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四話 自慢させてくれよな その四

 こ、このガキ! 朝乃宮の名前を呼び捨てにしつつ、抱きついてきたぞ! これが若さかっ!

 俺でも無理だ……いや、朝乃宮を知るヤツなら絶対にしない。

 流石は剛。名前の通り剛の者だ。

 朝乃宮は……おおっ、顔が引きつってる。しかも、買い物袋を落としやがった。

 卵、買ってないよな?


「この変態坊主! さっさと離れなさい!」


 雅は剛を引っ張るが、剛は朝乃宮の体に張り付いたまま、一ミリも動かない。今日日(きょうび)のガキだってあそこまでしがみつかないぞ。

 なんだ? 朝乃宮の顔が真っ青になっている。普通なら木刀でしばき倒すのに、朝乃宮は全く動けずにいた。

 剛は雅に引っ張られ、イヤイヤと顔を横に振るが、ただ胸に顔を埋めたいだけだろう。

 このクソガキ、女性に抱きつくのが許されるのは三歳児までだぞ。


 朝乃宮が視線で俺に助けを求めてきた。マジで困っているのか?

 事態は俺が想像しているよりも悪いみたいだ。

 ならば……。


「おい」


 俺は剛の坊主頭を鷲掴みにして力を込めた。


「痛ぁたたたたたたたたたたたたたたたたた!」


 UFOキャッチャーの要領で俺は剛を持ち上げ、朝乃宮から遠ざける。ただ、アームは掴んだものを握りつぶすほどの強さがあるけどな。

 剛は俺の手をタップするが、もちろん、離すわけがない。

 俺は適当なところで手を離し、朝乃宮の前に立つ。


「な、何しやがる! この灰色の細胞が潰れたら、人類の多大な損害なんだぞ!」

「安心しろ。誰も悲しまん。それと、人様の家族に手を出すな。ぶっ飛ばすぞ」

「ああん? やってみろ! 愛の戦士、伊藤剛が相手になるぞ、こら!」


 愛の戦士だと? 宇宙戦艦なんとかかお前は。

 ちょっと、格好いいと思っちまったじゃねえか。普通、言えないぞ、そんな恥ずかしいこと。

 それを何の躊躇もなく十一歳で言えるのがすげえよ。

 俺が十一歳の時、女子に興味がなかったか、話かけるのが気恥ずかしいと思っていたのだが、最近のガキはすすんでるな。

 とりあえず、剛の顔面をアイアンクローで持ち上げ、黙らせた。ガキだろうが売られた喧嘩を買うのが俺の流儀だ。


「朝乃宮、大丈夫か?」

「……問題ありません」


 朝乃宮の顔が真っ青だ。顔をそらしているが、なぜだ? 

 それに汗をかいてないか? さっきまでは涼しい顔……というか、寒い日に汗が出てくるとか、もしかして、体調が悪くなったのか?

 だが、俺と話していたときは特に元気だった。なぜだ?

 朝乃宮そばに置いていた荷物を拾い上げようとしたとき、朝乃宮が俺から離れるように後ろに下がったが……。


「危ない!」


 朝乃宮が体勢を崩し、倒れそうになるのを俺は剛から手を離してから、抱き留めて倒れるのを防いだ。

 朝乃宮をなんとか抱き留めることに成功し、ほっとする。


 ありえない。


 あの朝乃宮が何もないところでバランスを崩して尻餅をつきそうになるなんて、マジでやばいのか?

 毎朝俺をしばき倒している朝乃宮にあるまじきことだ。


「おい、朝乃宮! 大丈夫か!」


 朝乃宮は俺をじっと見つめている。呆けているといったほうがいいのか?

 ただじっとぽかんと口を開けていた。


 さて、どうする?

 体調が悪いなら、おんぶをして運ぶ必要がある。荷物は強に持ってもらって、さっさと帰るか。

 こうして朝乃宮に触れてみると気づかされるが、女子って本当に華奢だな。

 ボディービルダーの女性も筋肉はあっても、細いのだろうか?


 そんなどうでもいいことを考えつつ、軽いのなら運送に問題ないと確信し、俺は念の為、もう一度、朝乃宮に呼びかけようとしたが。


「「「……」」」


 俺と朝乃宮をガキ共がじっと見つめている。

 本当にどうでもいいが、俺を見て、楽しいか? まさか、顔に何かついてるとか?

 なぜか目をキラキラとさせている雅が興奮しながら俺達に言い寄った。


「もしかして、お二人は付き合っているんですか!」


 付き合う? 俺と朝乃宮が?

