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八話 俺達は絶対に負けない その一

「試合再開!」


 俺はやけくそ気味に叫んだ。

 ツーアウト、一塁。

 バッターは四番のチャフ。

 コイツは見るからに強打者だ。打たれたら、それだけで一点とられそうだ。


 どうする、強、剛。


 強はちらっと国八馬を見て、盗塁の警戒をする。ランナーがいるので、ワインドアップができない。

 思い切って投げることが出来ないから、球の速度が落ちる。

 不味いな……。

 それでも、強はノーワインドアップで投げてきたが……。


「!」


 国八馬が走った! 盗塁か!

 だが、一塁ベースからリードもなしで間に合うとは思えない。

 案の定、剛はすぐさま反応し、ボールを二塁へ投げようとするが……。


「待て!」


 俺はつい、剛の腕を握って、送球を止めた。

 国八馬がこっちを見て、ニヤッと笑ったからだ。

 国八馬は俺が送球を止めたのを見て、悠々と二塁まで進んだ。

 剛が俺に文句を言ってくる。


「何するんだよ、あんちゃん!」

「アイツ……またスライディングするつもりだった」


 くそが! これだと、塁に出られたら、盗塁し放題じゃないか!

 国八馬は絶対に誘っている。そして、何度でもスライディングをして、選手を傷つける。

 ただでさえ、実力はあちらが上なのに、これはかなり痛いハンデになる。


「あんちゃん……気持ちは分かるけど、審判がキャッチャーの邪魔をしたらダメじゃん」

「……すまん」


 剛だけなく、淋代も左近も呆れている。

 おい、左近。お前は俺の仲間だろうが!


「おい。今度ふざけた真似したら、審判交代させるからな」


 チャフが何かほざいているが、俺は無視することにした。

 キツイ……このままだと、絶対に負ける。コイツら、真面目に野球をする気がない。

 迂闊だった。なんとしても、試合を受けるんじゃなかった……。


 俺が後悔している間にも強は第二球放った。

 またもや、国八馬は二塁ベースからリードすることもなく盗塁する。

 剛もそれは分かっているようで、大きく外すよう指示し、ボールを立った状態でキャッチする。

 そして、三塁へ投げようとした。


 バカ! 三塁に投げたら国八馬の思うつぼだ。

 アイツは挟みうちになっても、迷わずスライディングを仕掛けてくる。

 このままだと、全員が病院送りだ。

 剛はボールを三塁に投げようとしたが。


「くそっ!」


 バッターボックスにいたチャフが邪魔で、強は送球が出来ない。チャフがわざと投げるコースに位置取り、邪魔をしているのだ。

 剛がポジションを変更している間に、国八馬は三塁に到着してしまった。

 すぐに送球できなかったのは、チャフの巨体とまだ背格好が低い小学生の剛だからこそ起こる現象だ。


 コイツら……本当にこざかしい。

 ただ、今のプレイは一つのテクニックでもある。それに送球を防いでくれたので、皮肉にもサードの雅は救われた。

 もちろん、感謝するつもりは毛頭ない。


「おい、剛。なんで送球しようとした? 分かってるのか?」

「……うっさいな……盗塁されないよう送球するのが当たり前だろ? バカじゃないの?」

「てめえ……」

「なんだよ、ヒステリック。少しは黙って見てろ。あまり過保護だと、強に嫌われるぞ」


 こ、このガキ!

 強は俺を無視し、強にボールを返す。誰がヒステリックだ。

 強をちらっと見ると、強は怒っていた。

 うっ……俺のこと、怒っているのか? だが、俺は強の事を思ってだな……。


 視線をそらすと、今度は左近と目が合った。

 左近はやれやれと言いたげに首を横に振っている。ここには俺の味方がいないのか?


 ツーアウト三塁。ワンストライクワンボール。

 国八馬はどうするつもりだ?

 お構いなしに仕掛けてくるか? それとも……。


「んん?」


 なんだ? 強のヤツ、何をしているんだ?

 強はじっと国八馬を見つめている。睨みつけているのではなく、ただじっと見つめているだけ。

 何がしたいんだ?

 国八馬も始めは受け流していたが、段々いらついていた。


「おい! 俺に文句でもあるのか!」

「……三振に打ち取るから」

「なんだと?」


 強はそう宣言すると……。


「お、おい……」


 俺はつい声を漏らした。

 強がワインドアップしているからだ。

 両腕を大きく振りかぶっているのは、もう盗塁の心配をしていないからだろう。強は剛を信じている。

 きっと、国八馬がホームに突っこんできても、止められると信じているのだろう。

 強は大きく足を上げ、力強く踏み出し、ボールを投げた。

 速い!


 パン!


