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三話 対決! 伊藤ほのか VS 押水一郎 挫折と嘘 その六

「リィイイイーチィイイイ! ふふ、逃がしませんよ」


 伊藤が指を鳴らす。

 この急展開に、頭がついていかない。押水に突っかかるあの女子はいったい……。

 あっ、そうか! あれが……。


「あれが助っ人か?」

「そうです!」


 伊藤は満面の笑みを浮かべている。小躍(こおど)りでもしそうな勢いだ。


「この日の為に橘先輩が雇ってくれた演劇部エース、三年の園田(そのだ)千秋先輩です。彼女が刺客であることに誰も気付いていませんね。ふふっ、女子から告白された事実(きば)を防いだところで、刺客の尋問(つめ)に斬られるのが運命……隙の生じない二段構えこそ今回の作戦の(かなめ)です。青島の夜明けは近いぜよ。押水幕府は終わりを告げ、維新が完遂される。そのとき私は総理大臣になれるのです。伊藤なだけに」

「嫌な幕末だな」


 何の歴史も重みもないな。しかも、ちゃっかり総理大臣になろうとしているところがあつかましい。


「結果良ければ全て良しです。さてさて、彼はどんな弁解をしてくれるんでしょう? 彼を擁護(ようご)してくれる人はいますかね?」


 擁護するヤツだと? あんな野郎を援護するヤツなど、いるわけ……。

 伊藤の言葉で思いだした。いるじゃないか、押水の守護神(あね)が!


「生徒会長が来たらどうする?」

「それも無問題(モーマンタイ)です! 足止めは橘先輩が引き受けてくれました」


 コイツ、あじなマネを……。

 伊藤はわざと俺に押水姉の名前を出させ、不安にさせてから対策していたことを話すとは。意地が悪い。

 だが、完璧だ。この作戦はうまくいくと確信した。胸の高鳴りが抑えられない。顔がほころんでしまう。


「いけそうか?」

「いけます! 見てください!」


 この喜びをかみしめていたいが、押水が何か言いかけたので、様子を見ることにした。




「ぼ、僕の彼女じゃあないが、秋庭先輩の友情のためにも今は誰からの告白も受けない。それだけだ」


 押水の言葉に園田先輩が疑問をぶつける。


「それは先輩達がそう言ったの? 嘘を言っても本人に確認すれば分かるのよ」

「い、言ってないけど」

「それなら、あなたの独断よね?」


 園田の意見に、押水は必死に否定の言葉を探す。


「ち、違う! 当事者として言ってるんだ! 秋葉先輩の事をよく知っているのは僕だから。今は彼女達をそっとしてほしい」

「じゃあ、いつならいいの? まさか、一生ダメなんて言わないよね?」

「そ、それは……落ち着くまでだ」

「落ち着くっていつ?」


 園田先輩の追及がしつこいので押水はキレた。


「し、しつこいぞ! 秋庭先輩達の友情を壊す気か?」

「あなたこそ、秋庭先輩のことを真剣に好きな人の気持ちを踏みにじるの? 私は応援したいの、本気だって知っているから。あなたとは違うのよ」


 園田先輩の睨みに、押水は押し黙る。園田先輩はそのまま押水に意見する。


「よくよく考えれば、秋庭先輩達に告白するのに、あなたの許可が必要だってこと自体おかしな話だったわね。ごめん。好きにさせてもらうわ」


 背を向ける園田に押水は慌てて呼び止める。


「だ、だから待てよ! やめろって!」

「なぜ? そもそも二人の友情が壊れそうなのはあなたの責任じゃないの? あなたがはっきりさせなかったから今も彼女達は苦しんでいるんじゃない? あなたが手を引けば、もしくは誰と付き合うのかはっきりさせれば、いろんな問題が全て解決すると思うんだけど?」


 押水は頭をかきむしる。


「と、当事者として投げ出すわけにはいかないだろ! どうしていいのかなんて僕が知りたいくらいだ」

「なら手を引きなさい。中途半端な覚悟で真剣に恋している人の足を引っ張るものじゃないわ」

「ちゅ、中途半端じゃない!」


 押水の言葉に園田は鼻で笑う。


「二人のうち、誰も選べなかったあなたが? ハーレムでも作り気?」

「い、いい加減にしろよ! 急に二人から告白されて、即答なんて出来ないだろ! ほっとけよ!」

「即答できないのは好きじゃないからでしょ? それにほっておいたら逃げ続ける気なんでしょ? それじゃあ、困るの。さっきから聞いていれば、全部あなたの都合じゃない。先輩の友情を理由にするのは卑怯だわ」


 痛いところを突かれ、押水は更にキレる。


「なんだよ、僕が全部悪いのか! ああ、そうかい、僕が全部悪いよ! 悪い! これでいいだろ!」

「逆ギレしているところ悪いんだけど、結論として、身を引いてもらえることでいいのかしら?」


 押水は断固として首を縦に振らない。


「なんでそうなるんだよ! しつこいぞ! 答えはちゃんと出す! なんでそれまで待てないんだよ!」

「それじゃあ、答えが出るまでせめて他の女の子達とお弁当を食べたり、登下校したりするのは止めなさい。失礼でしょ、秋庭先輩達に対して。秋庭先輩達をキープしたくて答えを出していないだけじゃないの?」

