑みを浮かべている。

 どっちだ? どっちが勝つ?

 頼む、強。打てなくてもいい。アウトでもいい。無事にベンチに帰ってきてくれ。


「死ねぇええええええ!」


 国八馬の第一球目が強のメットに襲いかかる。

 強は体を背けるだけで国八馬のボールを避けた。


「ボール!」


 はあ……心臓に悪い……めまいがする。

 島田が倒れた光景が脳裏によぎる。怪我で苦しむ倉永の姿を思いだし、吐き気がとまらない。

 国八馬の第二球目もしつこいくらいにメットに向かって襲いかかる。

 これも強は顔色一つ変えずに最低限の動きで躱す。


「ボール!」


 時刻は十六時を越え、肌寒いくらいなのに、汗が出てきた。

 一球、一球国八馬が投げる度に寿命が縮まりそうになる。

 国八馬は全力で第三球を投げた。

 スピードの乗った球が強のメット目掛けて飛んでくる。

 強は少し体がぐらついたが、それでも躱した。


「ボール!」


 緊張でボールしかいえない。

 あと、一球だ。あと一球でこの息苦しい雰囲気から解放……いや、国八馬はストライクを投げて、プレッシャーを与えるつもりだ。

 そうなると、後三球もあるかよ……くそ……。


「おい、偉そうにホームラン予告しておいて打たねえのか? それとも、俺がストレートを投げるのを待っているのか? バ~カぁ! お前には絶対にストレートなんて投げねえよ!」


 コイツ……。

 国八馬の挑発に、強は特に変わった様子はない。

 このまま、ファーボールで済ませるのか、強? 俺はそれでもいいのだが……。


「構わない」

「ああぁ?」

「俺達は誰も傷つけず、正々堂々と胸を張って勝つ。お前のようなクズには絶対に負けない。野球は人を傷つけるスポーツじゃないんだ。ふざけているなら、さっさとグラウンドを降りろ!」


 か、格好いいじゃねえか、強。

 俺は不覚にも感動していた。

 強達は何をされても国八馬に報復はしないだろう。

 剛の先ほどの行動も、相手を傷つけていない。暴力でのやり返しではないのだ。

 揺るがない信念を感じた。


 それに対し、人を傷つける野球しかしない国八馬はなんと矮小なことか。

 器の大きさがしれたな、国八馬。

 一塁からパチパチパチと拍手が聞こえてきた。剛だ。

 おーおー煽るなぁ、アイツ。

 小学生に説教され、国八馬はただ黙っていた。何も言い返してこない。


 集中しろ、強。くるぞ。

 国八馬は大きく振りかぶり……投げた。

 な、なんだ、あのやる気のない球は……。

 国八馬は全く力を込めずにボールを投げた。ひょろひょろとボールはキャッチャーのミット目掛けてギリギリ届きそうな勢いで進んでいく。

 強はボールを見据え、フルスイングした。


 いった!


 ボールは高く上がっていく。

 これなら、二人……いや、三人はホームに帰せる!

 ボールに勢いがなかったが、それでも、強はバットの芯で叩いているので、かなり飛んでいる。

 遠くにあるボールを見つめていた国八馬が大声で怒鳴った。


「棚出!」


 な、なんだ? 何を企んでやがる?


「よし!」


 佐原が帰ってきて一点。

 ボールはライトスタンドまで飛んでいったが、そこでバウンドした。もう少し球速があれば、ホームランだった。

 ライトの棚田がボールを掴み……。


「なっ!」


 は、速い!

 あっという間にライトからセカンド、ピッチャーへとボールが送球される。

 ピッチャーだと?

 なぜだ? セカンドからキャッチャーに投げれば、雅に間に合っていたのに。

 雅は間に合わないと思い、一か八かのスライディングをしたが、国八馬はボールをキャッチャーに投げていないので……。


「えっ?」


 雅がホームインして二点目。

 雅自身、なぜ、間に合ったのか不思議に思っているのだろう。

 その理由はすぐに分かることになる。

 国八馬がボールを投げたのは……。


「痛ぁ!」


 剛だ。国八馬は剛の足に向かってホールを投げたのだ。

 ボールを当てられ、剛は足がもつれ、倒れた。

 国八馬はボールを拾い、マウントポジションで剛の上に陣取る。

 国八馬は右手でボールを掴み、そのまま右手を振り上げた。

 まさか……。


「死ねや! くそぼけぇがぁああああああああああ!」

「ちょ! 待て! がぁ!」


 剛は悲鳴を上げた。

 殴りやがった! アイツ! 剛を何度も何度もボールを握ったまま、殴ってやがる。


「くにやまぁああああああああああああああああああ!」


 もう、我慢の限界だった。

 こんなもの、野球じゃねえ! ただの私刑リンチだ!