「……す、ストライクツー!」


 なんだ、今のは……。

 今まで見たなかで一番速い。

 今の、何キロでてたんだ? 百二十は出てなかったか?

 確かに強の球速は百十台だ。百二十がたまたま出る可能性もあるかもしれない。

 けれど、偶然じゃない。俺はそう直感した。

 強の球速は上がっている。


 強はまたゆっくりとマインドアップし……投げた。


 カン!


 ボールは三塁にいた国八馬のすぐ横を通りぬけ、ファールとなった。

 速い……やはり、百二十は出ている。

 国八馬は忌々しげに強を睨みつけていた。

 チャフはバットを構え直す。その顔には余裕があった。

 今のはスイングが速かったので三塁へ飛んでいった。今度は調整してくるだろう。


 百二十では……打たれる。


 それでも、強は臆していない。

 静かに、激しく闘志を燃やしている。

 強……頑張れ……。

 ゆっくりとマインドアップし、足を上げ……思いっきり踏み込んで、体全体でボールを放った。

 渾身の一球!

 チェフも焦ることなく、フルスイングで強のボールを叩きつけようとした。

 結果は……。


 パアアアン!


 ボールは真っ直ぐに剛のミットにおさまった。

 場が静まりかえる。近くで見ていた俺でさえ、声が出なかった。

 チェフはバットを振り切っている。

 ボールはミットにある。

 ならば、俺がするべきことは……。


「ストラ~~~~~~~~イク! バッターアウトぉおおおおおおおおお!」


 俺は思わず、大声で叫んでいた。ざまあみやがれ!

 強、お前、すげえぞ!

 信じられない! ピンチになれば本領を発揮するとか、どこかのヒーローか、お前は!


 ははっ、笑いしか出てこねえ。それに目の錯覚だな、あれは。

 今の球速は百三十を超えていた。小学生の出せる球速ではない。きっと、見間違いだ。

 強はニコリとも笑わず、さも当然のようにクールにマウンドから去って行く。みんなは(ヒーロー)に大はしゃぎで声を掛けていた。


 国八馬は不機嫌丸出しな顔で塁を蹴っていた。そして、残虐な笑みで強を見下している。

 コイツ、まだ何かやる気なのか?

 注意しておかないと……。

 俺は気合いを入れ直し、マスクを調整した。




 一回裏。リトルブルーの攻撃。

 なんとしても、この回で得点が欲しいな。

 いつ、強の球がつかまるか分からない以上、点を取っておいて、ピッチャーの負担を軽減しておきたい。

 一番バッターは倉永だったが、怪我で退場したため、島田がバッターボックスに入る。


 ピッチャーは国八馬。キャッチャーはチェフ。

 先ほど投球練習を見たが、やはり速い。軽く百二十は出ている。

 公式戦で百三十は出していたから、かなりのピッチャーだ。


 ただ、注意するべき点はそこじゃない。絶対に危険球を投げてくることだ。

 俺は島田に気をつけるよう注意を促すことにした。


「島田。デットボールには気をつけろよ」

「分かってるって! ほら、メットも二重にしてるからな!」


 島田は頭に二つのメットを被っていることをアピールしてきた。


「頭は大丈夫でも、体は無防備だから絶対に気をつけろよ」

「大丈夫だって! 心配しすぎ!」


 本当に分かっているのだろうか? もし、島田の身に何かあったら、大変なことになるんだぞ。


「おい、てめえ! いつまでおしゃべりしてやがる! さっさとコールしろ!」


 国八馬が忌々(いまいま)しげに怒鳴ってくる。

 てめえがラフプレイするからだろうが!

 しかし、これ以上おしゃべりしていても仕方ない。始めるか。


 俺はコールし、試合が再開される。

 国八馬はロジンバッグを手になじませ、ボールを握る。

 第一球は何でくる?


 強に対抗してストレートか?

 それとも、危険球を投げて、牽制か?

 もしくは、いきなり体に当ててくるか?


 流石にメットを狙うことはないだろう。

 二重にしていることをアピールしているし、何度も国八馬に聞こえるようにデットボールに注意しろと言っておいたからな。

 国八馬は強と同じくマインドアップしてから左足を上げ、体を丸めてタメをつくり、スナップを効かせ、腰の回転、軸足の重心を左足に乗せ、投げた。


 第一球目は……。

 大きな破裂音がして、ボールが宙に舞う。

 メットは砕け散り、バッターの島田は後ろに倒れた。


「島田!」


 俺は島田の状態を確認する。一枚目のメットは割れていたが、二枚目のメットはヒビが入った程度だった。

 だが、島田はぼおっとしていて、焦点があっていない。ヤバい、脳震盪(のうしんとう)だ。


「あ~、悪かったな。デットボールだからよ、さっさと一塁へいけや」

「くにやまぁああああああああああああああ!」


 俺は完全に頭にきていた。

 なんだ、その言い草は! わざとぶつけておいて、しかも、頭を狙うとか、正気なのか、てめえは!