「お前とは会話できないよ!」


 押水は教室を出ていこうとするが、クラスメイトが立ちふさがる。


「どけよ!」


 押水は怒鳴るが、誰もどかなかった。それどころか、ここにいる全員が押水を白い目で見ている。


「お前、マジ最低だな」

「なんだと!」

「女の子に言い負かされて逃げるのかよ」

「どこまでヘタレなんだ」


 クラスメイトに非難され、押水はそわそわしている。押水一人に非難の視線が集まっていた。

 これは不味い。このままだと、押水をつるし上げない勢いだ。

 これが元でイジメに発展したら、元も子もない。

 俺は止めに入ろうとしたが。


「待ってください、先輩。何をする気なんですか? まさか、出て行くつもりですか?」


 伊藤は怒気を含んだ目で、俺の袖を掴んできた。俺は即答した。


「ああ、そうだ。このままだと、押水が危ない」

「正気ですか? 私のやり方はうまくいっているじゃないですか!」

「確かにな。でも、二人を傷つけた」

「二人?」

「秋庭先輩と本庄先輩だ。彼女達の気持ちは本物だった。俺達が利用していいことじゃなかった」


 伊藤は目を丸くし、黙り込んだ。

 俺は伊藤に、自分に言い聞かせるように告げる。


「なあ、伊藤。伊藤の頑張りも考えも認めている。俺の態度が気に障ったのなら謝る。だから、考えてくれ。このままだと、クラスメイトが押水に危害を加えるかもしれない。俺達風紀委員は生徒同士のトラブルを解決することはあっても、暴挙を誘導してはいけないんだ。なあ、伊藤。俺達のやっていることは誰かの気持ちを踏みにじってでもするべきことなのか? 冷静になってくれ。頼む」

「……」


 伊藤は毒気が抜かれたように呆然としている。本来なら俺があのとき、押水と秋庭先輩達の会合したときに止めるべきだった。

 伊藤を監視すると言っておきながら、止めることが出来なかった。俺の責任だ。

 伊藤は俺の袖から手を離す。分かってくれてほっとする。

 俺があの場に割り込もうとしたとき、押水の前に、一人だけヤツを庇うように立つ女子がいた。桜井だ。


「ごめんなさい、そこまでにしてもらえないかな」


 桜井の謝罪に、園田が不審そうな顔をする。


「なんで桜井さんが謝るの? 桜井さんはそれでいいの?」

「私はいいから……これ以上は喧嘩になっちゃうよ。誰かが争うのは嫌なの」


 桜井は歯を食いしばり、園田先輩に懇願する。押水はここぞとばかり、園田先輩に噛みついてくる。


「みなみ、相手にしたくていいぞ。みなみには関係ないし、そんな嫌な奴の言うこと聞く必要ないぞ」

「……」


 園田に睨まれ、押水は慌てて顔を背ける。


「私、生まれて初めて殺意が芽生えたわ」

「ごめんなさい。今日はもう止めてください」


 桜井は深く頭を下げる。その真摯な姿に、園田は何も言えなくなっていた。


「なあ、俺からも頼む。悪い、今日は見逃してくれ」


 佐藤も一緒に頭を下げる。押水はそっぽむいたまま、園田先輩と顔をあわせようともしない。

 園田先輩は非難するように二人に問いかける。


「ねえ、これでいいの? 部外者が言うのもなんだけど、後悔するわよ、二人とも」

「私はいいの……」

「俺も、桜井がいいならそれでいい」

「……」


 二人に頭を下げられ、これ以上追及できないと考えた園田先輩は教室を出ていった。

 園田先輩が教室を出て行ったことで、教室の空気が変わった。もう、押水を弾圧しようとする声は出なかった。

 静まりかえった教室に押水の舌打ちする声だけが響く。


「なんだよ、あいつ、カンジわるいな」

「お前、黙れよ……」

「ん? 何か言ったか、友也」

「……」


 佐藤は押水に目もくれず、教室を出ていった。


「なんだよ、あいつ」

「……今日は屋上で食べるのは遠慮しよ? 中庭で食べよ」


 桜井が遠慮がちに提案するが、押水は却下する。


「なんでアイツの言う通りにしなきゃならないんだよ。無視すればいいんだよ。負けたみたいで嫌なんだよ。ほら、屋上にいくぞ」

「……うん」


 空気の読めない押水は今日も屋上で弁当を食べに教室を出ていった。神埼と西神は二人の後を追うことはなかった。

 大島さとみがこの場にいなかったのは幸運だろう。もし、この場にいたら彼女の性格からして、押水をぶん殴っていたかもしれない。

 クラスの中は外の賑やかさとは反対に静まり返っていた。




「ごめん、ほのか。マジ無理。演技続ける自信ないわ」


 園田は先程の怒りで最低限の言葉しか出てこない。

 あれから教室から離れた場所で俺と伊藤、園田先輩が集まっている。


「感情にながされるなんて、私もまだまだね。出直してくるから」


 園田先輩はそのまま去っていた。俺と伊藤は互いにため息をつく。


「失敗したな」

「……そうですね。先輩、すみません。今日はもうここまででいいですか?」

「ああっ」


 伊藤は肩を落としたまま、廊下をトボトボと歩いて行く。

 俺は伊藤に何も言葉をかけることが出来なかった。

 伊藤の策は失敗したが、クラスメイトは押水のハーレム状態に疑問を持てた。それは収穫だったが、暴動になりかねない危険性も感じた。


 俺は園田先輩と押水のやりとりを思い返していた。

 押水にとって、秋庭先輩と本庄先輩を失うデメリットは何だ? どうして、反感を買ってまでつなぎ止めようとするのか?

 押水の態度を見るに、二人に固執しているように見えた。あの二人は押水にとって特別なのか? それとも……。


 この一件、ただの恋愛がらみのトラブルではないような気がした。

 押水には何かある。それが分かれば、突破口になるかもしれない。

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