 止めに入ろうとしたとき、チャフが俺の前に立ち塞がる。


「どけ!」

「どかしてみろよ」


 俺は拳を握り、チャフをぶん殴ろうとした。試合なんて知るか! 全員、叩きのめしてやる!


「強君!」


 俺の意識がチャフから強に変わる。

 奏の叫び声に、俺は強を見ると、強は青島西中のファーストに足を踏まれ、動けずにいた。

 左近は淋代に足止めされ、動けない。


「強!」


 俺が強に気をとられている間にチャフは俺にヘッドロックを決めてきた。


「こ、この……」


 咄嗟に指を挟んだが、後ろをとられているため、力が入らない。

 このままだと、完全にキメられる。そしたら、おとされてしまう。


「く、くにやま……」


 国八馬は立ち上がり、大の字に伸びている剛に背を向け、強の方へ歩いて行く。

 俺達のベンチは青島西中の連中に囲まれ、御堂達は動けない。


 やめろ……強に手を出すな……。


 チャフの腕が俺の首を締め付けていく。このままだと、マジでおちる……。


 くそっ……強……逃げてくれ。


 俺の願いを踏みにじるように国八馬は手を血に染め、強の前に立つ。

 逃げろ……強……強……。


「おい、さっきは好き勝手言ってくれたじゃねえか。クズだぁ? 正々堂々だぁ? 笑わせる」


 国八馬はゆっくりとボールを握ったまま、手を引く。

 くそ! 頼む! やめてくれ!


「野球なんて暇つぶしのゲームだろ? マジでやってるとか、引くわ。プロにでもなる気か?」

「……なる。俺はプロの野球選手になる」


 強……誰か……誰か……強を助けてくれ……頼む……神様……強を……強を……。


「なれねえよ。今からお前は俺に、そのくだらない夢を潰されるんだからな」


 つよ……。

 強は殴られた。思いっきり、容赦なく、ボールを握ったまま、殴り飛ばされた。何度も殴られている。

 国八馬は笑いながら強を殴っている。

 俺の手から力が抜け、チャフの腕が完全に首を絞めた。もう、逃げられない。

 俺の中から音が……光が……消えた……。


 なぜだ……なぜ……こんなことになった……。

 どこで間違えた? なにがダメだった?

 強はなぜ殴られた? どうして、俺は強を守れなかった。

 約束したのに……それなのに……。


 強が地面に押さえつけられている。

 国八馬が強を見下し、足を上げる。

 ああっ……アイツ、強の手をスパイクで踏んで、選手生命を絶つ気か?


「やめてください!」


 上春?

 なぜ、上春がここにいる? どうして、泣いている?

 上春が強を押さえつけているファーストの野郎を必死にどけようとするが、逆に押し飛ばされた。

 しかも、上春に手を出そうとしている。


 コイツら……鬼だ。

 バカだな……俺は……どうして……どうして……公平に審判をするとか、そんなバカなことを考えていたのだろう。


 コイツらはアイツらと同じ……。

 ソウダアイツラトオナジダ。


 どくん……どくん……どくん……。


 生きていてはいけないヤツらなんだ。

 ソウダイキテイテハイケナイガイチュウダ。


 どくん、どくん、どくん、どくん、どくん、どくん。


 強はただ、両親に会いたくて野球を続けていたのに。

 ヤツラハフミニジッタ。


 どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん!


 プロ野球選手になって……活躍して……両親に気づいて欲しかっただけなのに……。

 ケンジヲウバッタヨウニアイツラモタイセツナモノヲウバウゾ。


 どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん! どくん!


 だったら、どうすればいい?

 アノトキノヨウニハイジョシロ。


 どくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくんどくん!


 そうだ、アイツらを……。


 コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!

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