 もう、無理だ。このアホをボコって退場させてやる。

 俺が国八馬に向かおうとしたとき、肩を掴む者がいた。チャフだ。


「どこにいく?」

「ああん? 国八馬のクソ野郎のところに決まってるだろうが! 退場だ、退場!」


 俺は国八馬を殴りにいこうとするが、チャフの指が俺の肩に食い込む。

 野郎……。


「今すぐ離せ」

「お前こそ、ちゃんと審判をしろ。今のはただの投球ミスだ」


 投球ミスだと? ふざけるなぁあああああ!

 ロジンバッグを使っておいて、ミスだと?

 上等だ! その喧嘩、てめえの命で買ってやる!


「正道、落ち着きなよ」

「落ち着いてられっか! アイツ、わざと頭にぶつけたんだぞ! 死ぬかもしれない危険球だ! 即刻退場に決まってるだろうが! 病院送りにしてやる!」

「無理だから。風紀委員が野球の試合で私刑(リンチ)しちゃあ不味いでしょ? それに相手がミスしたって言い張っているし、わざとやったという証拠もない。退場かどうかなんて、また多数決で不可になるに決まっているでしょ?」


 俺は思いっきり左近を睨みつけるが、左近は無駄だと言いたげに見つめてくる。


「おいおい、落ち着けよ、藤堂せんぱ~い。たかが一球でギャーギャーヒステリックな保護者のように叫ぶなよ~。大人げないぜ」


 このカス野郎!

 俺は即刻、アイツをぶん殴ってやろうとしたが、チャフと左近に止められる。

 おい、左近! てめえもいい加減、アイツらの肩をもつのはやめろ!


「どうしても試合をやめてほしいなら……土下座しろ」


 どこまでムカつく野郎なんだ、国八馬は!

 だが、どうする?

 これ以上は流石に見逃せない。

 俺一人の頭で怪我人が出なくて済むのなら、土下座するしかない。

 業腹だが、コイツらの責任者として、強を信吾さんから預かっている身として、やるべきことをやらないと。

 いつか、やり返すチャンスはあるだろう。だから、今は……今だけは……我慢しろ……。

 俺は土下座をすることを決めたとき。


「あんちゃん、絶対にやめて」


 いつの間にか強が俺の隣に立っていた。剛達は島田を介抱してくれている。

 強は一言しか言わないが、それでも、目が語っている。


 俺のことが信じられないのかと。負けると思っているのかと。


 そんなことは思っていない。いるはずもない。

 だけどな、強。もう、無理だ。

 自分が傷つくのは我慢できる。だが、強が、ブルーリトルのみんなが傷つくのを黙ってみることなんて出来ない。

 小学生が不良の喧嘩に巻き込まれることなど、あってはならないのだ。


 けど、強に言っても理解してもらえないんだろうな……。

 俺よりも強達の方が腸が煮えくりかえっているもんな……仲間を傷つけられたもんな。

 本音はやらせてあげたい。戦わせたい。

 でも、安全のため、とめるべきだ。

 止めないといけない……。


「あんちゃん、俺達が必ず勝つから。親善試合のときのように、今度は俺があんちゃんのように頑張ってみせるから」

「……」

「俺達は絶対に負けない」


 俺はもう、何も言えなかった。

 情けない兄貴だ。偉そうに何度も強に説教したのは、なぜだ? 強の安全のためだ。

 強を縛り付けようとしたのは、なぜだ? 強を護る為だ。

 でも、強が本気で頑張ろうとしていることを……約束を守っている強をこれ以上、押さえつけようとするなんて無理だ。


 俺のように頑張りたいだと? 俺は反面教師だ。

 自分が気に入らないことに異を唱え、周りに合わせることが出来ない半端者だ。

 そんな俺に憧れるとか、俺のようになりたいとか、おかしいだろ?


 ああっ、そう思いつつも、涙が出るほど嬉しいのは、なぜなんだろうな。

 心の中がごちゃごちゃでうまく感情がまとまらない。

 強、信じていいんだな? 俺はお前の兄貴だから、何があっても信じるぞ。


「おい、藤堂! 土下座はどうしたんだ! こら! それとも、分かっていないのか? 試合に出場する選手がいなくなれば、自動的にお前達の負けだってな。誰もこのグラウンドから無事に帰さねえぞ~? お前が坊主になって土下座するまではな!」

「……」


 俺は殺意を飲み込み、国八馬に背を向け、戻る。国八馬が何かほざいているが、関係ない。

 頼むぞ、強! 俺の勝手な期待に応えてくれ。

 あのクソ野郎に勝ってくれ、強!

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