 それこそ、ありえない。

 勘違いしそうになるが、俺と朝乃宮は敵同士だった。朝乃宮は知らんが、俺にとって朝乃宮はやはり、危険人物だ。

 もちろん、朝乃宮は根性もあるし、礼儀正しいし、情が深い。今の朝乃宮は安定していて、女性としては魅力的なのだろう。


 けど、それでも、やはり、朝乃宮にたたき込まれた傷跡を思い出すだけで、心の中に苦いものがこみ上げてくる。

 コイツは強いくせに、暴力で誰彼かまわずたたきのめしてきた。それが許せなくて何度も挑んだが、全て敗北した。

 俺はどれだけ、朝乃宮に散々苦しめられたかを語りたかったが……。


「うおっ!」


 ドンっと朝乃宮に突き飛ばされるが、押し飛ばされたのは俺ではなく、朝乃宮だ。それなりに鍛えているからな。

 朝乃宮は頬を赤く染め、ぷいっと顔をそらした。

 その姿に、俺まで耳が赤くなってくる。よくよく考えると、馴れ馴れしく女子を抱きしめるとか、ありえないよな。


 俺は押水か?

 そう思った瞬間、恥ずかしさよりもテンションが下がった。今でもヤツは俺の反面教師だ。

 俺は荷物を拾い上げ、雅の質問に答えた。


「家族だって言っただろ?」

「それって夫婦ってことですか?」


 奏がいらん追い打ちをかけてくる。コイツ、本当に根が腐ってやがる。

 俺が何度も朝乃宮って単語を連呼して知っているくせに。

 せっかく、朝乃宮が気遣ってくれたのに、俺が台無しにしたな。けど、剛も雅も気づいていないようだ。

 俺がどう答えようかため息交じりで考えていると。


「ありえねえ~~~! 美女と野獣じゃねえんだぞ! 絶対にありえない! 千春は俺のモノだ!」


 この坊主頭、どこからそんな自信がわいてくるんだ?

 さりげなく朝乃宮に抱きつこうとしたので、俺は剛の後ろ襟を掴み、阻止した。

 朝乃宮を見ると、まだ頬を膨らませているが、足取りはしっかりしている。一応、確認しておくか。


「朝乃宮、大丈夫か?」

「……」

「朝乃宮?」

「……問題ありません」


 上目遣いで睨んでくるが、問題なさそうだ。俺達にラブコメは似合わない。

 俺は買い物袋を確認する。


「……卵、少し割れてるな。けど、これくらいなら、今日中に料理すれば問題ないか。卵かけご飯にして、信吾さんに出しておこう」

「……酷いお人やね」


 朝乃宮は呆れたように苦笑している。

 仕方ないだろ? 少しだけ割れているのは一個だけだ。

 他は無事なのだから、無理して使う必要はない。


「強、この坊主が朝乃宮に近寄らないようガードしてくれ」

「……うん」


 嫌々だな、おい。

 俺は悪いな、と強に謝罪し、歩き出す。

 剛には強だけでなく、雅も加わって口げんかを始めていた。その姿が、友達とじゃれあっているように見えて、心が和む。

 少年野球か……少し調べてみるか。


「ねえ、あれって何だろう?」


 雅の声に、俺は思考を止め、前を見ると二人の男女がいた。

 女性の方は金髪の背の高い女性で、外国人だ。着ている服や雰囲気から年は俺よりも上といったところか。

 眉がしっかりあって、角度もあり、目鼻立ちがはっきりした綺麗な女性だ。

 そのお相手は……またお前か、武蔵野……。

 案の定、女性が一方的に武蔵野を責めている。


「You always say so, but you have never kept my promises!」

「Rest assured.I will keep my promise with you from now on.Will you go to the movies with me next Sunday?」

「Well…whatever」

「OH……I’m sorry, I have a prior appointment」

「Promise? With whom?」

「Ahh……Agne……Grandma?」

「Agnes? Were you going to date another woman?」

「Oh shoot!」

「You suck!」


 パチン!


「ouch!」


 おおぅ……。

 腕をしならせたビンタがモロに武蔵野の頬にクリティカルヒットした。

 武蔵野はたたらを踏み、頬を押さえている。

 女性はプリプリと怒りながら、去って行った。

 武蔵野は待って~っと情けない声を出しながら追いかけていく。おい、追いかけるのかよ。

 鋼の意志をしてるな、アイツは。


「何あれ?」

「なんか、金髪のねーちゃんが怒ってたけど、修羅場か!」

「……嬉しそうね、剛」

「人の不幸の味は格別だからな」


 最低だ、コイツ。


「お兄さんはあの会話の内容、分かりますか?」


 奏に尋ねられ、俺は……。


「さあな。むさ……男が約束をすっぽかしてばかりだから、女性がキレた。お詫びに男がデートに誘って、女性が渋々OKした。だが、男は別の女性との約束があったのを思い出してそれをうっかり口にしてしまい、女性がキレてビンタされたってわけだな」

「最悪……」


 雅は一言で斬り捨て、俺と朝乃宮、奏は苦笑していた。


「どうでもいいことに時間を費やしてしまったな。帰るか」


 俺は朝乃宮と肩を並べ、帰路につく。

 強が友達に囲まれている姿を見ているとなんでだろうな……目頭が熱くなる。

 寒風に身が縮まるが、心は暖かった。

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